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空想と現実の狭間に 「電脳コイル」で考える近未来の脅威アニメに潜むサイバー攻撃(2/7 ページ)

» 2018年11月30日 08時00分 公開
[文月涼ITmedia]

F: 電脳世界は、基本的に現実世界と見える姿はそのままですが、「電脳ペット」と呼ばれる動物や、謎の黒い生き物などが存在します。ハッカーは「暗号屋」と呼ばれ、「メタタグ」というお札や地面に描く魔法陣のようなハッキングツールを使い、電脳世界や時には現実世界に干渉して、さまざまなことができてしまいます。暗号屋なんていうと、悪い大人を想像するかもしれませんが、劇中では子どもの遊びの延長線上のように描かれています。それこそ「俺が番長だぁ」「秘密基地だぁ」「ここが境界でバリアだぁ」みたいなノリで、ARを使った攻撃がバンバン飛び交います。

photo (C)磯 光雄/徳間書店・電脳コイル製作委員会

F: 面白い概念として、電脳空間にはバージョンが存在します。街中には古いバージョンの区画が残っていて、その新旧のはざ間に生まれる霧、謎の黒い空間やノイズ、コンピュータウイルスを具現化したような謎の黒い電脳生命体の正体「イリーガル」、バグが結晶化した宝石のような「メタバグ」などがストーリーを彩ります。

K: ボク、サッチー!

F: はいはい。この電脳空間は「メガマス」という会社が提供していますが、行政サービスとしては市役所の空間管理室が郵政局管轄として管理していて、バグや空間のひずみを、丸い飛行球体のキュウちゃん、そしてその母艦である「サッチー」が見つけ次第ビームを放って駆除・修正・消去します。サッチーは何というか、郵政局だけに郵便のキャラクターのような顔が付いた縦長のピンクのだるまです。

photo (C)磯 光雄/徳間書店・電脳コイル製作委員会

F: イリーガル、メタバグ、メタタグを含めて、映像化しにくい電脳世界をうまく表現していて「おおお」と思いました。

K: ボク、サッチー、ヨオシクネ!

F: 食らえ! メガビー(メガネからビームが出る!)

K: ボ・グ・ザ・ッ・ヂ・ー……

F: そのまましばらく、大人しくしててください。

 さて、主人公のゆうこ(小此木優子・あだ名はヤサコ)は引っ越してきた大黒市で、ニヒルなもう一人のゆうこ(天沢勇子・あだ名はイサコ)と出会い、少し浮世離れしたハラケンこと原川研一ほか、新しくできた友達と物語を展開します。

 前半は、電脳メガネを通じて体験する「6年生の初夏と不思議な現象」という感じなのですが、その端々に電脳空間の向こうにある影を感じさせます。やがてヤサコ、イサコ、ハラケンが、この影の奥に潜むそれぞれ思いや秘密に向かっていくことで、ストーリーが進んで行きます。

K: はっ! ボクはいったい何を!

F: あー、イリーガルに感染して、サッチーになる夢を見ていたんですかね。ということはKさん、実は電脳ペット?(メガネを上にずらして確認する)。あ、存在していましたね。

K: いや、存在しなかったらどうするんですか? 電脳世界の生き物?

F: おっ、Kさん、そこに転がっている本体に「NO DATA」って書いてありますよ。分離しちゃったんですね(※)。

(※)劇中の「電脳コイル現象」。電脳体と肉体が離れてしまうこと。

K: ギャー! 戻して! メタタグ、いやスペシャルなコイルタグで戻して〜!

F: ウッソでーす。この前半で描かれている、電脳メガネで見える「現実と入り交じった不思議な世界」。子どものころの現実と空想が混じり合った、あやふやな世界によく似ています。大人になって行ってみると、あったはずのものがない、存在したはずの路地がない。そんな記憶があっても、私たちが子どもだった当時はAR技術はありませんから全て空想なのですが、その空想遊びを追体験しているように感じました。

 さて、おっさんがそういった憧憬をしみじみと思い返すだけじゃなくて、連載のテーマ、サイバー攻撃のことを考えなければいけませんね。

電脳コイルの子どもたちが“凄腕の暗号屋”になれる理由

F: こういったARメガネが存在するようになったとき、子どもの生活はどんな風になっていくのでしょう。

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