F: まず定番なのは、ARグラスをハックして、自分が思い通りのものを見せることで子どもたちを誘導する攻撃でしょう。幼くて分別がない方がより効果があります。劇中でも電脳ペットの犬、デンスケを追って、ヤサコの妹の京子がどこかへ走って行ってしまったシーンがありますね。
K: うんちー!
F: はいはい。“大人の編集者”としてそれどうなんですか?
「うんちー!」を連呼する京子のように、そういったことを言いたいお年頃の子どもは、あっさり連れ去ることができるでしょう。無事に保護されても、おそらく詳しく状況を説明することができないでしょうし。たぶん現実とARの境界線もあやふやでしょう。
K: 大変申し訳ありません。大人としては大変不適切な発言でした。
F: ……(フッ)。また先ほどの「キノコが食べられるかどうか」などもハックして内容をすり替えたり、地図をハックして間違った道を教えたりなんてこともできるでしょう。便利になればなるほど日常的に使うようになり、疑いがなくなるので。その分ここぞという時の攻撃は効きやすくなります。
K: 毒キノコなのに毒がないキノコにしてしまうとか?
F: そう。最近のネットを見てると、うそというよりはデマとか誤解とか、発信者に悪意がなくても間違った情報が流れてしまう可能性があります。
利用者は、売られている事典より無料の集合知を利用しがちです。「信頼できるメディアのデジタルへの対応は総じて遅く、無料のものが素早く広がる」から、正確な情報は遅れがちなのです。GoogleがLensアプリの延長線上で、そういった百科事典のようなインフラまで提供する可能性はありますが、基本的に検索エンジンは、情報の中身の正確性までは保証してくれないので、検索結果の真贋(しんがん)は当てになりません。
K: 確かに、誤った情報の流れを見るとそうですよね。
F: ただ、現在のPCなどへのハッキングと比べて違うところがあります。そういった攻撃をしても、攻撃者は姿を現さずには金をもうけられない点です。京子を誘拐して身代金を要求しようとしたら、物理の世界に出なければなりませんし。「お金にならない」ということは、金銭目的は防げるので、相対的には攻撃の可能性が低くはなります。とはいえ、怨恨を抱く者や確信犯、愉快犯の攻撃は防げませんし、1回でも命に関わる問題は、何らかの注意喚起や対策が必要でしょう。特に子どもたちが使うものの場合は。
K: そうですよね。
F: さて、物語が後半にさしかかると、ステージは電脳空間の“影の部分”へと進んでいきます。
F: イサコは事故で死んでしまったかもしれない兄を、ハラケンはクルマの電脳ナビの故障でひかれて亡くなったガールフレンドのカンナを、そしてヤサコはイサコを追い、また記憶の中の初恋の人に会いに、遺棄された電脳空間である「あっちの世界」へと入っていきます。
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