F: 物語の中で騒動が収束した後、ヤサコの母親は彼女に、現実世界の大切さを説き「メガネ遊びはもうおしまい」と諭します。しかしヤサコは納得はせず、電脳空間の記憶もまた等しく大切な経験であると考えます。
ここは複雑な気分で、もし私に娘がいたら一も二もなく母親に賛成です。危険なものにはできるだけ近寄らず、現実世界での経験を大切にして生きてほしいと思います。セキュリティ官僚としては、うーん、「現実も大切にしつつ、注意して使ってほしい」かな。しかしネットやITの未来に希望を抱く人間としては、ヤサコにすごく共感するのです。
K: 監督の磯光雄さんにもお話を聞いたところ、その点を強調されていました。
F: 大人になるとお化けや妖怪を見なくなるという話があります。そこまで感受性の話はなくとも、どうやったって大人になれば、頭は現実の世界にシフトしていきます。空想や夢の世界を現実世界と等しく感じられるのは子どもの頃だけなのです。そしてこの現実の箍(たが)、つまり「こんなことできないよ」「考えたら無理でしょ」という、大人の常識という枠組みにはめこまれる前に、どれぐらい想像力を養えるのかは、子ども時代の空想、夢にかかっていると思います。意外とこれ、大人になって想像力のある仕事をするには必要なのです。
私たちが子どもの頃、その翼の1つがジュブナイル小説でした。これからの子どもたちにとって、それはAR/VRグラスやそれらを通じて見る仮想世界なんじゃないかと思います。
文字として見る小説も想像力を刺激しますが、電脳メガネのようなものは、より多元的に脳を刺激し、反復が激しく、すさまじく想像力を養うんじゃないかと思います。
K: でも小説は自分で映像的世界観を創造できますが、電脳メガネの場合、ARでもVRでも、誰かが作ったものになってしまうんじゃないですか? そうすると子どもたちの意識が、大人が作ったいくつかの世界観に収束していくのでは?
F: ……と思うでしょ。イマーゴの1つの機能は、思考を電脳空間に反映させることです。これは「考えていることを読み出すインタフェース」ということなので、使用者の意思を反映して、千差万別の世界を想像することも可能なんじゃないですか?
小説の1次元に対して2次元の漫画、3次元のアニメやゲーム、次元が高くなるほど世界の数が収束して、イメージが具体的になり世界観の数が限られるのは、実はマンパワー、つまり製作コストのせいです。
しかし、解決策はあります。先日「無限に都市が生成されるアルゴリズム」に関する記事が掲載されていました。これを子どもたちそれぞれのイメージから導き出すことができれば、それぞれがオリジナルの世界を生み出すこともできると思います。
それに電脳メガネのような機器は、翻訳機能を使って電脳空間で遠隔地の人と会う、ということもできるはず。これまでは話したり出会ったりできなかった、異国の子どもたちとも交流が可能になるはずです。
これは、私たち大人が持っている「常識」によってもたらされる文化の壁をぶち破り、さまざまな人種は当たり前に存在し、異文化を最初からそういうものだと認識する「新たな常識」を持つ世代を生み出すことにつながるかもしれません。
電脳コイルには、そうした「デジタルネイティブの子どもたちの未来」を見ます。だからこそ、こういったプラットフォームが登場したときに備えて、子どもたちが、そして大人たちも攻撃の対象にならないように準備を整えないといけないと思うわけです。
電脳コイルには郷愁と、そういった未来を見せてもらいました。ほいっ! 今回の話は以上です。原稿を送りましたよ!
K: え、オチは?
F: え? オチ? うーん……。ネットのうわさによると、いまKさんに送った原稿ファイルには怪しいマクロが入っているそうです。そんでもって、サッチーは、バグやウイルスを見つけると、それが入っている物もろとも攻撃するんですよね〜。
K: え?
F: サッチーは壁を通り抜けてどこでもやってくる!
K: えええええ?
F: ほら、そこの後ろの壁に郵政局の郵の字が!
K: ぎゃあああああああ!
F: そろそろ「サイバーセキュリティ小説コンテスト」の審査も佳境です。
K: どうでした?
F: 盛況も盛況。サイバーセキュリティというニッチなくくりだったのに、応募数は通常のオールジャンルのコンテストに近い数が集まりました。
K: じゃなくて、Fさんが匿名で応募したヤツですよ!
F: うっ! 書きすぎて文字数がオーバーして、書いた後にぶった切って投稿したり、“カンナがけ”も足りなかったりしたので……落ちたはずです。てへ。普段考えている「こういう攻撃もできる。ああいう攻撃もできる」という思い切り凶悪なサイバー犯罪をいくつも盛り込んだんですが(笑)
K: 読んでみたいな。
F: 実はカクヨムで公開されてますよ。タイトル、ペンネームは内緒ですが。それとは別に、内閣サイバーセキュリティセンター(NISC)の仲間たちと一緒にコミケ(コミックマーケット95)に応募したら受かりました! 小説ではなく「日本サイバーセキュリティ昔話」という漫画本を出します。サークル名は「サイバー官僚野戦部隊」、12月31日(月)、3日目の東地区U-08aです。お暇な方、ぜひ遊びに来てくださいね!
K: 取材に行っていいですか?
F: えー。顔バレはまずいでしょ!
K: 散々顔出してるやん!
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
Special
PR