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行政にもRPA導入の波 「あらゆる業務が対象になり得る」──神奈川県の実証事業で見えてきたもの(2/3 ページ)

» 2019年03月07日 07時00分 公開
[山崎潤一郎ITmedia]

 「通勤手当の認定」は、人事異動や転居の際に、職員から提出された通勤届の内容を検索ソフト等を利用して確認する作業である。今回、神奈川県庁は次の3つの作業をRPAで実施した。

  • 職員自宅から職場までの距離確認
  • 自宅最寄り駅・バス停の検索、
  • 経路検索(職員が申請した経路との比較)

 もう1つの「災害時の職員の配備計画の作成」は、勤務時間外・休日に災害が発生した場合の配備人員を調整し、名簿を自動作成するもの。こちらは災害時に、自宅から派遣先までの徒歩所要時間などを検索ソフトで確認し、職員の配備名簿を作成するものだ。2件の業務の詳細は、図の業務フローでご確認いただきたい。

photo 「通勤手当の認定」では20分/件の処理が7分に、「災害時の職員の配備計画の作成」は約30日かかっていたものが約5日となる時短効果があった(神奈川県「RPA実証事業実施結果」から引用)

「部分導入」でも十分な効果が期待できる 実証実験の結論と課題は

 実証事業では(1)正確性、(2)迅速性、(3)継続性の観点から評価を行った。実証実験に携わった足立早苗課長(総務局ICT推進部情報企画課)は、「総じて導入効果あり」と結果を評価しているという。

 人による作業と比較して、RPAがどの程度まで正確に処理できたかを問う(1)正確性において、「通勤手当の認定」では、51.3%の一致率だった。この数字だけを見ると「半分しか一致しなかったのか」と思ってしまうが、これは「想定の範囲内」(足立課長)であり、RPA導入のハードルとなるようなものではないという。

 不一致分はRPAのシステム設計時に、実行ルールを組み込んでいなかったデータがあぶり出されたものだった。これが「想定の範囲内」という意味だという。

 具体的には、職員から提出された住所データの番地や、市町村の表記に漢数字や片仮名が混在していたり、新幹線通勤といったレアケースが混在していたためである。

 足立課長は、逆に文字列等が適切に入力されているものやルールを組み込んだデータを対象に正確性を判断すると「100%合致した」と胸を張る。ここにRPA導入時に考慮すべきポイントが隠れていそうだ。

 RPAの設計時、正確性を向上させるために、イレギュラーな文字列やレアなケースに細かく対応することは可能だ。ただ、条件を詳しくに追い込めば、それだけルール等の組み込みに多くの手間が発生し、デプロイに時間がかかる。コストも上昇するだろう。

 そこは、正確性との間でトレードオフの関係になるわけだ。井上肇さん(政策局ICT推進部情報企画課ICT戦略グループ主査)は、事前に入力データのルールを明確化したり、レアケース対応をどこまで実施するかの線引きをすることで、「正確性については、一定のしきい値を超えたら良しとし、その先の不一致分は人間が処理を実施するという考え方もある」と割り切る。

 このRPA処理と人手による処理を連携させる考え方は、上記のイレギュラー対応の話だけにとどまらない。

 「今回の実証実験で、県庁内のあらゆる業務がRPA化の対象となり得ることがわかったが、業務の中には、一連の作業フローで全てのプロセスをRPA化する必要はないものもあることが判明した」(足立課長)

 業務のある一部分だけを自動化することで、RPAと人手とのバランスを取りながらの部分導入でも十分な効果が期待できるということだ。

 残り2つの評価ポイントである、「迅速性」と「継続性」については、2つの業務ともに大いに満足できる結果だったという。「通勤手当の認定」では、1件あたりの処理時間は、これまで20分を要していたが、RPAだと7分に短縮できた。

 「災害時の職員の配備計画の作成」は、約30日が約5日にそれぞれ短縮できた。「継続性」の部分では、2件の業務共に、職員が他の作業を実施している間に並行して処理を行うことや、夜間・休日にも処理が可能であることが確認できたという。

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