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欲しいものは“物理メディア”で買うべき? ピエール瀧容疑者逮捕で考える「デジタル時代の購入と所有」

» 2019年03月14日 19時42分 公開
[村上万純ITmedia]

 ピエール瀧容疑者が麻薬取締法違反容疑で逮捕されたことを受け、多くの人たちがその“余波のあおり”を受けている。

 瀧容疑者は石野卓球さんとテクノユニット「電気グルーヴ」で活動している他、近年は俳優やタレントとしてマルチに活躍。今回の逮捕を受けて、電気グルーヴのCD・映像商品の出荷やデジタル配信は停止が決定、瀧容疑者がCGキャラクターとして出演していたゲーム作品も異例の販売自粛を決めるといった対応が相次ぎ、ネットでは「やり過ぎ」と批判の声が上がっていた

 突然の自粛に戸惑う声も多い。Twitterでは「自粛回収される前にDL版購入」「自粛の報道を受けて購入」など、音楽やゲームなどの作品を急いで購入する人もいれば、「Spotifyとかでも聴けなくなるの?」とつぶやく定額制音楽ストリーミングサービスの利用者も多く見られた。

電気グルーヴ Spotifyの視聴画面(3月13日撮影)

 近年は音楽や映像の定額配信サービスが普及し、CDやDVDなどを購入する機会がめっきり減ったという人もいるだろう。買い切りのパッケージ版を購入するとしても、物理的な商品だけでなくダウンロード購入の選択肢もある時代だ。デジタル時代の購入や所有について、いまいちど考えてみたい。

デジタル時代の購入と所有

 3月14日午後6時時点、Spotify、Apple Music、Amazon Music Unlimitedなどの音楽配信サービスでは電気グルーヴの楽曲を視聴でき、Twitterでも「サービス名 電気」などで検索すると「まだ視聴できる!」「消えないでほしい」などのファンの声が根強い。iTunesのランキングでは、ヒット曲「Shangri-La」や「30」などのアルバムが上位にランクインしている。

電気グルーヴ Amazon Music Unlimitedより
電気グルーヴ電気グルーヴ iTunesのランキング

 薬物の所持や使用が事実なら、もちろんこれはいけないことであるし、芸能人として活動する以上、多くの関係者に影響が及ぶことも当然考えなければならない。放送中のテレビドラマやCMに影響が出るのも想像に難くない。

 しかし、自粛の影響が過去作品にまで及ぶことについては否定的な意見が多い。不祥事のたびに過去作品まで自粛の対象になると作品のオリジナル版を視聴する機会が減り、文化の発展という面でもあまり良い状況とはいえない。

 ただし、月額定額で多くのコンテンツを視聴できるサブスクリプションサービスの場合、利用者はコンテンツそのものを購入=所有しているわけではない。プラットフォーム側の対応によって突然コンテンツを視聴できなくなることもある。そうした事情もあり、ダウンロード機能が付いているサービスで急いで音楽ファイルをダウンロードする人たちの姿も散見された。

 またダウンロードで「購入」する場合も、必ずしも「購入=所有」と言い切れない場合もある。

 例えばKindleのような電子書籍アプリで書籍をダウンロード購入した場合は、「非独占的な使用権が付与」されるだけで、「コンテンツプロバイダーからお客さまにライセンスが提供されるものであり、販売されるものではありません」とされている(Kindleストア利用規約より)。仮にコンテンツプロバイダーが何らかの理由でコンテンツの供給をやめれば、Kindleアプリ内でそのコンテンツの閲覧はできなくなる。

「正規版が出回らない」ことの意味

 「時すでに遅し」とならないために、欲しいものはCDなりゲームのパッケージ製品なり物理メディアで購入し、手元に残しておくべきなのだろうか。今回のように大きな話題になってしまうと、転売屋に目を付けられ、ファンが作品を入手できないという問題も生じる。

 セガゲームスが販売を自粛したゲーム作品「JUDGE EYES:死神の遺言」のメーカー価格は8290円。フリマアプリ「メルカリ」では定価を超える出品も見られ、一部には「15本セット」をうたう高額出品もあった。自粛のせいで正規版が出回らなくなり、結果的に転売屋や違法サイトが潤ってしまうというのも皮肉な話だ。

 物理的な製品はサービス提供側の都合で突然利用できなくなったりしないが、紛失や劣化、専用の再生機器が市場からなくなるなどのリスクはある。一方のデジタルコンテンツは利便性が高い一方で、利用者側の「権利」についてまだまだ改善の余地があるように思える。例えば購入した作品はメディアやサービスを変えても利用できるような柔軟な仕組みができれば、安心して購入できるだろう。ひいてはコンテンツ市場も広がりを見せるかもしれない。

 今回の一件は、コンテンツの流通の在り方も含め、デジタル時代における「所有」の意味について、あらためて考えさせられる出来事だった。

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