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「今回のミッションは100点満点中1000点」 はやぶさ2、2度目の着地成功

» 2019年07月11日 19時52分 公開
[谷井将人ITmedia]

 「今回のミッションは100点満点中1000点で、本当に言うこと無し。事前のチームの動きも含めて良かった」――探査機「はやぶさ2」のプロジェクトマネジャーを務める宇宙航空研究開発機構(JAXA)の津田雄一さんはこう話す。

photo はやぶさ2プロジェクトマネジャーの津田雄一さん

 はやぶさ2が小惑星「リュウグウ」で2度目の「タッチダウン」(着地)に成功した。7月11日午前9時45分ごろ、リュウグウの地表から高度30メートルの地点まで降下した後、はやぶさ2の自律運転で午前10時20分ごろに着地。直後に撮影された画像から、予定していた降下ポイントの誤差1メートル以内に着地できたと推定した。

 午前10時39分ごろにはリュウグウの地下にあった物質の採取に成功したとみられる。今年4月、金属の塊をリュウグウに打ち込んで人工のクレーターを作り、地下にあった物質を地表に舞い上がらせていた。

photo 中央の黒いもやが今回の着地で発生したもの。もやの右下の少し暗くなっている部分が人工クレーター

 リュウグウの探査と、地表や地下の岩石をサンプルとして持ち帰るミッションはおおむね成功。あとはサンプルを収めたキャッチャーをカプセルに収納し、はやぶさ2で回収して地球に持ち帰るだけという。

 「太陽系の歴史のかけらを手に入れた。正確な地点に降りられたことも含め、太陽系の歴史や生命の起源を探るという目標に見合った結果が出せている」と津田さん。今回の成果で、世界で初めて月より遠くの天体で地下物質の採取に成功したことになる。

はやぶさ2から送られた画像

 2回の着地でリュウグウの地表にある物質と地下にあった物質を収集できた。同じ地点の地表と地下にある物質の分析ができることは非常に価値があるとされている。両方に違いがなければ、「小惑星の表面は物質がよくかき混ぜられている」、違いがあれば表面はかき混ぜられておらず「水や有機物が地下に保存されやすい」と考えられるという。

 実際に2回目の着地で、はやぶさ2が撮影した画像を1回目の画像と比べると、舞い上がった破片の形に違いが見られたという。リュウグウはどこを見ても同じような地表が続いていると考えられていたが、実際は場所によって状況が異なる可能性がある。

photo 2回目のタッチダウンの4秒後に撮影された映像

 データの分析を行ったJAXAの渡邊誠一郎さんは、「2回目(のサンプル)を採取できたことに大きな価値がある。1回だけでは最初のイメージで(考えが)固まってしまったかもしれないが、2回目で違いが示されたおかげで、次々に考察を加えられるようになった」と、今回の成功を評価する。

チームワークをもって「淡々と完璧に実行」

 2度目の着地に失敗して、1回目に採取したデータが持ち帰れなくなるかもしれないといった理由から「中止すべき」という消極的な意見もJAXAの中にあった。しかし、消極的な意見を「健全な意見」として受け入れながらも、「やらないよりやった方がメリットが大きい」として実行に踏み切った。最初の着地成功で得られたノウハウがあったことも再着陸を後押ししたという。

 ミッション成功の秘訣について、津田さんは「チームワークがよかった」と振り返る。自己批判をもってあらゆる状況を想定して対策した結果、本番では何事もなくうまくいったという。

 はやぶさ初号機のミッションは『おかえり、はやぶさ』『はやぶさ 遙かなる帰還』など、プロジェクトを進行する上での葛藤をテーマとした映画が作られるほどの“ドラマ”が展開されたが、今回は予定通りにミッションが遂行がされた。会見で記者から寄せられた「あっけないという声もあるが、どう受け止めているか」との質問に対し、津田さんは「映画化はうらやましくもある」としながらも、「きちんとした技術はドラマにならない。目指したのは『淡々と完璧に実行』であり、今回はこれがちゃんと証明された」とコメントした。

 今後は、リュウグウに探査機を近づけるのではなく、観測機器を使って上空からの観測を行う方針だ。津田さんは「一番大きい山は越えたが、寂しさも感じている。この先は着実な運用を続けていく必要があるが、それだけではもったいないので、1日たりとも無駄にならないようにしたい」と今後の運用への意気込みを語った。

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