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VR酔いと苦闘した「エースコンバット7」開発現場 必要だった「捨てる覚悟」(1/2 ページ)

» 2019年09月04日 19時26分 公開
[片渕陽平ITmedia]

 実写と見間違うほどリアルな雲が広がる空で、敵の戦闘機とドッグファイトを繰り広げる──。バンダイナムコエンターテインメントが1月に発売したシューティングゲーム「エースコンバット7 スカイズ・アンノウン」(プレイステーション4版)は、パイロットの視点でそんな体験ができるVRモードを搭載し、ファンからは「完成度が高い」と評価を受けた。

 だがVRモードを実装するには、開発側の苦悩があったという。開発チームの山本治由さん(バンダイナムコスタジオ CS技術本部)は「開発現場では暗雲が立ち込めていた」と振り返る。

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 山本さんは、VR空間で女の子と触れ合えるゲーム「サマーレッスン」(10年発売)の開発に携わった経験を買われ、エースコンバット7の開発チームに加わったが、最初は「課題が山積みだった」という。特に、視界の動きと三半規管の感覚がうまく対応せずに起きる「VR酔い」をいかに軽減するか、頭を悩ませた。

 VR酔いを抑えつつ、ゲームへの没入感を高めるために、山本さんらはどのような工夫をしたのか。ゲーム開発者向けイベント「CEDEC 2019」(9月4日、パシフィコ横浜)で、開発の舞台裏を明かした。

アイデアを次々ボツに 必要だった「捨てる覚悟」

 VR酔いの対策として、山本さんらが検討したアイデアの1つが、プレイヤーの視野を制限する手法を採ることだ。この手法は、画面に影を作ってプレイヤーが見える範囲を狭め、動く物体が視野に入る回数を少なくすることで、VR酔いを抑えるというもの。機体が右に進むときは画面の左側を暗くする――というように、制限する範囲をタイミングよく動かし、酔いを和らげる手法も考えた。

 これらは他のVRゲームにも採用されているというが、山本さんは「エースコンバットでは(世界観に合わず)違和感が生じる」と考え、結局は取り入れなかった。「なぜ視界に黒いもやがかかっているのかを、プレイヤーに自然に納得してもらうための説明ができなかった」と山本さんは説明する。

 視界を制限すると、プレイヤーが機体操作中にチェックする計器が見づらくなるなど、プレイに支障が出るという懸念もあった。

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 ボツにしたアイデアはこれだけではない。機体がハンガー(格納庫)から滑走路に出て離陸するまでは、プレイヤーが操作しないため酔いやすいと考え、進行方向が分かるようにマーカーを表示することを検討した。しかし、ゲームの世界観を壊すといった理由で採用しなかった。

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 山本さんは「(ゲームの開発現場では)試作段階で機能を作り込んでしまい、なかなかうまくいかないのに、捨てるのが惜しくなって開発が遅れる場合もある。今回は、最初から『捨てる覚悟』を持つ、という開発方針だった」と明かす。設計、開発、テスト、改善といった一連のサイクルを速くし、繰り返していくことを重視したという。

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