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ソニーが「ものいう株主」の提案を拒否、半導体事業を分社化しない理由

» 2019年09月21日 07時00分 公開
[芹澤隆徳ITmedia]

 ソニーは、「ものいう株主」として知られる米国の投資ファンド、Third Point(サードポイント)が求めていた半導体事業のスピンオフを拒否した。9月17日には吉田憲一郎社長の名前で株主に向けてレターを発信。「半導体事業はソニーの成長をけん引する重要な事業の1つ。長期的な企業価値向上に資する」とし、取締役会が全会一致で提案を拒否したと伝えた。

ソニーの吉田憲一郎社長(5月の経営方針説明会で撮影)

 半導体というとメモリやLSIを連想しがちだが、ソニーの場合は売上の約85%をイメージセンサーが占める。このため、7月30日に発表した2019年第1四半期決算では、それまで「半導体分野」としていたセグメント名称を「イメージング&センシング・ソリューション分野」に改めた。

 ソニーのイメージセンサーは、1970年に着手したCCD開発に始まり、デジタルカメラやスマートフォンの普及で事業を拡大、スマホ向けを中心に世界1位の市場シェアを誇る(2018年、英IHS調べ)。近年はクルマの運転支援システムやIoT機器にも用途を広げ、例えば18年度にクルマの予防安全性能評価プログラム「JNCAP」で最高ランクの「ASV+++(トリプルプラス)賞」を受賞したトヨタ自動車の3車種(アルファード/ヴェルファイア、クラウン、カローラ スポーツ)は、全てソニーのCMOSセンサーを採用しているという。

 9月18日に開催されたソニーのプライベート展示会「Sony Technology Day」では、その技術力の一端を見ることができた。

人の目を超えるイメージセンサー

 車載イメージセンサーには、(1)暗い夜道でも歩行者や標識をいち早く発見する、(2)なるべく遠い場所で標識や障害物を視認する、(3)逆光でも物体や標識の内容を認識するなど、カメラやスマホ向けとは異なる性能が求められる。ソニーの車載イメージセンサーは、月明かりのような低照度環境(0.1ルクス程度)でも色を識別でき、160メートル先の速度標識を視認できる解像度、逆光でも視認できる120デシベルのダイナミックレンジを実現。またLEDを使った信号機や看板を撮影したときに起こるフリッカーを認識に支障のないレベルまで抑制できる。

 ただし、濃霧時のようにカメラが先にある物体を捉えられないケースや、トンネルや鉄橋のようにノイズが発生する場所ではイメージセンサーだけでは対応できない。そこでソニーが開発している「センサーフュージョン技術」は、複数のセンサーを組み合わせて互いの弱点を補うというもの。車載用として、電波を発して方向や距離を測定するレーダーをイメージセンサーと組み合わせた。

 「カメラで物体を視認できなくても、レーダーで接近速度を測ることでクルマなのか、障害物なのかを判別できる」(ソニー)

悪天候や逆光でも物体を認識できる「センサーフュージョン技術」。左の「ソニー方式」は各センサーのRAW(生)データを使用する

 センサーとレーダーからそれぞれRAW(生)データを取り出し、精度の高い特徴抽出と認識処理が行えるのはセンサーメーカーならではのメリット。これにより、悪天候や逆光時の物体認識精度を高めたという。

 一方、AIBOのような家庭用ロボットに向けて開発しているのが、各種センサーとエッジAIを組み合わせる空間認識システムだ。18日に発表した「CXD5620GG」は、最大12チャンネルのセンシングデータを入力し、デプス検出エンジン、特徴点検出、ディープラーニング、SLAM(マッピング)などを実行できるハードウェアアクセラレーター。バッテリー駆動のロボットにも使える低消費電力設計で、周囲をリアルタイムにセンシングすることで、「人と同じ場所で安全にタスクを遂行するロボットが作れる」という。

「CXD5620GG」に5つのステレオカメラを接続した例

半導体事業を分離しない理由

 半導体事業の分離・上場を求めたサードポイントは、ソニーの他の事業との相乗効果が少ない点を理由に挙げていた。

 しかしソニーによると、現在のCMOSイメージセンサーはほとんどが「デジタルのロジックを貼り合わせた積層型センサー」であり、「プレイステーション 3」のシステムLSI開発で培った先端MOS LSI技術を応用したからこそ、実現できたという。ソニーは株主向けのレターの中でそうした経緯に触れ、イメージセンサーは「テクノロジーと事業の多様性が新しい価値を創造した一例」と紹介している。

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