「AIは導入がゴールじゃない」 先駆者たちに学ぶ、“AI活用のキーワード”

» 2019年12月13日 10時00分 公開
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 AIが人間の代わりに膨大な量の文章をチェックしたり、AIが社員の離職率を予測したり──と、多くの企業がAIを活用した業務変革に取り組んでいる。しかし、思うような成果を出している企業は決して多くない。

 では、AIをうまく活用できている企業は何が違うのか。AI開発を手掛けるFRONTEOが11月22日に開催したイベント「AI Business Innovation Forum 2019」で、さまざまな業種のAI導入事例が紹介された。各社の事例から、AI導入を成功に導くポイントをまとめた。

“AIと人間の協働“を前提にしたワークフローの見直しを

FRONTEOの武田秀樹取締役CTO 兼 行動情報科学研究所 所長

 FRONTEOの武田秀樹取締役CTO 兼 行動情報科学研究所 所長が紹介したのは、同社が米国で手掛けるリーガルテックAI事業の事例だ。訴訟に関する膨大な文書をチェックする弁護士のレビュー業務に、自然言語処理が得意なAIエンジン「KIBIT(キビット)」を使うことで、人間がチェックする量を減らすことに成功した。武田CTOは「これまではレビュアーの負担が大きかったが、AIを使うことでレビュー作業に掛かる時間が半分になった」と胸を張る。

 ワークフローは、AIが重要だと判断した文書を人間がチェックし、その内容をAIが再チェックするという流れだ。通常、AIの精度を高めるには大量の学習データが必要だが、KIBITなら少ない学習データで高い精度を出せるという。この事例でも、学習データが少量で良かったため、短期間でAIを導入できたとしている。

 武田CTOは「人間が行う業務やワークフローを的確に構造化し、それを踏まえてAIを構築することが大切だ」と指摘する。AIと人間の協働を考える上で示唆に富んだ事例といえるだろう。

弁護士のレビュー業務にAIを活用

「AIはRPAとセットで入れるべし」 “月200時間削減“のイオン銀行

イオン銀行 法務・コンプライアンス部の小杉剛雄統括マネージャー

 「AIはRPAとセットで入れるべきだ」と話すのは、イオン銀行 法務・コンプライアンス部の小杉剛雄統括マネージャーだ。同社は、店舗で投資信託の営業をするときに、顧客との面談を記録し、その内容が適切かどうかをコンプライアンス部でチェックしている。

 面談記録の数は膨大で、チェック業務の時間は月間250時間に上っていたという。担当者の負担を軽減できないかと考え、同社はAIとRPAの導入を決めた。両者を効果的に組み合わせたことで、月間作業時間は5分の1の50時間まで短縮できたという。

 現在の業務では、AI(KIBIT)に文章内容をチェックさせ、RPAに必須項目の入力の有無や異常値などの形式的な内容をチェックさせている。AIは2000字程度の文章を処理し、銘柄の選定理由が明記されているか、投資初心者の顧客に対して必要な説明をしているかなどを確認する。担当者は、コンプライアンス違反がありそうな案件だけを目視すればいい。

 「人間だと作業にバラつきが出るが、それもなくすことができた」と小杉統括マネージャー。作業時間を削減できただけでなく、チェック業務自体の精度も上がったことを明かした。

AIとRPAを活用した面談記録のチェック

 また、小杉統括マネージャーは自身の経験を基に、AI導入・活用の注意点を説明した。まずは教師データの作成だ。面談記録の事例では、不適切な事例がなかなか集まらずに苦労したという。AIの精度を高めるには、適切な事例と不適切な事例をバランス良く集める必要がある。そのため、「教師データはAI導入が決定する前から集め、将来に備えておくべき」とアドバイスした。

 続けて、システム構築時の要件定義は「なるべく細かく行うべき」と指摘。AIが銘柄の選定理由などをチェックしていることは先述した通りだ。このようにチェックすべき項目を具体化・細分化しないと、「担当者が、文章のどの部分に問題があるのか分からない」という。そして、AIの精度を上げるには、日々新たな教師データを投入していく必要がある。小杉統括マネージャーは「AIを絶えず進化させることも、忘れてはならないポイントだ」と強調した。

「この業務はAIで代替できないか」 現場の意識が成功への第一歩

SMBC日興証券の中村哲也室長(システム統括部 ITイノベーション推進室 兼 経営企画部)

 SMBC日興証券では、社外宛メールの内容チェックにAIサービスの「KIBIT Email Auditor」を使用。不適切とされる内容を早期に発見する目的で、一部の部門の外部送信メールを適宜チェックしている。KIBIT導入前は、毎月数万件のメールのうち、一部を無作為に抽出し、担当者が目視するという人海戦術をとっていた。

 本来は全メールをチェックしたい所だが、従来の方法では担当者の負担が大きく、時間と労力が掛かりすぎるという課題があった。同社の中村哲也室長(システム統括部 ITイノベーション推進室 兼 経営企画部)は、「サンプリングする方法では、疑義のあるメールを見逃す懸念もあった」と当時を振り返る。

 人件費などのコストを抑えながら、コンプライアンスを強化できないか――そう考え、中村室長主導でKIBITを導入することになった。自社データで学習させたKIBITを用い、今では全メールをチェックしているという。AIがメールのリスク度を数値化してくれるので、担当者は疑義のあるメールを確認するだけで済むようになった。中村室長は「担当者の負担を大幅に軽減できた。時間の創出により、担当者は専門性の高い他の内部管理業務に従事できる」と話す。

 中村室長はAI活用のポイントについて、「日頃から業務の内容をAIで代替できないかと考える、現場担当者の視点が必要だ」と説明。AIの精度を高めるための効果的な学習データは数が少なく収集に苦労するため、早めに取り掛かるのが成功への近道になりそうだ。

AIが離職率を予測 人手不足の医療業界を救えるか

ソラスト 人事総務本部の菊池雅也部長(HRtech推進部)

 医療・介護サービス等を提供するソラストは、離職する可能性のある社員をAIで予測し、離職防止に取り組んでいる。医療事業で約2万1000人の社員を抱える同社には、毎年約5000人が入社するという。これは一定数の社員の離職を前提にした採用で、人事総務本部の菊池雅也部長(HRtech推進部)は「以前、入社1年未満の社員の離職率は約4割に達していた。離職によるサービス品質や生産性の低下は経営課題になっていた」と話す。

 課題を洗い出して解決策を考えるうちに、社員面談用アンケートのコメント欄に書かれた文章をAIで分析し、離職の予兆を察知する――という方法を思い付いたという。コメント欄には、業務内容以外にも、家庭環境や人間関係の悩みなどが書かれていた。菊池部長は「離職した社員と在籍社員の文章をそれぞれ分析することで、離職の予兆が分かるのではないかと考えた」と説明する。

 テキストマイニングツールなどを複数検討したが、「少量の教師データで十分な学習効果が得られる」という理由で、KIBITを採用した。まずは約300件の離職者のコメントを教師データとして学習させ、独自にチューニングして精度を高めていったという。

 AIでコメント欄を分析して離職しそうな社員を予測し、離職しそうだと判定された社員にはフォロー面談を行った。AIが離職しそうだと判定した社員のうち、フォロー面談を実施しなかった人たちは半年後に40%が離職したが、面談をした場合の離職率は20%程度だった。菊池部長は「フォロー面談を実施することで、離職を大幅に防ぐことができた」と胸を張る。

 同様に、AIが離職しそうだと判定しなかった場合の離職率は約17%だったことを合わせ、「AIは正確に、離職しそうな社員を抽出することができた」と検証結果を語った。

 コメント欄から離職の可能性を判断することは人間には難しいことだが、KIBITが出した結果は、先輩社員やフォロー面談実施者の肌感覚とあまりズレがなかったという。

AI活用の意識

 「やみくもにAIを導入しても失敗する。課題を洗い出し、ゴールを明確にした上で、本当にAIが適しているかどうかを判断してほしい」(菊池部長)

日本企業が世界で勝つには

 各社に共通するのは、「AIを導入することがゴールではない」ということだ。導入前に、課題を洗い出し、どういった業務にAIを適用するべきかを徹底的に考え抜く姿勢が求められる。そして、導入後はAIの精度を上げるために教師データの最適化を見極めていく必要がある。

 日本はAIの技術開発やビジネス活用で、米国や中国などに後れを取っているといわれている。こうした状況に対し、FRONTEOの守本正宏CEOは「世界で勝つには、AIを効率良く学習させることと、そのために効率良く学習できるAI開発の両方が必要だ」と話す。米中が膨大なビッグデータを使ってAIを成長させていることを受け、「(特定領域の)少量データで学習ができ、少ないエネルギーで稼働し、スーパーコンピュータにも勝る性能が出せるAIを“microAI”と呼ぶ」と宣言した。

 「microAIを開発・実用化し、活用することこそ、日本が世界で勝つための最も有効な戦略だ」と提唱し、日本企業の道筋を示した。

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