2019年も、毎日のようにAIのニュースがメディアで取り上げられました。矢野経済研究所が「日本企業のAI導入率は2.9%にとどまる」と発表したのは18年12月のこと。まだPoC(概念実証)から先に進めていない企業も多い印象ですが、プログラミング不要で機械学習を行えるGUIツールの普及などもあり、AI開発は少しずつ身近なものになってきています。
AIの現場で働く人たちをインタビューする本連載でも、金融、小売、スポーツ、官公庁などさまざまな領域を取材してきました。AIの活用事例も徐々に多様化してきたといえるでしょう。
今回は、AI業界の事情に詳しいマスクド・アナライズさんと、19年のAI業界を振り返りました。
いま話題のAI(人工知能)には何ができて、私たちの生活に一体どのような影響をもたらすのか。AI研究からビジネス活用まで、さまざまな分野の専門家たちにAIを取り巻く現状を聞いていく。
(編集:村上万純)
松本:2019年は、AI人材育成に乗り出す企業が多かった印象です。NECや日本マイクロソフトなど大手企業の他、経済産業省もAI人材育成の政策「AI Quest」を始めました。アマゾンジャパンも、AI人材の育成を目的とした中高生向けのプログラミング教育に取り組んでいます。
マスクド:AIの基礎や活用方法を学べる法人向けオンライン講座や、PythonやRなどを学べる個人向けプログラミングスクールは一気にレッドオーシャン化しましたね。
松本:一方で、ここ1年で「nehan」「MatrixFlow」、ソニーの「Prediction One」など、プログラミング不要のデータ分析、AI構築ツールも充実してきました。初心者向けツールが増えているものの、ゼロからプログラミングを学ぼうという需要も根強くありますよね。
マスクド:プログラミングを学んだほうが、処理を理解できると考えるのかもしれませんね。プログラミングへの関心や憧れもあるのではないでしょうか。
松本:マスクドさんもITmediaの連載で言及されていますが、15年〜18年ごろは怪しいAIベンチャーに企業が振り回される話をよく聞きました。今でもユーザー企業側はベンダー選びが難しいですよね。
マスクド:19年はAIブームが落ち着き、怪しいAIベンチャーのメッキが剥がれた年だったのかもしれません。「うちはAIをやれますよ」と言うAIベンチャーは多いと思いますが、ユーザー企業は彼らの実力を推し量るのがなかなか難しい。もちろん真摯(しんし)にAI開発に取り組んでいるベンチャーもいますが、玉石混交の状態だとどれを選んでいいか分からないでしょう。
松本:ユーザー企業は、どのAIベンチャーとタッグを組むかの目利き能力がだいぶ養われたのでしょうか? 現場ではPoC(概念実証)から先に進めない“Po死”もよく起きていますが。
マスクド:ツールベンダーを選ぶときに迷う企業のほうが多いと思います。
松本:日本企業がそうした所でつまづいているうちに、中国に追い抜かれてしまいました。中国の「BATIS」(Baidu、Alibaba、Tencent、lflytek、SenseTime)の躍進はすさまじいものがあります。
マスクド:日本企業は、AIの前にITでも遅れていますからね。外注依存、ソフトウェア軽視の傾向がいまだに続いています。大企業でも、例えばパナソニックは17年にマイクロソフトの樋口泰行さん、SAPの馬場渉さん、19年にGoogleの松岡陽子さんを招聘(しょうへい)するなど、変わろうとしているなという印象です。
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