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「あれがドコモショップのリアル」──“クソ野郎”事件はなぜ起きたのか 現役店員が漏らした本音(1/2 ページ)

» 2020年01月14日 19時15分 公開
[井上輝一ITmedia]

 「彼は口が悪かったが、紙にあったような客対応自体は一般的に行われていることだ」。あるドコモショップ店員は、ITmedia NEWSの取材に対しこう打ち明けた。

 1月8日、あるTwitterユーザーがドコモショップの書類の画像を投稿した。

 「親代表の一括請求の子番号です。つまりクソ野郎。新プランにかえて、Disneyはベタ付け。『バックアップめんどくさくないですか?』からのいちおしパックをつけてあげて下さい。親が支払いしてるから、お金に無トンチャクだと思うから話す価値はあるかと」──。

 これはTwitterユーザーの知人が受け取ったもので、ドコモショップに機種変更に行った際に書類に紛れていたという。

 「クソ野郎」などと客を侮辱する内容で、当該ツイートは2万RTされるなど話題に。メディアも9日には報道し始め、NTTドコモは10日に謝罪文を発表。問題の発生した「ドコモショップ市川インター店」を運営する兼松コミュニケーションズは、当該店舗を「社員研修のため、11〜14日の間お休みする」とした後、「当面の間臨時休業」にあらためた。

問題後の「ドコモショップ市川インター店」(画像は読者提供) 臨時休業のお知らせが張られ、店内は暗い

 客の立場にしてみれば、ドコモのプランを契約しているだけなのに「クソ野郎」などといわれる筋合いはない。

 しかし、ITmedia NEWSの取材に応じたあるドコモショップの店員Aは、「口が悪いのはダメだが、このような伝達を店員間で行い、客対応に当たること自体は一般的に行われる内容。ドコモショップのいびつな評価体系が、今回のような事態を引き起こしたのではないか」と語る。

店舗ごとに課された“指標”という名のノルマ 「悪ければ営業権剥奪も」

 まず前提として、ドコモショップは全てがドコモ子会社(ドコモCS)の直営店というわけではない。むしろ、ドコモショップの約2400店舗(19年3月時点)のうち、大多数は「代理店」と呼ばれる別の会社がドコモと委託契約を結び、運営している。

 今回問題があった店舗を運営する兼松コミュニケーションズは全国で約350店舗を展開する「一次代理店(広域代理店)」で、店舗によっては二次代理店に運営を再委託している場合もあるが、問題の店舗は兼松コミュニケーションズの直営だ。ドコモショップと聞くとドコモが直接運営しているサービスのようにも思えるが、実態としてはこのような下請け構造がある。

兼松コミュニケーションズが運営する店舗の一部 同社はドコモの他にKDDIやソフトバンクのキャリアショップも運営している

 ドコモからすれば、ドコモショップは消費者との主たるタッチポイントだ。端末の修理依頼や利用方法の相談などを受ける場でもあるが、新規契約を取れる場でもある。ここでいかに契約を取れるかで、ドコモの業績も左右される。

 すると、下請けである代理店は必然的に「契約獲得数」を課される。

 「現場ではずっと、ドコモ光、タブレット(dtab)、dカードや、オプションなどの“指標”を追わされている」とA氏は話す。

 店舗ごとにこのような指標が設定されており、指標を満たすと「インセンティブ」という形で奨励金がドコモから入る。このように書くと任意の目標のように思えるが、A氏は「そうではない」という。

 「指標を追わないような態度でいると、代理店の上層部がドコモに呼ばれて怒られる。あまりに評価が下がると営業権も剥奪される可能性がある。結局、やらないという選択肢はない」

 つまりドコモショップの店員は指標という名の「実質的なノルマ」を課されており、好むと好まざるとにかかわらず、来店した客に対し新規契約などの訴求をしなければならないということだ。

「あれがドコモショップのリアル」

 ここで、問題の記載について振り返ってみよう。「親代表一括請求の子番号」は、持ち込まれた回線の支払いは親が行っており、持ち込んだ本人の支払いではないことを意味している。実際、メモを受け取った男性はメディアに対し、「父親が個人事業主で、会社用の携帯を機種変更しに来た」と話している。

 A氏は「この状態からは確かに、ディズニーのオプションかいちおしパックくらいしか獲得できないだろう。会社の経費で落としているという情報も加味すると、他にも可能性はあったかもしれないが」と語る。

 つまり指標を追わなければならない店員側からすれば、“金にならない客”と映る。「問題の店員は、これを口悪く表現してしまったのではないか」とA氏はみている。

 「紙に書くのはこういう事故が起こるのでやらないが、“そういう客だ”という伝言をインカムで他の従業員に伝えることはありえる」とした上で、「どの店舗もだいたいあんなもの。あれがドコモショップのリアルですわ」──同氏はそう吐露した。

現場へのしわ寄せ、総務省規制後は「冬の時代」

 “ベタ付け”ともいわれるオプションの強制加入や、固定回線やタブレットなどの強引な訴求などは、「いらないものを案内された、知らないうちに勝手に契約させられた」などと、ドコモに限らずたびたび話題になってきた。

 ユーザーにきちんと同意を取らない販売方法は論外だが、数年前までは今とは別の方法でこういった商品を訴求する手立てがあった。キャッシュバックだ。

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