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なぜ、トヨタは「実験都市」をつくるのか? その狙いと勝算を考える(1/3 ページ)

» 2020年01月16日 07時00分 公開
[小林啓倫ITmedia]

 2020年1月に開催された「CES 2020」で、トヨタ自動車が「実験都市」を静岡県に建設する計画を発表した。

トヨタ自動車が建設する「実験都市」

 計画によれば、この都市は2020年末に閉鎖される同社の東富士工場(静岡県裾野市)の跡地に建設される予定で、工事は21年初頭に着工する。将来的には面積が約71万平方メートルの街になるという。自動運転やロボット、スマートホームといった先端技術をふんだんに取り入れた、未来の街を創り出す構想だ。建設はまずトヨタ主体で進め、住民も同社の社員や研究者たちが中心になるが、パートナー企業の参加や外部の関係者・一般人の居住も呼び掛けるとしている。

 実験都市の名称は「Woven City」(ウーブン・シティ)。直訳すれば「織られた街」という意味で、都市内部の「道」の構造に由来する。発表によれば、都市内の道路は大きく分けて(1)完全自動運転車や電気自動車のみが走行する道、(2)歩行者とパーソナルモビリティが共存する道、(3)歩行者専用の遊歩道の3種類。それが網の目のように「織り込まれる」そうだ。トヨタらしく、未来のモビリティも整備されるという。

実験都市をつくる意味

 トヨタが街を建設する、というと奇妙に聞こえるかもしれないが、発想自体は不思議なものではないだろう。

 そもそもトヨタは、既にクルマだけをつくっている会社ではない。「トヨタグループ」という単位で捉えれば、トヨタ自動車を中心に、ICT、金融、住宅、教育などさまざまな業種・業界の企業が集まっている。グループの総力を結集してショールームをつくるとすれば、都市を丸ごと立ち上げる以上のアピールはないだろう。

 自動車業界には、大きな変革の波が押し寄せている。人間のドライバーを必要としない、高度な自動運転車が実用化されれば、クルマと消費者の関係は大きく変わると予想されている。クルマを所有するのではなく、必要なときに「サービス」として呼び出すという未来図はその一つだ。そうしたサービスをクルマだけで実現するのではなく、バスや電車といったさまざまな移動手段と組み合わせて考えようというのが「MaaS」(モビリティ・アズ・ア・サービス)であり、そこではUberなど新種のモビリティ・サービスとの統合も検討されている。

 つまり空間的にも、そこで使われる技術(乗り物)にも、提供されるサービスにも、従来にはないほどの幅広さとつながりを持つコンセプトやビジネスモデルの創造が求められているのだ。そのためには、都市全体を実験場にして検討を進めるのが最適といえる。

 特にトヨタのように、自らグランドデザインを描ける力を持つ企業は、誰かが用意した未来図に対してその構成要素となるプロダクトを開発するのではなく、大きな視野で主導的にビジネスモデルやエコシステムの構築を進めるべきだろう。その意味で今回の「実験都市」構想の発表は、理にかなっている。

 さらにこうした新しいコンセプトを具現化する場合、全くゼロの状態から立ち上げる方が、実は都合が良い。古いコンセプトが残っている状態で新しいものを導入しようとすると、そこで軋轢(あつれき)が生まれ、新しいテクノロジーの実力がフルに発揮されなかったり、実現に余計な時間がかかってしまったりする恐れがあるためだ。自社の工場跡地に、まずは自社中心で新しい都市をつくるという今回の計画は、トヨタにとっての理想像を描くという点で望ましいだろう。

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