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クラシックコンサートの飛沫感染リスクは? 演奏者と客席の微粒子を測定、クリーンルームで実験

» 2020年08月18日 13時42分 公開
[岡田有花ITmedia]

 クラシック音楽の演奏や鑑賞時、新型コロナウイルスに飛沫感染するリスクはどれぐらいあるのか――演奏者団体などが協力して7月、クリーンルームを使い、演奏者と客席の飛沫量を測定する実験を行い、その結果が8月17日に公開された

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 実験の結果、演奏者はマスクなし、客席はマスクを着用していれば、従来の間隔であっても、ソーシャルディスタンスを取った場合と比べて、感染リスクが上がるというデータは得られなかったという。

 クラシックのコンサートは現在、演奏者間・客席ともにソーシャルディスタンスを取りながら少しずつ再開しているが、演奏者間の間隔が従来より空いているため他の演奏者との意思疎通が難しく演奏に支障が出ており、演奏できる曲も限られているという。今回の実験結果を基に「各団体が感染リスクを理解した上でそれを下げる方法を十分に検討し、方針を決定することが望ましい」としている。

拡散する飛沫、金管楽器が最多

 実験は、日本クラシック音楽事業協会(入山功一会長)と、日本管打・吹奏楽学会(小澤俊朗理事長)が進める「#コロナ下の音楽文化を前に進めるプロジェクト」が主催し、専門家の指導のもと、7月に新日本空調研究所内の高性能クリーンルーム(長野県)で行った。

 楽器演奏時の飛沫の飛散を測定する試みは過去に行われているが、環境中のほこりも微粒子として測定されるため、演奏による飛沫の影響を適切に把握できないと判断し、クリーンルーム内で実際に楽器を演奏し、微粒子量を測定する実験を行うことにしたという。

 クリーンルームで演奏したのは、フルートやクラリネット、オーボエ、ホルン、トランペット、トロンボーン、ユーフォニアム、バイオリンなど。また、ソプラノ・テノールの歌唱と、客席(会話や咳、発声も再現)でも実験した。

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 実験の結果、微粒子数が多かったのは、トランペット、トロンボーン、ユーフォニアム、クラリネット、チューバの順。管楽器は微粒子数が多く、金管楽器は木管楽器よりも多いという結果だ。このため、管楽器の演奏時は特に「換気に十分に留意する必要がある」としている。

 ただ、トランペットやトロンボーンも、演奏者から200センチ前方に離れると微粒子はごく少数になったため、吹き出し口から距離を置けば「感染リスクが上昇する可能性は低いと考えられる」としている。

 歌唱は、口元で最も多くの微粒子が測定された。1人の歌唱で実験したため、より長時間や複数人での歌唱による変化や、体の動きを伴ったり移動しながら歌ったりしたときの影響などの追加実験が必要とみている。

客席での発声は?

 客席での「発声」(「タテチツテトタト」を1分連呼)、「咳」(咳込みを1分継続)、「ブラボー」(「ブラボー」を1分連呼)でも実験したところ、前方を中心に微粒子が観測されたが、マスクを着用すれば、微粒子はごく少なくなっていた。このため、マスク着用下なら1席空けずに連続して着席しても、飛沫感染のリスクに大きな差はないとみている。

 今回は「あくまでも実験的な環境における測定結果」であり、多人数で演奏する状況を再現したものではない。演奏者によって飛沫などの量に差があったり、特殊奏法で飛沫などがより多く飛散したりすることも考えられるなどと、実験の限界も解説している。

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