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“PC”の定義は何か まずはIBM PC登場以前のお話から新連載「“PC”あるいは“Personal Computer”と呼ばれるもの、その変遷を辿る」(1/3 ページ)

» 2020年11月20日 18時12分 公開
[大原雄介ITmedia]

 昔ながらのIBM PC、PC/AT互換機からDOS/Vマシン、さらにはArmベースのWindows PC、M1 Mac、そしてラズパイまでがPCと呼ばれている昨今。その源流からたどっていく必要があると思い、コンピュータの歴史ならこの人、ということで大原雄介さんにまた登場いただいた。1年たっぷりかけての長期連載になる予定だ。


 “PC”、あるいは“Personal Computer”と呼ばれるものの定義は当初から曖昧であり、現在も曖昧なままである。

 多分この記事をお読みの読者の少なくない方が「Windowsが動く、x86/x64ベースのマシンのことをPCと呼ぶ」という意見に同意されると思う。注意してほしいのだが別に筆者は「Windowsが動く、x86/x64ベースのマシン『だけ』がPCと呼ばれる」とは主張していない。ただ、少なくともx86/x64ベースのWindowsマシンは俗にPCと呼ばれている、というだけの話である。

 こういう言い方をするのはもちろん例外が山のようにあるからで、「んじゃ、Linuxが動いてたらダメか?」というとそんな話はないし、Intel Macとかやっと公開されたApple Silicon“M1”ベースのMacをPCと呼ぶ人もいるだろう。積極的に自社製品にPCと付けるメーカーもある。

 例えば米QualcommはSnapdragonシリーズを利用したWindows on ArmマシンをACPC(Always On, Always Connected PC)と称している(写真1)し、最近だと米SiFiveが新しい「HiFive Unmatched」という開発ボードを発表したが、これを利用して「RISC-V PC」が作れるとしている(写真2)。

photo 写真1:これは2018年のCOMPUTEXにおける米Qualcommの発表会のスライド。同社の言うACPCの定義だそうだ
photo 写真2:この“RISC-V PC”を提唱するのは同社創業者兼のCTOであり、HiFive Unmatchedの設計というか企画をした総責任者であるユンサップ・リー博士。ちなみにUbuntu Desktopが動くそうである

 Raspberry Piですら「超小型PC」と説明され、それが受け入れられている(別に文句をつけたい訳ではありません)ことからも、「PC」という単語の示す対象が猛烈に広くなっていることがお分かりいただけると思う。

 ただそのPCと呼ばれるモノの対象は、時代に合わせて変遷していっている。その背景にあるのは、技術の進歩と、特にソフトウェア環境の変化が大きい。そんな訳で、PCという用語の指す意味を、時代背景とか技術的な背景を基に追いかけて行こう、というのがこの連載の趣旨である。そんなわけで、第1回目は、PC以前の話をご紹介したい。

PC以前、個人向けコンピュータはどうだったのか

 PC、あるいはPersonal Computerという用語そのものは、「IBM PC」の登場で一般的になった。米IBMが1981年、自社の新製品である「IBM Model 5150」を“IBM Personal Computer”と称し、これを略してIBM PCと呼び始めたことで、“PC”という用語が一般的になり始めたと記憶している。

photo IBM PC(出典:IBM

 もちろんこれ以外のメーカーも、Personal Computerという用語を使っていたし、英国では1978年2月から2009年6月まで、「Personal Computer World」という雑誌が存在していたから、Personal Computerという用語そのものは決して目新しいものではない。ただ、それがPCと略されて、広く利用される様になった契機はやはりIBM PCの登場かと思う。

 ちなみに日本の場合はMy Computerの略で「マイコン」と呼ばれることが圧倒的に多かった。昨今マイコンといえばMCU(Micro Controller Unit)を指すのが一般的だと思う(組み込み機器関連だけという話もあるが、何しろ筆者が組み込み機器関連の人なので、ここでは(筆者の)世間一般で通用する用語、ということにさせていただく)が、当時は大体がマイコンで通用していた。

 だからといってパソコンとは言わなかったわけではなく、1982年には朝日新聞社から「パソコンPCシリーズ 8001 6001 ハンドブック」というムック本が出版されたりしているから、パソコンという用語になじみがなかったわけではない。NECの「PC-8001」「PC-8801」「PC-9801」とか「PC-6001」「PC-6601」などのシリーズも、型番にPCと付いていながらも呼び名は“80(01)“とか"88(01)”とか、型番の数字の方だったりすることが多く、これをPCと呼んだりはしなかった(ソフトバンクの雑誌「Oh! PC」はあったけれども)。

 さてそんなIBM PC登場以前のパーソナル向け市場はどうだったかというと、これはもう乱立状態というのが正しい状況だった。

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