米中のAI(人工知能)活用に日本が遅れを取っているとして、AI人材の育成に力を入れるべく政府が2019年に策定した「AI戦略 2019」。その取り組みの一つが、経済産業省が進める人材育成プログラム「AI Quest」(課題解決型AI人材育成事業)です。同プログラムは19年に始まり、21年で3回目に。
AI Questは、講師が受講者に教えるのではなく、課題は主催者側で用意しつつも後は受講者同士で学び合うことでAIスキルを伸ばそうとするプログラムです。
20年にはコロナ禍が始まったことからプログラムのオンライン化が余儀なくされましたが、受講者の満足度は高いといいます。その一方で、受講後に「AIビジネススキルへの理解度が下がった」という意外な声もあったと打ち明けます。
マスクド・アナライズさんは今回経産省のAI Questに“入門”。その実態を、経産省の上出耕輔さん(情報技術利用促進課)と、同プログラムの全体設計などに関わったボストン コンサルティング グループ(BCG)の山地響子さんにインタビューしました。
“自称”AI(人工知能)ベンチャーでの経験を基に情報発信するマスクマンこと、マスクド・アナライズさん。AIをめぐる現状について愛と毒を混ぜた連載記事で人気を得るも、AIブームの終焉とともにネタ切れに(本人談)。
新連載をきっかけに、突撃取材キャラにギミックチェンジ。
書籍「データ分析の大学」が発売中。
Twitter:@maskedanl
マスクド まず、AI Quest立案の背景を教えてください。
上出さん(経産省) 近年、AIやデータを使って企業の課題を解決できる人材が求められています。AI人材育成を加速させるには、参加者同士の学び合いによる拡大生産性のある育成プログラムの確立が必要と考えました。講師に依存するような形では、講師不足の問題がボトルネックになるからです。
実施に先立ち、中小企業のAI導入による生産性向上効果を分析しました。「機械などへのセンサー取り付けによる予知保全による費用最小化」「売上実績、気候などのデータ分析による需要予測」など、19のAI導入領域を特定し、その領域ごと、また業界ごとの経済効果を推計しました。AI Questの教材は、この分析に基づき、特にAI導入インパクトの大きい領域を優先して作成しています。
マスクド 受講後にどのような成長が見られましたか?
山地さん(BCG) 定量的な数字としては、受講者の88%が満足という結果となりました。具体的な意見としては「企業との協業プログラムで高い学習効果があった」「机上の勉強ではわからない企業の現場が学べた」という回答がありました。
実務的な課題に対して自らの手を動かして考える課題解決型学習(PBL)では、机上の空論に終わらずデータを利用してビジネス課題を分析できることが高い満足度につながりました。
その背景には、受講者全体の上位2割に属するような人が他の受講者に対してアドバイスしたり、ビジネス課題の要件定義を支援したりするなど、学び合いによって成長できる環境を作れた点があると考えています。また、中間層の5〜6割の方だけでなく、下位2割の意欲はあるもののプログラミング経験が少ないという人にも、こうした教え合いによって、それぞれの立場で成果がありました。
受講者の意識変化を見ると、受講後に18%が「スキルが上がった」と回答しています。一方でスキルが下がったと回答した人もいますが、これは他の受講者におけるスキルの高さを知って、自分の実力を過大評価していたことに気付いたともいえます。
マスクド コロナ禍においてオンライン運営に完全移行していましたが、課題などはありましたか?
山地さん 当初は不安もありましたが、大きな問題もなくもスムーズに運営できました。オンラインに完全移行したことで地方の方も参加しやすくなるなど、メリットがありました。
オフラインによるイベント開催では、地方からの受講者は参加が難しいなど差が出ますが、逆にオンラインなら全員が同じ条件です。もちろん対面における情報量の多さや、工場などの現場を見学できるというオフラインの強みもありますが、同時にオンラインでできることも多いとわかりました。
強いて問題点を挙げると、受講者が多すぎるため開会式の際のWeb会議ツールが落ちてしまい、2回に分けたことくらいでしょうか。むしろオンラインによるデメリットは、ほとんどなかったと思います。
マスクド オンライン受講ではコミュニケーション面に不安を抱える声もありそうです。そうした心理的安全性にはどう配慮しましたか?
山地さん 700〜800人の受講者全員が学び合える環境を作るには、受講者同士がお互いを知っている状態でなければいけません。そこでこれまでのノウハウから、Slackで自由にチャンネルを作れるようにするなど、受講者同士が活発にコミュニケーションができる環境を提供しました。
運営側が自己紹介チャンネルを作ることも想定したのですが、実際にはその前に「#general」(Slackのデフォルトチャンネル)が自己紹介で埋まってしまい、専用のチャンネルを立ち上げる時間もなかったほどです。
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