ITmedia NEWS >

その出勤、本当に必要ですか? 企業の災害対策は「事前の取り決め」からデジタル防災を始めよう(1/2 ページ)

» 2021年10月29日 17時10分 公開
[戸津弘貴ITmedia]

 10月7日午後10時41分頃に千葉県北西部を震源とする地震が発生し、都内や埼玉県の一部では最大震度5強を観測した。この地震で多くの交通機関のダイヤは乱れ、水道管の破損などインフラへの影響も見られた。この記事の公開日である10月28日朝にも、茨城県南部を中心に最大震度4.6の地震が起きた。阿蘇山の噴火など、「防災」を意識させる出来事も続いている。

photo 10月28日朝の地震

 この連載「デジタル防災を始めよう」でお伝えしたことを振り返りながら、災害対策の準備について、考えをまとめてみたい。

 筆者は学生時代に阪神淡路大震災をニュースで知り、ボランティアに駆け付けて以来、防災に関する研究や取材をしてきているが、その中で感じたのが、住む場所や事情が異なるのに、一律で同じ非常持ち出し袋を備え、避難所に移動するという方法で良いのだろうかというものだった。

ダメージの最小化と日常の維持のため、やるべきこと

 自分の行動範囲でどのような災害が起こるか、その災害にどのように備えてどう対処するかを事前に決めておくことが、連載第1回から折につけ触れている「マイタイムライン」の基本だ。あらかじめ「どのような災害(危険)が発生するか」、「どのような困りごとが起こるか(できなくなること、不足するものなど)」を予想することで、事前の準備ができるのだ。マイタイムラインについては、連載の第1回を参照いただきたい。

photo

 会社の災害対策については、大雪や台風上陸の警報が出たら社員は原則リモート勤務で当番社員のみ出勤などの取り決めをしておけば、「出勤が必要かどうかを必要に応じて朝イチで告知します」などの場当たり的な対応で不要な混乱をしなくて済む。

 先の地震では、翌朝の首都圏の鉄道でダイヤが大幅に乱れた。車両や線路の点検などの必要があり、通常のダイヤ通りの運行は望むべくもない。それなのに、出社は当然と考えた企業が多く、その結果、いくつかの駅では入場規制が起きるほど混雑した。緊急事態宣言明けで新型コロナウイルス蔓延防止対策は継続しているにも関わらず、である。

 経営者や管理職に「なぜ従業員の安全を考慮しないで出社を求めたのか」と問えばおそらくは「各自で身の安全や感染防止対策を考慮し、最善の行動をとってもらえれば良い」などと回答するだろうが、これでは全く指示になっていないし、方針の提示にもなっていない。

 従業員側も、「会社が出社を強制する(リモートワークは解除となった)から」と、不満を募らせながらも出社している。「経営陣は社用車で悠々と出社しているのに(俺たち下々の苦労はわかってない)」と愚痴をこぼすばかりだ。

 こうした問題は全て、事前の取り決めと準備ができていなかったことから起きている。

 事前の取り決めができている組織ならどう動くのか。

 例えば自衛隊はヘリコプターや戦闘機をスクランブルさせていち早く状況把握に努めた。警視庁や東京消防庁もヘリを飛ばして被害状況の確認を行っていた。震度〇以上の地震があった場合にはそれぞれの保有する装備をもって状況を確認すべしという指示の下で、各部門がどのように対応するかを事前に取り決めていたからできたことだ。

 羽田空港でも滑走路を閉鎖して安全確認をし、確認が取れたら順次着陸を再開させた。鉄道各社も地震発生と同時に緊急停車して、安全確認後に運転再開となっている。想定される緊急事態が生じた場合にはどのように対応するか、事前に取り決められているからだろう。

 事前の対応を取り決めておくことは、決断する人が状況を把握して判断する時間を確保するためにも必要だ。万一想定を上回る事態になっても、事前の取り決めや方針に沿って対処されている前提で、以後の対策や行動指針を定めれば良い。

       1|2 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.