ITmedia NEWS > 科学・テクノロジー >

「ベイマックス」のように空気で膨らむ義手 装着者のイメージ通りの動きを実現Innovative Tech

» 2021年12月03日 08時00分 公開
[山下裕毅ITmedia]

Innovative Tech:

このコーナーでは、テクノロジーの最新研究を紹介するWebメディア「Seamless」を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。

 中国の上海交通大学と米マサチューセッツ工科大学の研究チームが開発した「A soft neuroprosthetic hand providing simultaneous myoelectric control and tactile feedback」は、空気圧で指が動き、軽くて柔らかい低コストであり、ディズニー映画に出る「ベイマックス」のようなソフトな義肢だ。

 動作をイメージした装着者の筋肉の動きを検知し、その信号を基にして各指に空気を挿入、関節を作動させ手を握る動きをする。指先には圧力センサーが組み込まれており、外部と接触した感覚を装着者にフィードバックする。

カップケーキをつかむ様子

 最近は、昔と違ってマネキンのような義肢ではなく、神経で動作する人工装具が増えている。これらは装着者に残存する筋肉信号を感知し、意図した動作をロボットが模倣するように設計された、高度な関節を持つ人工的な手足だ。しかし、既存の人工装具は高価で、金属製の骨格に電気モーターを搭載しており、重くて硬い欠点がある。

 今回提案する義肢は、既存と同等かそれ以上の性能でありながら柔らかくて軽く低価格(材料費約500ドル)を実現した。また耐久性があり、ハンマーでたたいたり、車でひいたりしてもすぐに回復する。

 義肢は5本の風船のような指で構成され、それぞれの指には、実際の指の関節骨と同じように繊維が埋め込まれている。指の制御は電気モーターではなく、空気圧システムを使って指を膨らませ特定の位置に曲げる。空気圧システムは腰に装着できるため、義肢部分は軽量(約230g)に制作できる。

提案する義肢の概要

 指の動作は、2本か3本の指でつまむ、拳を握るなど、5つの握り方を設定した。装着者が拳を握ることを想像すると、整備する筋電センサーが残存する筋肉の信号を拾い、コントローラーがそれに対応する圧力に変換、ポンプはその圧力を各指にかけ、意図した通りに拳を握る。

 さらに、この義肢は触覚フィードバックも搭載する。各指先に縫い付けた圧力センサーで触ったり握ったりすると、圧力に比例した電気信号が発生する。それぞれのセンサーを、各指に搭載しており、どの指が触られたかを装着者は認識できる。

 膨らませた義肢をテストするために、研究者たちは上肢を切断した2人に協力してもらい、5つの握り方をイメージしながら腕の筋肉を繰り返し収縮し、使い方をトレーニングしてもらった。この15分間のトレーニングを終えた後、手先の力強さと器用さを示すいくつかのテストを行った。

 ページをめくる、ペンで字を書く、重いボールを持ち上げる、イチゴやパンのような壊れやすいものを拾う、などの作業だ。市販の硬い義肢を使って同じテストを繰り返したところ、硬い義肢と比較して、膨らませた義肢はほとんどの作業で同等かそれ以上の能力を発揮したという。

 例えば、クラッカーやケーキ、りんごなどの食べ物をつかんで食べたり、ノートPCやボトル、ハンマー、ペンチなどの道具を扱ったり、またカバンのジッパーを閉める、誰かと握手、花を触る、猫をなでるなどもできた。

さまざまなモノをつかみ、タスクをこなせる

 目隠しをした状態で、どの指に触れたかの識別にも成功。大きさの異なる瓶を感じて、それに反応して瓶をつかんで持ち上げる動作もでき、触覚フィードバックの有効性も示した。

各指先からの触覚を感じ取れるかの実験の様子

Gu, G., Zhang, N., Xu, H. et al. A soft neuroprosthetic hand providing simultaneous myoelectric control and tactile feedback. Nat Biomed Eng (2021). https://doi.org/10.1038/s41551-021-00767-0



Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.