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すぐ投票で決めたがる子供たちと、議論を敬遠し人に深入りしない時代小寺信良のIT大作戦(1/2 ページ)

» 2022年06月27日 09時39分 公開
[小寺信良ITmedia]

 6月22日に第26回参議院選挙が公示され、選挙戦がスタートした。投票とは、自分の意思を表示する方法の1つとして、小学校の頃から慣れ親しんだ方法である。ネット上でもさまざまな投票ツールが公開されており、Twitterには「Twitter投票」、Facebookにはグループ内で「アンケート」、LINEにはグループ内で「投票」という機能がある。

photo LINEのグループ内で利用できる「投票」

 主に日程調整や参加人数を確認するために使われるケースが多いが、筆者は友人が面白いアンケートをやっていたら、わりと積極的に答える方である。これによって自分が多数派なのか少数派なのかを知るのは、楽しい。

 投票とは基本的に、あくまでも自分の軸が動かない、動かす必要がない場合の行為である。ところが、東京外国語大学の大石高典先生が、ちょっと気になるツイートをされていた

 これにはすごく考えさせられた。思い当たるフシがいろいろあるのだ。

決められない子供たち

 筆者の子供達も中高生になり、親が遊びに連れて行かなくても友だちと勝手に遊ぶようになってきた。

 それはそれで結構なのだが、LINEのような連絡ツールが発達しているにも関わらず、どこに遊びに行くのか、何をするのかといった肝心なことがなかなか決まらない。子供の予定が決まらないとこちらの予定も決まらないので、はやく決めろと催促するのだが、どうにも話が進まない。同じ思いをしている保護者の方も多いのではないだろうか。

 よくよく話を聞いてみると、本当に今の子達は「決め事」に弱いということが分かってきた。まず誰かが案を出しても、それに乗ってこない。誰かが「おもんな」「つまんね」と言い出すと、全体の雰囲気が悪くなる。「おもんな」「つまんね」には理由がないので、代案も出にくい。結局、いろいろ案を出す側が疲弊してしまい、いつまでも決まらずギリギリまで放置状態になるというわけである。

 おそらくそうした際の救世主として、LINE投票があるのだ。これまでに出たプランを投票形式にして、一番得票の多かったものを自分達の決定とするのは、調整もいらず決定も早いので、すぐ次のステップに行ける。

 この方法では、リーダーがいらない。子供社会のリーダーは、決定権はないのに決定事項の責任だけはとらされる。「まとめ役」ではなく「怒られ役」としての機能しかないのでは、誰もリーダーをやりたがらない。

 部活動の様子などを見ていると、子供たちは小さいことの意見の食い違いの場においても、なるべく議論を避ける傾向にある。小さい頃から「いじめ」をなくすために、人の個性は尊重しなさいと教えられてきた。それがどうやら、違う意見や好みは個性であり、それを議論によって変えさせるのはいけない、触れてはいけないと思っているのではないか。

 一方大学では、高校までの一方的な学びとは違い、自主的な研究や議論の成果が求められる。上記のツイートから想像されるのは、ゼミなどなんらかのグループで調査や研究テーマを決めるとか、そうしたケースなのだろう。

 グループにおいて共通の目的を決めるにあたり、「話し合え」と言っているからには、アイデア出しから始まって絞り込みのプロセスを経て、複数のアイデアだと思われたものが実は同じ話だったことに気づいたり、2つのアイデアが1つに融合したりといった発展が期待される。

 だが投票は、すでに自分の中に答えがあり、それと同じ者が何名いるかをカウントする行為である。答えとはいっても、その答えが出たプロセスを誰も、本人すらも考える時間はないので、単なる「好み」やこっちのほうが楽なんじゃないかという「カン」に過ぎない。

 数が多いものが採用されるなら、そこに理由のぶつけ合いはない。大学生にもなって議論というものを知らないわけではないだろうが、特に仲のいいわけでもない、たまたま同じ学科、同じゼミというだけの者達と議論して、タダでさえちょっとギクシャクしている関係が余計悪くなるというリスクは取れない、ということではないか。

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