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Gatewayは復活を果たせるか――Acerが買収の裏事情

1980年代半ばの設立時、Gatewayは牛柄模様が目印だった小さな会社から、PC市場にインパクトを与える巨大PCベンダーへと姿を変えた。

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eWEEK

 Gatewayは今再び、市場変革の一端を担う存在になろうとしている。Acerが今週に入り、財政難に苦しむカリフォルニア州アーバインのGatewayを7億1000万ドルで買収し、新部門として吸収することになったのだ。

 台湾に拠点を置くAcerが、1株当たり1.90ドルでGatewayを取得することを明らかにした直後、両社はさらなるニュースを市場にもたらした。Gatewayが第一先買権を行使し、欧州にPCを供給している親会社のPackard Bellを買収するというのである。

 伸び悩んでいた欧州での事業を拡張するため、Lenovoもフランス企業であるPackard Bellの買収に食指を動かしていた事情を考えるに、これは非常に興味深い出来事だと言える。Lenovoの広報担当者がeWEEKに送ってきた電子メールには、同社はまだPackard Bellに興味を持っていると記されていたことから、新生AcerとLenovoの間で、Packard Bellの経営権奪取をめぐる攻防が激化する可能性もある。

 AcerとGatewayの合併は、欧州市場に波を立てるばかりでなく、米国の市場勢力図にも変化をもたらす。Gatewayはここ数年でシェアを失い、同社の国際的なプレゼンスもきわめて小さくなってしまったが、Acerは低コストノートPCを武器に、米国内外で躍進を遂げてきた。

 IDCによる最新の四半期調査によれば、2007年第2四半期におけるAcerの米国マーケットシェアは、2006年と比較して約163%増しになったという。なお、世界市場では、製品出荷数が同四半期に55%増加している。

 AcerがGatewayの買収を発表した際、同社の幹部は、これでAcerは出荷数世界第3位のPCベンダーになると述べた。両社のPC出荷数合計は、今年の2000万台から2008年には2500万台へ伸びるだろうと、TBR(Technology Business Research)のアナリストは分析している。

 もっとも、四半期の好業績は最終的な成功を約束するものではない。PC市場を専門に研究しているIDCのリチャード・シム氏は、AcerがPC分野で重要な地位を占めたいと望むなら、同社とGatewayのPC出荷台数を合わせる以上のことをしなければならないと指摘した。すなわち、Gatewayのブランドネームと製品を使って自社の消費者向けラップトップ製品ラインを強化し、ビジネスを有機的に成長させていく必要があるのだという。

 「Acerは遅くとも2年以内に、今回の買収の価値を最大限まで引き出さねばならない。PC業界の現状から言って2年が限界であり、それ以上時間がかかれば、新生Acerは軌道に乗る前に失速してしまうおそれがある。また、消費者市場が移り気であることも、両社の統合を急がなければならない理由の1つだ。消費者市場は過去2年半の間に急激な成長を遂げたが、こうしたペースが今後も続くとは考えられず、したがってAcerにかかるプレッシャーはますます強くなっていく。目の前に拓けているチャンスをものにするには、今すぐに動き始める必要があるのだ」(シム氏)

 アナリストらは、Acerが手本にすべき最適な例として、Compaqを買収したあとのHewlett-Packardの取り組みを挙げている。合併当初こそ苦しい状況が続いたが、最終的にHPはCompaqを自社内にしっかり取り込むことに成功した。HPがここ数四半期でDellを見事に交わし、首位の座を奪えたのは、こうした背景があったからだ。

 Acerはこのたびの買収により、知名度は高いものの落ち目になりつつある、「Gateway」および「eMachines」という2つのブランドネームを手に入れ、これらを基軸に事業を展開していくチャンスを得た。TBRは調査報告書の中で、Acerには安定したデスクトップ製品が欠けているとしていたが、今はGatewayの製品がある。GatewayがPCマニアやゲーム愛好者向けに販売していた、ハイエンドデスクトップライン「FX」という手駒も増えた。

 こうしたポートフォリオの充実は、Acerがデスクトップ分野でHPやDell、Lenovoと競合していくための土台作りに役立っている。

 Acerは販売およびマーケティングをしていく新たなブランドを保有することになるが、Gatewayという名が加わっても、同社はブランディング戦略を変えるつもりはなさそうだと、TBRは述べている。そうとはいえ、今後はBest Buyなどの小売店にAcer製品を置くスペースを拡大できるし、Gatewayの流通ネットワークや部品サプライヤーを利用することも可能になる。

 NDP Groupのアナリスト、ステファン・ベイカー氏は、「小売店が販売するAcer製品の数が大幅に増え、他社ブランドとの関係が深まることで、米国における同社の認知度は格段に高くなるだろう」としたうえで、今回の買収により、Gatewayがみずからのデスクトップ製品ラインやeMachine製品のマーケットシェアを奪われつつあったという問題が雲散するわけではないと指摘した。

 「Acerは、このままGateway製品をエントリーレベルからミッドレンジクラスとして位置づけ、自社のブランドを格上げしてハイエンド市場に浸透させる方針なのだと考えている。eMachine製品の提供をいつまで続けるのかは分からないが、3つの異なるブランドを維持するのはかなり困難なはずだ」(ベイカー氏)

 ベイカー氏は、複数のブランドを統合する場合、人気がない、あるいは利益の上がらない一部の製品は切り捨てることになり、結果的に小売店の陳列スペースがDellやToshibaの新しいPCで埋められてしまうというデメリットもあると述べた。

 AcerによるGateway買収に関しては、消費者向け市場への影響が最も頻繁に取りざたされているが、Gatewayのエンタープライズ事業にも注目すべき動きが見られる。Acer自身が、Gatewayのプロフェッショナル向け製品部門をとある「サードパーティ」に売却する交渉を進めていると言っているのだ。ただし、売却の形態や時期といった詳細は明らかにされていない。

 確実なのは、ほかの大手OEMが同部門を買収する可能性は薄いということである。

 「Acerには、政府や教育機関、医療ケア企業にPCおよびサーバを販売しているGatewayのプロフェッショナル部門を運営するつもりはなく、Gatewayも同ビジネスは別個に売却しようとしている。あまり名の知られていないPCメーカーか、株式未公開会社が同部門を取得するのではないか」と、TBRは推測している。

 AcerとGatewayの合併は、AcerがPC市場にここ最近で最大のインパクトを与えうる存在になったとともに、過去20年間にわたりIT業界で異彩を放ってきた独立系ベンダーが、また一社消えていくことを意味する。Gatewayが初めて株式を公開した1990年代初頭、同社の企業価値は10億ドルを超えていた。

 時が経つにつれ、Gatewayもさまざまに戦略を変えていった。だが同社の思惑は、市場が望むものとはいつも微妙にずれていたようだ。

 「Gatewayの歴史においては、常にタイミングがものを言うように思う」(シム氏)

 「Gatewayは真っ先に直販市場に参入し、長期にわたり先駆者としての恩恵に預かった。革新的な製品を提供することを躊躇せず、競合社に先んじて多種多様な挑戦を試みた。しかし、次第に運も尽き始め、少しずつずれた方面で大きなリスクを冒すようになる。小売り事業に進出したタイミングはやや早すぎて、うまくいかなかった。その後、デジタルホーム分野にも手を出したが、これもまた時期尚早だった」(シム氏)

 「いざ飛躍しようとするときにかぎって、間違ったモデルを選んでしまったのが、Gatewayという企業なのだ」(シム氏)

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