「iPod課金」は「文化を守るため」――権利者団体が「Culture First」発表
87の権利者団体が「Culture First」の理念を発表した。「文化が経済至上主義の犠牲になっている」とし、私的録音録画補償金の堅持に加え、対象をiPodやPC、携帯電話などに拡大すべきと訴えている。
日本音楽著作権協会(JASRAC)や実演家著作隣接権センター(CPRA)など著作権者側の87団体は1月15日、「文化」の重要性を訴え、私的録音録画補償金制度の堅持を求める運動「Culture First」の理念とロゴを発表した。「文化が経済至上主義の犠牲になっている」とし、経済性にとらわれない文化の重要性をアピールしながら、補償金の「適正な見直し」で、文化の担い手に対する経済的な見返りを要求。今後は新ロゴを旗印に、iPodなども補償金制度の対象にするよう求めるなど、政策提言などを行っていく。
「文化の問題は、地球温暖化と根が同じ」
Culture Firstは、欧州の権利者団体連合「Culture First!連合」の活動を参考にして立ち上げた。
行動理念では、「流通の拡大ばかりが優先され、作品やコンテンツなど創作物を単なる『もの』としか見ないわが国の昨今の風潮を改め、世界に冠たる『文化』(Culture)が重要視される社会の実現を目指す。経済発展は情報社会の拡大を目的にした提案や計画が、文化の担い手を犠牲にして進められることがないよう、関係者や政府の理解を求めていく」などとしている。
CPRA運営委員の椎名和夫さんは「経済・流通至上主義の考え方で、権利者側は既得権者と呼ばれ、流通を阻害している元凶とも言われる。コンテンツは単なる嗜好(しこう)品に過ぎないという考え方があるのも知っている。それが間違っていると言う気はないが、新技術やビジネスが、文化やそれを支えるシステムをき損してはいけない」と訴える。
「経済至上主義がさまざまな問題につながっている。医療に経済至上主義が進出した結果、病院で問題が起きていると聞くし、地球温暖化も経済至上主義の結果だ。社会の中の『文化』も例外ではない。文化そのものがおろそかにされていることに、強く警鐘を鳴らさなくてはならない」(椎名さん)
日本映画制作者連盟事務局の華頂尚隆次長は「文化振興を語る上で、ソフトとハードを鶏と卵に例えることが多いが、文化の場合は作品が先に生まれ、複製機器が後で普及する。文化の担い手による作品がまずある。始めに文化ありき、だ」と強調する。
補償金が「危機的状況に」
Culture Firstは、文化を守るために私的録音録画補償金を守るべき──というのがその主張だ。87団体は「補償金があるからこそ私的なコピーが自由にできる」とした上で、「受け取る補償金の額が激減し、権利者の保護レベルが急激に低下した。危機的状況にある」と訴える。
私的録音補償金は2000年をピークに、録画補償金は05年をピークに減少している。その原因は「制度が導入された1992年当時と比べ、コピー総量は比較にならないほど増加しているが、iPodや携帯電話、PC、カーナビなど新たに登場した複製機器が、制度の対象となっていない」ことという。
権利者側はこれまでも、補償金の徴収対象になっていないデジタル録画・録音機器を対象にするよう訴えてきたが、今後は「Culture First」の旗印の下に、改めて「iPodなど携帯オーディオ、PC、携帯電話、カーナビ、Blu-ray Disc、HD DVD、HDDなどを補償金の対象にすべき」と訴えていく。
また、電子情報技術産業協会(JEITA)が主張する、「DRMの普及に伴い補償金は撤廃すべき」という意見に対して「断じて許せない」と反論。「補償金制度の維持は『ダビング10』合意の前提条件」と改めて表明した。
華頂さんは「映画に限らず、マルチユースを前提にした映像コンテンツはコピーネバー(1回もコピーできない)が基本。コピー可能ならば『補償金なし』は甘受できない」などと強い調子で主張。JASRAC常務理事の菅原瑞夫さんは「『DRMが進歩すれば、補償金は不要』という議論もあるが、1かゼロかという問題ではない。コンテンツの作り手だけではなく受け手にとっても便利な制度をどう作るか、考えていかなくてはならない」とした。
欧州では「Culture First」のロビー活動が奏功
欧州では05年に欧州委員会(EUの行政執行機関)が「DRMの普及を考慮し、私的録音録画補償金の段階的撤廃を検討する」と表明したことを受け、CISAC(著作権協会国際連合)など17の著作権管理団体が、「Culture First!連合」を結成。積極的なロビー活動が奏功し、欧州委員会は補償金制度見直し計画を先延ばしにした。
日本では、補償金は機器を購入した消費者が支払っているが、欧州では機器メーカーが支払っている。金額は国によって異なるが、総じて日本よりも多額だ。
来日したCISACのエリック・バティスト事務局長によると、機器メーカーは「補償金のせいで機器の小売価格が上がり、コンテンツの流通量が減っている。DRMがあれば、補償金は不要なはず。消費者も撤廃を望んでいる」などと訴えていたという。
Culture Fitst!連合はこれに対し「補償金がある国もない国もコンテンツの流通量は変わらない。DRMは、ユーザーが利用しているコンテンツを把握するためプライバシーを侵害する。ユーザー調査の結果では『補償金を支払ってでもコピーの自由を確保したい』という意見が多かった」などと反論したほか、有名映画監督や俳優などを巻き込んで補償金撤廃反対のイベントなども開催した結果、「まずは勝利した」(バティストさん)
ただ、「欧州での戦争も、まだ終わっていない」という。「今でもメーカー側は補償金制度に反対する運動を続けている。この問題はすべての国とクリエイターが直面しているもの。文化を守るため、欧州と日本で協力じていけるだろう」(バティストさん)
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