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アドビ「Creative Suite」の定額クラウド化は“誰得”なのか――狙いを聞く

月額5000円で全ソフトが使える「Creative Cloud」。アドビは今後、Creative Suiteの利用形態をサブスクリプションモデルへとシフトさせていきたい考えだ。その狙いを幹部に聞いた。

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 アドビシステムズは今後、クリエイティブ製品群「Creative Suite」(CS)のユーザーに対し、サブスクリプション(定額制)モデルでの利用を促していく考えだ。

 同社が最新の「CS6」発売と同時に5月11日にスタートする「Creative Cloud」は、PhotoshopやIllustratorを含む全ての最新ソフトを月額5000円(年間プランの場合)で提供するクラウドサービス。ユーザーはアップグレードを意識することなく常に最新版の機能を使えるほか、ノートPCやタブレットなど複数の端末をまたいで作業できるようになるなどのメリットがある。

 一方、同社は2013年1月1日から、CSのパッケージ版製品のアップグレード対象を従来の「3バージョン前まで」から「直近1つ前の主要バージョンまで」に変更する。CS3/4ユーザーはCS6へのアップグレード対象から外れるほか、今後はパッケージ版ユーザーは最新版が登場するたびにアップグレードしないとアップグレード権を失うことになる。

 同社はこうしたアップグレードポリシーの変更を通じ、既存ユーザーのCreative Cloudへの移行を促す考えだ。だがユーザーからは反発の声も多く、特に個人ユーザーにとってはサブスクリプションモデルの課金が重荷になるといった声も強い。Creative Cloudへの移行は全てのユーザーに価値をもたらすのか――アドビシステムズのクレイグ・ティーゲル社長と、米Adobe Systemsでデジタルメディア事業部門を統括するマーラ・シャーマ上級副社長に聞いた。

「プロ向けツール」だがアマチュア向け措置も

 ティーゲル社長はアップデートポリシーの変更について「ユーザーにCreative Cloudへの移行を促し、ソフトウェアの最新バージョンの利益を提供することが目的」と話す。

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ティーゲル社長

 「市場の声はいろいろあるが、これを機にアップグレードを検討してくれているユーザーもいる」とティーゲル社長。同社はCreative Cloudの提供を通じ、クリエイターが月額5000円でさまざまな最新機能を利用し、複数のデバイスに向けて最適化したコンテンツを作成・配信できるよう支援していくという。

 具体的には、HTML5を使ったコンテンツを簡単に作成できる新アプリケーション「Edge」、iPad向け電子書籍出版アプリケーション「Digital Publishing Suite」(Single Edition)などを、今後3〜4カ月のうちにCreative Suiteに盛り込む。また、その後も毎週新しいロードマップに基づいて開発を進め、新機能を随時追加していくという。「市場の変化のスピードが速くなっているので、2年に1度のアップデートでは追いつけない。次のアップデートを待たずにすぐ新機能を使いたいというユーザーも多い」(ティーゲル社長)

 一方、個人ユーザーを中心として「1つの製品の利用で十分」「もっと安価に提供してほしい」というニーズも少なくない。「CSはプロ向けツールではあるが、実際には“仕事場”と“自宅”の2通りの場所で使われていることも認識している」とシャーマ氏。同社は個人ユーザーでもCreative Cloudを利用できるようにするため、さまざまな料金プランを用意しているという。

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シャーマ氏

 具体的には、月額5000円でCS6の全ソフトを利用できる年間プランのほか、各ソフトごとのサブスクリプションモデルも月額2200円で提供する。個別のサブスクリプションモデルでは、利用できるクラウドストレージの容量が10Gバイトとなる(“全部入り”プランは20Gバイト)以外は、クリエイター同士が作品を公開し合うコミュニティー機能など、Creative Cloudの全機能が利用できるという。

 また、短期間で使いたいというユーザー向けには3カ月の利用プランも提供する。こうした「優れた価格設定」(シャーマ氏)を通じ、既存の個人ユーザーのほか、新規ユーザー向けにもCreative Cloudを訴求していく考えだ。「Adobeとしては、Creative Cloudの発表は“進化”だと捉えている。(中長期的に見れば)ユーザーはCreative Cloudを採用する動きになっていくだろう」(シャーマ氏)

 一方、今後もパッケージ版とサブスクリプションモデルの「両方を提供し続ける」という。「パッケージ版の既存ユーザーの移行を急がせるつもりはない。ユーザーが準備できた段階でCreative Cloudに移行してもらえればと考えている」とティーゲル社長。また、「Creative Cloudという新しいクリエイティブのプロセスを採用できる準備があるか、ユーザーに自己評価をしてもらう機会を提供する」(シャーマ氏)という。

 「日本ではCS6を最初からCreative Cloudで利用するユーザーもいるとは思うが、多くのユーザーはパッケージ版で購入すると思う。中にはCreative Cloudを採用した他のユーザーの様子を見てから移行を検討する場合もあるはずだ。今後パッケージ版とCreative Cloudのどちらのユーザーが多くなるかはまだ分からないが、アドビとしては日本の顧客をCreative Cloud寄りに促していくメッセージを発信していきたいと考えている」(ティーゲル社長)

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