「日本では、『試験に電卓を持ち込んでいい』という学校はまだ少ない。でも海外だと逆なんです。『持ち込んでいいですよ』ではなく、『持ち込みなさい』。教育のポリシーの違いですね」――カシオ計算機執行役員太田伸司氏はこう話す。
樫尾俊雄記念財団は3月9日、歴代の関数電卓などを展示する「学びと遊びの電卓・電子辞書展」(3月21日〜5月10日)の一般公開に先立ち、報道関係者向けに先行公開と説明会を行った。その中で太田氏が開発の立場から「カシオと教育事業」について語ったのだが、その内容がとても興味深かったのでレポートしたい。
カシオが作る電卓は、大きく2種類に分けられる。「一般電卓」と「関数電卓」だ。一般電卓は足し算・引き算といった多くの人が日常的に使う四則演算ができるもので、関数電卓は三角関数sin(サイン)・cos(コサイン)・tan(タンジェント)などの特殊計算を目的として作られたものだ。
特に関数電卓は、1974年のパーソナル関数電卓「fx-10」発売以来、世界中で使われている。例えば、欧州では24カ国、北米・メキシコでは3カ国、中南米では19カ国。中近東・アフリカでは35カ国、アジア・オセアニアでは17カ国でカシオの関数電卓を用いた教育がされているそうだ。
興味深いのはここから。カシオの関数電卓は、国によって異なる機体を展開しているという。「世界共通であるはずの数字なのになぜ?」と思うかもしれないが、国が違えば教育カリキュラムも違う。ここに踏み込んだのがカシオの関数電卓だ。
今では、世界16エリアで52モデル(カラーバリエーション含む)を展開している。その全てが、開発者自身が現地に出向き作られたもので、技術者が直接現場の先生たちにフィードバックをもらい誕生している。
「オンラインでのミーティングやチャットではだめなのか」とも思うが、それでは不十分だ。なぜなら、その環境にいかなければ気付かないことが非常に多い。「教室が暗いから液晶見づらい」とか、「フランスでは大型店の新入学コーナーに、フランスでは日本のランドセルのように関数電卓が並べられている」とかは現地でなければわからない情報。先生だけでなく学生から学んで新機種を開発することもあるという。
「国によって、教育環境もカリキュラムも異なります。だから私たち技術者は直接見に行かなければならない。例えば、まだ日本では『電卓を試験のときに持ち込んでいいですよ』という学校は少ない。しかし、海外だと『電卓を持ち込みなさい』という指示があったりする。『持ち込んでいいですよ』ではないんです。だから新入学コーナーに大量の関数電卓が並べられる。ここに、私たちの開発のヒントが隠されているんです」(太田氏)
カシオの教育へのこだわりは、こんなところにも現れている。
例えば、2017年2月1日に英会話学習機「Lesson Pod」がリリースされた。筆者は「流行りにのってまた新しいロボットが誕生した」と思ったが、これは大きな勘違いだった。注意して見れば、公式説明に一切「ロボット」という表記はない。
尋ねてみると、次のような答えが返ってきた――「形状がたまたまこうなってしまっただけで、われわれはロボットを作っているのではない。あくまでも作っているのは英会話学習機。おもちゃだと思われたくないし、『ロボット』という単語から生まれるさまざまな誤解を排除したい。『英会話学習機』と呼んでいるのは、そこに強いこだわりがあるからです」(太田氏)
(太田智美)
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