人工知能を利用した「ビジネスモデル」 弁護士が考えてみた:STORIA法律事務所ブログ(2/3 ページ)
「人工知能を使ったビジネスモデルは?」「AIを作った人、流通させた人、それぞれの権利配分は?」──AIと著作権に詳しい弁護士の柿沼太一さんが考えます。
AI創作物については、関わるプレーヤーごとに権利を与える必要性が違う
A、B、Cに分けて考えてみましょう。先ほどの図に「対価の流れ」、つまり投下資本の回収を付け加えてみます。
・AはAIプログラムをBないしCに販売・ライセンスして対価を取得
・Bも同じように学習済みAIプログラムをCに販売・ライセンスして対価を取得
・Cは最終的にAI創作物をユーザー(市場)に販売・ライセンスして対価を取得
AIプログラム制作者には権利付与は不要
AIプログラムの制作者であるAは、AIプログラムをBなりCに提供する際にライセンス契約を結んで適切な対価を得ることが可能です。しかも、AIプログラムの制作者には、もともとAIプログラムそのものの著作権・特許権が帰属していますから、万が一、AIプログラムが不正にコピーや利用をされたとしても、著作権・特許権を行使することが出来ます。
このように、AIプログラム制作者には投資回収の機会は確保されていますので、特段AI創作物に関する権利を付与する必要は無いということになります。
AIプログラムを教育した人は?
次に、AIプログラムにビッグデータを与えて「教育」したBはどうでしょうか。具体的にどのように教育するかよく分からないのですが、2015年に知的財産戦略本部へ設置された次世代知財システム検討委員会の議事録なんかを見ると「現状、ディープラーニングを動かせるプレーヤーというのは、よほどお金持ちでないと無理」「画像認識などでも半年くらいプログラムを動かしているのが当たり前になってきている」ということのようです。
そうなるとBは教育についても相当の投資をしているということになります。ただ、BについてもAと同様、投資の回収の機会は保証されています。
例えば次のような方法です
- Cに対して学習済みAIプログラムを販売やライセンスする
- あるいはプログラム利用を有償サービス化して、最終ユーザーがそれらのプログラムをWeb上で利用できるようなサービスを提供する
1つ目の方法はB2Bサービス、2つ目の方法はB2Cサービスと言い換えてもいいかもしれません。となると、BにもAI創作物に関する権利を付与する必要性が乏しいように思います。
さらに、教育済みのAIプログラム自体が勝手にコピーされるということは、普通は考えられませんよね(プログラムが生成したAI創作物が勝手にコピーされるということは容易に考えられますが)。
ということで、AIプログラムを教育した人にもAI創作物に関して何かの権利を与える必要はないと思います。報告書ではこの点については明記されていませんが、議事録を見る限りおそらく同じような結論と思われます。
AI創作物の創作指示をして、流通させた人には何らかの権利を与える必要あり
最後に、学習済みのAIプログラムにAI創作物の創作指示を行い、生成されたAI創作物を流通させるCについてです。
例えば、映像制作会社やレコード会社や出版社など、従来のいわゆるコンテンツ産業のプレーヤーが多いかもしれませんが、全く異業種のプレーヤーが参入してくるかもしれません。
このCは、生成したAI創作物を世の中に流通させてユーザーに販売・ライセンスするというビジネスを行うことになります。ですので、基本的には当該ユーザーからの対価獲得の機会は存在することになります。
しかし、AやBと違うのは、「AI創作物は簡単にコピーできる」という点です。もしAI創作物に何の知的財産権も発生しないということになると、Cが世の中に出して、プロモーションのために多大な投資をして人気になったAI創作物についても、誰かがそれを利用して別の商売をすることが自由、ということになってしまいます。
そうすると、Cとしては投下資本を回収できませんから、AI創作物を使ったビジネスをするインセンティブが生じにくい、ということになります。このCに対しては、何らかの権利を付与する必要性がありそうです。
では、具体的にどのような権利を付与すべきなのでしょうか。
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