「CD売るの、辞めました」 アイドルグループ「notall」がCDを無料配布する狙い
「CD売るの、辞めました」――アイドルグループ「notall」の新譜CDは無料だ。なぜ無料にしたのか。
「CD売るの、辞めました」――アイドルグループ「notall」(ノタル)が7月23日にリリースしたシングルCDの価格は「0円」。無料だ。協力店舗やライブイベントで無料配布するほか、着払いで郵送してもらうこともできる。
なぜCDを無料で配ることにしたのか。notallプロデューサーの十字賢(じゅうじ・けん)さんは、「音楽が無料になりつつある時代に、新たな音楽プロモーションの形に挑戦したい」と話す。
notallは、SNSを通じてグループ名や楽曲、グッズなどを募集・採用する「次世代型ソーシャルアイドル」として2014年6月にデビューしたグループで、田崎礼奈さん、片瀬成美さん、佐藤遥さん、渡邊ちこさんの4人組だ。
23日にリリースしたシングルCD「CD売るの、辞めました」は、SNSで公募した楽曲にシンガーソングライターの桃井はるこさんの詞を乗せた「#ハッシュタグはつけられない」と、昨年リリースした「ウサギツンデレラ」の2曲を収録した。
ライブイベントで無料配布するほか、都内を中心とした協力店舗10店舗で配布する予定。CD配布に協力してくれる店も募集しており、既に全国6〜7件の店舗から申し込みがあるという。Webから申し込めば、郵送(着払い)でCDを送ってもらうことも可能だ(数量限定)。
新曲「#ハッシュタグはつけられない」はYouTubeやnotall公式サイトでフル版を無料で視聴できる。iTunesなど配信サイトでは150円で有料販売しており、「Apple Music」「AWA」など定額サービスでも配信している。
「新しい時代の音楽プロモーションへの挑戦」
なぜCDを無料配布するのか――プロデューサーの十字さんは、「新しい時代の音楽プロモーションに挑戦したい」と話す。「音楽の視聴形態が、ダウンロードや月額配信サービスに移っている。今後10年を考えた時、CDではない売り方をしなくてはならない」と。
海外では廃れた音楽CDが、日本では延命している。その理由の1つが、CD購入者に握手券やグッズなどの特典を配布する、日本独特のビジネスだと言われている。
notallもこれまで、CD購入者に握手券を配るなどのプロモーションを行ってきた。特典欲しさに何枚も買ってくれるファンもいたが、「1人に何枚も買ってもらうのは健全ではない」と、十字さんは考えるようになったという。
今回、CDを無料で配布することで、「CDをむりに買わせるのではなく、自然な形で『欲しい』と思ってもらい、多くの人に聴いてもらえるきっかけにしたい」という。無料配布によってnotallの曲を聴いてくれる人を増やし、ファンが増えれば、ライブの来場者やグッズ販売、有料ダウンロード版の販売も拡大でき、ビジネスも成長させられるという考え方だ。
CDは「欲しい人全員に行き渡るぐらいの数」は制作しており、最大10万枚配布する用意があるという。無料だからといって制作コストは惜しんでおらず、曲はしっかり作り込み、ジャケットや歌詞カードも付いている。ジャケットにARアプリ「COCOAR2」をかざすと特典コンテンツが楽しめる仕掛けも用意。「CDを“特典券”にするのではなく、CDそのもので価値を提供できるよう意識した」という。
CDを使った新しいメディアビジネスも構想している。CDの配布枚数が拡大し、メディアとして価値を持つようになれば、CDに企業とのコラボ動画を収録するなど「アーティストと企業との新しいコラボが可能になるかもしれない」。広告収入で制作費を回収する、フリーペーパーのようなビジネスが可能になると展望する。
「CD無料」という挑戦が、うまくいくかは未知数だ。「notallは『みんなで作る次世代型アイドル』というコンセプト。音楽が無料になってきている中、新たなあり方に挑戦し、未来の音楽プロモーションの形を確立できれば」と十字さんは話している。
関連記事
- 「CD売るの、辞めました」 アイドルグループ「notall」、新譜CDを無料配布
アイドルグループ「notall」(ノタル)が、新譜CD「CD売るの、辞めました」の無料配布を始めた。 - 楽曲も衣装もファンがプロデュース “ソーシャルアイドル”notallが目指すもの
楽曲や衣装、CDジャケットまでファンとともに作り上げる“ソーシャルアイドル”notall。従来のアイドルとファンのつながり以上に、クリエイターの発表の場やお互いにつながるハブになりたいと展望を描く。 - キンコン西野氏が火種 「コンテンツ無料化は、作家を殺す」のか? マンガを例に考える
キングコング西野氏が絵本「えんとつ町のプペル」を無料公開し、賛否両論が渦巻いている。「コンテンツの無料化は作家を殺す」との批判もあるが、実際はどうなのか。漫画を例に考える。 - 「無料モデル」は難しい 少なくとも「物語」においては
コンテンツの「無料モデル」は成立するのか――絵本「えんとつ町のプペル」をめぐる“炎上”で改めて浮かび上がったこんな疑問を、作家の堀田純司さんが考察する。 - 「予算ゼロで有名になりたい」 無料で使える脱サラ双子姉妹“フリー素材アイドル”が生まれるまで
「私たち、無料です」を掲げ、商用非商用を問わず無料で使える写真素材を公開した“フリー素材アイドル”「MIKA☆RIKA」。ネットで注目を集めたこのプロジェクトが生まれるまで。 - 岡崎体育さん、Twitterに「いいね専用アカウント」 なりふり構わずアルバム宣伝 「事務所に所属してないので、自分でSNSでやるしかない」
「僕は音楽事務所や芸能事務所に所属していないので、こうやって自分でSNSを通じて皆さんに自分の作品を宣伝するしかありません」 - 「恋ダンス」の踊ってみた動画、CD音源利用OK 星野源さん所属レーベルが表明 「多数問い合わせ受けた」
星野源さんの楽曲「恋」に合わせて「恋ダンス」の“踊ってみた”動画をYouTubeに投稿する際、条件を満たせば、CD音源を使っても問題ないと発表した。
関連リンク
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.