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「トランプマークが浮いて見える」不思議な画像 どうやって作っている?コンピュータで“錯視”の謎に迫る(1/2 ページ)

東大・新井仁之教授が解説する錯視の世界。今回は「錯視画像を作る技術」を紹介する。

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連載:コンピュータで“錯視”の謎に迫る

あなたが今見ているものは、脳がだまされて見えているだけかも……。この連載では、数学やコンピュータの技術を使って目に錯覚を起こしたり、錯覚を取り除いたり──。テクノロジーでひもとく不思議な「錯視」の世界をご紹介します。


 下の画像をゆっくりと繰り返し上下にスクロールするか、左右に動かしてみてください。中央にある大きなクローバーが、背景から分かれてユラユラと動いているように見えませんか。

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「トランプマークの浮遊錯視」(新井仁之・新井しのぶ作、2017)。ゆっくりと画像を繰り返し上下にスクロールするか、左右に動かしてください。画像はなるべく大きくしてご覧ください

 この錯視は、前回紹介した「浮遊錯視生成技術」を使って作成したものです。私と共同研究者の新井しのぶが2010年に考案した技術で、好きな画像を“動いて見える錯視画像”にできます。これによって作られる錯視を「浮遊錯視」と呼んでいます。

 今回は前回に引き続き、浮遊錯視に関するお話をしたいと思います。

浮遊錯視効果で、動いて見える錯視をより強くする

 この浮遊錯視生成技術を作ったとき、私たちには次のような疑問が浮かびました。

 「もともと動いて見える錯視に、浮遊錯視生成技術で手を加えるとどうなるか?」

 従来の“動いて見える錯視”と、私たちが作った“浮遊錯視”の動き方の違いを調べるという点からも興味があることでした。

 いくつかの錯視を試しましたが、ここでは前回紹介した「ピンナ錯視」に浮遊錯視技術を施した結果をご覧頂こうと思います。その前に、元のピンナ錯視を思い出しておきましょう。次の画像がピンナ錯視です。

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ピンナ錯視(Pinna illusion, 2000)。ピンナ氏らの論文にある図を元に作画したもの。画像はなるべく大きくしてご覧ください

 中央の黒い丸を見ながら顔を画像に近づけたり遠ざけたりすると、周囲の小さな四角が円上を動いているように見えます。ピンナ錯視は四角のふちを上の図のように白と黒にすることで起こります。

 この画像の錯視が起こる部分に浮遊錯視生成技術を施し、浮遊錯視を加えてみます。結果は次のようなものでした。

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ピンナ錯視に浮遊錯視を加えた錯視(Pinna illusion with floating effect, Hitoshi Arai and Shinobu Arai)。画像はなるべく大きくしてご覧ください

 顔を画像に近づけたり遠ざけたりすると、浮遊錯視を後から加えた方が元のピンナ錯視よりも動きが滑らかになり、やや大きくなっていることが分かります。これは浮遊錯視の効果によるものです。

 この他に、浮遊錯視の効果を加えて錯視と感じる量を増強できるものもあります。それについては別の機会に紹介することにします。次もピンナ錯視を使って別の実験をしてみましょう。

浮遊錯視でピンナ錯視を逆向きに回す

 次はピンナ錯視の四角が動いて見える“向き”に注目してください。ピンナ錯視の内側の円上にある四角は、顔を画像に近づけると、時計回りに動いて見え、画像から遠ざけると反時計回りに動いて見えます

 もしもピンナ錯視に反対向きの浮遊錯視効果を加えるとどうなるでしょうか。結果は次の通りです。

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反対向きの浮遊錯視を加えたピンナ錯視(Pinna illusion with reverse floating effect, Hitoshi Arai and Shinobu Arai)。画像はなるべく大きくしてご覧ください

 「反対向きの浮遊錯視を加えたピンナ錯視」では、内側の円上にある四角が顔を画像に近づけると反時計回りに動いて見え、顔を画像から遠ざけると時計回りに動いて見えます。つまりピンナ錯視と逆向きに動く錯視画像になっているのです。

 ところが、四角のふちの黒と白はピンナ錯視と同じように配置されています。このことから浮遊錯視の効果がピンナ錯視の効果よりも強く出たと考えられます。

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