がん細胞への栄養補給を制限する物質、東大が発見 新たな治療法の開発にも
東京大学の研究グループが、がんへ栄養供給を行う「がん血管」が作られるのを抑制する物質を発見した。
東京大学の研究グループは11月13日、プロスタグランジンD2(PGD2)と呼ばれる生理活性物質の一種に、がん血管が作られることを抑制し、がんへの栄養供給を制限する働きがあることが分かったと発表した。新たながん治療法の開発につながる可能性があるという。
がんは周りにある組織の血管に働きかけて新しい血管を作らせ、そこから増殖のための酵素や栄養を獲得する。これまでがん血管の多くは血管内皮細胞で構成されていることや、正常な血管とは異なる性質を持っていることなどは分かっていたが、その原因など詳細は明らかになっていなかったという。
研究グループは皮膚がんなど3種のがんをマウスに移植。その血管内細胞を解析したところ、L-PGDSという酵素が正常な細胞に比べ約10倍も増加していることが判明。ヒトのがんでも調査したところ同様に増加が確認でき、その原因ががん細胞の炎症刺激であることも分かったという。またL-PGDSが欠損したマウスに皮膚がんを移植したところ、通常の2倍の速さでがんが増殖し、その細胞内ではL-PGDSが産生する生理活性物質「PGD2」が減少。一方PGD2の受容体を刺激する薬を欠損マウスに処置した場合には、がんの増殖が抑えられた。
研究グループはさらにがん血管の機能を詳しく調査し、L-PGDSの欠損ががん血管の数を増やし透過性を高めることや、がん細胞への栄養や酵素の供給を増加させることを明らかにした。またL-PGDSから作られるPGD2にはこうした働きを抑える働きがあり、薬でPGD2の受容体を刺激することでがんの増殖を抑制できることも分かったという。この結果は、新たながん治療法開発につながる可能性があるとした。
研究成果は病理学誌「The Journal of Pathology」のオンライン版に11月10日付で掲載された。
関連記事
- 胃がんの多い日本人 原因はピロリ菌が作るタンパク質 東大の研究で判明
日本を含む東アジア諸国のピロリ菌が作るタンパク質は、欧米型のものよりも強力に酵素と結びついて細胞のがん化を促進させるという。東大の研究グループが発表。 - がん細胞を正常細胞が“排除”するメカニズム、京大が解明 新治療法へ
正常細胞ががん化する細胞を組織から排除する仕組みを、京都大学の研究グループがショウジョウバエの実験で解明した。 - がん治療用「量子メス」開発へ 量研機構と東芝、日立など協力
量子科学技術研究開発機構と東芝などは、従来より小型な重粒子線がん治療装置「量子メス」の開発に向けて協力する。 - 東北大、哺乳類の「硫黄呼吸」発見 酸素の代わりに硫黄でエネルギー確保
東北大学の研究グループが、酸素を使わずにエネルギーを生み出す「硫黄呼吸」を発見。心臓疾患やがんの治療に役立つ可能性があるという。 - iPS細胞で作った心臓組織で「不整脈」再現 治療法開発に光
京都大学iPS細胞研究所が、iPS細胞で作った立体的な心臓組織で、致死性の不整脈を再現。新薬の開発や治療法開発への活用が期待される。
関連リンク
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.