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「ZOZOSUIT」を作った謎のスタートアップの正体“日本が知らない”海外のIT(1/2 ページ)

スタートトゥデイと「ZOZOSUIT」を共同開発した、ニュージーランドのスタートアップ「StretchSense」とはどのような会社なのか。

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 国内大手のファッションECサイト「ZOZOTOWN」を運営するスタートトゥデイは11月22日、身体を瞬時に採寸できるボディースーツ「ZOZOSUIT」の予約受け付けを開始した。

ZOZO
「ZOZOSUIT」

 採寸用のボディースーツという目新しさや、スマートフォンとBluetooth通信で接続できる利便性、送料のみ負担の無料配布という同社の戦略を受け、ZOZOSUITは各所で話題を呼んだ。祝日明けの24日には同社の株価が対22日で14%上昇。12月5日には、「想定以上の予約があったため、配送が遅れる」ことを謝罪。予約受け付けから10時間で23万件もの予約があったという。

連載:“日本が知らない”海外のIT

日本にまだ上陸していない、IT関連サービス・製品を紹介する連載。国外を拠点に活動するライター陣が、日本にいるだけでは気付かない海外のIT事情をお届けする。


 同社のプレスリリースには、「ニュージーランドのソフトセンサー開発企業StretchSenseと共同開発した」とあるが、この聞き慣れない名前に首を傾げた人も多かったのではないだろうか。

 実は、同社はスタートアップと言えど、28カ国に400社もの顧客を抱える急成長中のウェアラブル企業なのである。詳しくみていこう。

体にピッタリと沿う伸縮型のセンサー

 StretchSenseは、ニュージーランドのオークランド大学バイオエンジニアリング研究所バイオミメティックス(生体模倣技術)ラボのスピンアウトとして、2012年11月に誕生。共同創業者兼CEOであるベンジャミン・オブライエン(Benjamin O'Brien)氏と、CTOのトッド・ギスビー(Todd Gisby)氏は同ラボ所属の研究者で、イアン・アンダーソン(Iain Anderson)チーフサイエンティストは、グループリーダーを務めていた。

 既にバイオメティックスラボでセンサー技術の研究に取り組んでいたこともあり、創業翌年には、国内の優秀な研究者に対してニュージーランド首相から贈られる「The Prime Minister's Science Prize(MacDiarmid Emerging Scientist部門)」をオブライエンCEOが受賞。その後も国内のさまざまな科学・ビジネス関連の賞を総なめにする。

センサー
伸縮センサー「Stretch Sensing Element」

 彼らの主力製品は、シリコン製の伸縮センサー「Stretch Sensing Element」。単に「センサー」と聞くと、人間の動きを感知するモーションセンサーやApple Watchなどのウェアラブル端末に搭載されている心拍センサーを思い浮かべがちだ。

 しかし、StrechSenseのセンサーは従来のものと違い、柔らかく伸び縮みするシリコンでできているため、人間の体など曲線の多い対象にもピッタリと張り付き、繊細な動きまで正確に計測できる。

 同社のオンラインショップでは、この伸縮センサーに加え、先端にBluetoothの発信機を取り付けた布製のセンサーや、データをとりまとめる小型回路から成るセットが、研究者や企業向けに2種類(「Sports Discovery Kit」と「VR Discovery Kit」)販売されている。

 さらに、ウェアラブルデバイス・アプリケーションの開発を目指す企業向けに、同社はプロトタイプ製作サービスも提供している。マーケティング・ディレクターを務めるシン・ジョン・パーク(Shin Jeong Park)氏は、同社の高い技術力とセンサーテクノロジーを併用することで「これまで通常9カ月はかかっていたプロトタイプのプロセスを、最短20日まで短縮できる」とし、「伸縮センサーは特にスポーツや医療、ゲームなどの分野で力を発揮するだろう」と話す。

モーションキャプチャーをより手軽に、正確に

 そんな彼らに目をつけた企業の1つが、カナダのモントリオールに拠点を置くHeddokoだ。アスリート向けのモーションキャプチャーソリューションを開発する同社は、正確に人の動きを計測できるボディースーツの開発にあたり、StretchSenseに協力を仰いだ。

 Heddokoのボディースーツには、従来のモーションセンサーに加え、StretchSense製の伸縮センサーが張り巡らされており、どんな細かな動きでも正確に計測できるようになっている。スポーツの世界では、これまでにもモーションキャプチャー技術が積極的に活用されていたが、実際に体の動きを測定するには大規模な設備が必要だった。

 しかし、同社のシステムはBluetooth経由でモバイル端末にも接続できるようになっているため、誰でも簡単にリアルタイムで体の動きをトラックできる。このシステムを使えば、例えばボールを投げるときの腕の角度や肘の高さなどから、体がどのような状態にあるときにベストパフォーマンスが出せるのかを客観的に割り出せる。

 さらに、けがをしたアスリートがリハビリに取り組む際も、けがをする前と後の体の動きを比較することで、回復具合の確認ができる。

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NFL主催イベント「1st&Future」におけるデモの様子(TechCrunchのYouTube動画より)

 また、StretchSenseの技術は芸術界からも注目を集めている。世界最大の楽器フェア「NAMM」では、同社のセンサーを搭載したグローブを使い、バーチャル楽器を演奏する様子が披露されたほか、16年2月の「New York Fashion Week」では、ファッションブランド「The Chromat」がStretchSenseと共同制作した、手指の動きに合わせてライトが灯る服がランウェイを飾った。

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「NAMM 2017」におけるバーチャル楽器の演奏風景(StretchSenseのYouTube動画より)
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