NHK「AIに聞いてみた」の違和感 これって本当にAI? データ分析の専門家が解説(3/3 ページ)
ネット上で話題を呼んだNHKの「AIに聞いてみた」の第2回が放送。今回も番組に登場するAIやデータ分析手法に注目が集まった。
分析の仕方がそもそもズレてる?
最後に、調査の妥当性についてです。「仕事効率性」に関するパートで、没頭度という指標を作成して、「(効率的に仕事をするには)11時間54分以上働け」と提案しましたが、そもそも効率性と没頭度は関係あるのでしょうか。
仕事に没頭しているから効率が上がるのでしょうか。無駄でやる必要もない仕事を没頭して取り組んでいるかもしれません。没頭度だけでは効率性の分析だとは言えないのではないでしょうか。
分析の目的と、収集しているデータが違うのかもしれません。野球で例えると、足が速い選手を評価するために、打率という指標を用意するようなものです。見たいデータとそろえたデータが違うように思います。
その他にも気になる点はあるのですが、ここで指摘した3点はいずれもAI以前に、分析としてどうかという点です。いずれも人間が考えれば気付けるミスや不注意ですので、番組制作陣はAIひろしの「お告げ」をもう少し適切に調理して欲しいと切に願います。
一体どうすれば良かったのか?
本番組が第3回、第4回と続くのかは明らかにされていないのですが、もし次回もあるとして、どのように表現していくのが良いでしょうか。2つの提案があります。
まずは、AIをサポートする人間の存在。AIひろしの横にサポート役の人間キーボーを添えて、「ひろし&キーボー」のコンビで登場させてみませんか(分からない人はお父さんお母さんに聞いてみよう)。
最低限の自律性がAIには必要だと私は思うのですが、恐らくはそれすら無いのではないかと私は推察しています。どの分析結果が番組的に面白いかをチョイスしている人がいるはずです。いっその事、その人を人間キーボーとして登場させて、自律性は彼が担っていますと紹介した方が「振り切ったねNHK」と思えます。ちょっとコント風になりますが。
AI単体ではまだまだやっていけません、という構図をアピールする良いキッカケになるとも思います。
次は、データ分析全般の見直しです。最低限やっておくべき分析目的と収集するデータの整合性、N数の表示、分析手法の使い方のマズさ、これらはデータサイエンスとしてダメな点です。分析目的の設定、データの収集、チェック・集計、これらはデータサイエンティストが最も時間をかける作業プロセスです。番組を通して、これらのプロセスを軽視している印象を受けました。
今も大学教授など専門家が番組に関わっていますが、必要に応じてさらに外部の力も借りながら、AIひろしのお告げが真に価値のある内容になるよう、レビューの精度を上げるべきです。協力を申し出るデータサイエンティストは多くいるのではないでしょうか。
この番組は「バラエティ」なのか、それとも「ドキュメンタリー」なのでしょうか。AIをもっとポップに感じようという趣旨も分かるのですが、AIを使って社会をもっと良くしようとしている人たちの背中を後押しするような番組作りを制作陣には期待したいと思っています。
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