第13回 社内業務全般をグレードアップ。その秘訣とは?ファイルメーカーPro ユーザーの現場を探る

使いやすいユーザーインタフェースで定評のあるファイルメーカーProですが、オービット ミューズテクス事業部の社内システムは、極力無駄を省いた使い勝手で、営業支援、ユーザーサポートからウェブサイトの更新まで一手に引き受けてくれます。

» 2004年02月05日 20時42分 公開
[松尾公也,ITmedia]

 コンピュータをベースにした音楽制作環境の老舗のブランドであるThe Mark Of The Unicorn(MOTU)製品の国内総合輸入元、オービットミューズテクス事業部は、同事業部の発足当時からファイルメーカーを使って社内業務全般を支援しています。ファイルメーカーとの長いつながりを、さらに緊密で効率的なものにした、同社ウェブマスタの山本剛史さん、そして同社広報の奥田光洋さんに話を伺いました。

 オービットには、MOTUのDigital PerformerやAudio/MIDIインタフェースをはじめとしたオーディオ・映像関連製品を扱うミューズテクス部門と、ビデオ、オーディオシステムの学校・企業・アーティストへの導入を行うCreativeSuite部門があります。ファイルメーカーProを使ったシステムのうち、取引先や在庫管理などは、この2つの部門で共通で利用しています。一方、MOTUなどの製品部門ではユーザーサポート業務に利用しています。

引き継いだ各種のデータベースシステム、まずは「リサーチ」から

 同社では以前から取締役事業部長である伊藤格氏の「ノウハウは自社に蓄積する」というコンセプトのもと、通常の業務を行う各スタッフの手によってファイルメーカーProを使ってデータベースを構築し、在庫管理、ユーザーサポート、営業業務管理、ウェブサイトでのサポート情報、ニュースの配信といった業務を行っていました。その業務全体の整理と再設計、そして管理を引き継いだのが、山本さんで、2000年に入社して3年ほどで現在の形となったそうです。

 つまり、山本さんは、さまざまな部門で構築したシステムを引き継いでとりまとめる大役を担ったわけです。山本さんは、これまで各スタッフが行っていたデータベース業務を「まず、どういう使われ方をしているかをリサーチする必要があった」そうです。同社で利用されているシステムの三本柱が、ユーザーサポート、営業支援、そしてウェブ構築です。そのうち最初にまかされたものが、このウェブ構築でした。同社の製品やサービスに関するニュースをファイルメーカーProを使って配信しているのですが、「お客様がほしい情報を簡単に配信すること」を目標に、再構築しました。

 山本さんがウェブマスタとして就任する以前は、各スタッフがコンピュータの発展にあわせてその時その時の最善の選択をしてきた結果、それらを集中的に管理する人間がいなかったため、複数あるサーバが、それぞれ別々の担当者に任されており、運用されていました。自分の担当以外では、どのマシンがどんな役割をもっているのかがすぐにわからず、その管理方法もバラバラだったのです。そこで、山本さんの就任後は、これらのサーバをきちんと切り分けることにしました。 ホスト1台につき1サービスで完全に分割することにしたのです。


構成を再構築しなおした、現在の業務システムのネットワーク

 たとえば、ニュース、サポートの情報など、更新サイクルの速いものについては、ファイルメーカーPro Unlimitedを使ってリアルタイムに更新し、同社が運営するウェブマガジンサイトなどで、伊藤格氏をはじめとした同社のスタッフが執筆するオンライン、映像雑誌用の記事の掲載に当たっては、XML、XSLを使い、HTMLに書き出して複雑なレイアウトでも出力できるようにしているのです(伊藤氏は、個人のコラムスペースとしてExtreme Macintosh、そして映像雑誌での執筆スペースとしてX-treme expressionsという連載を持っています)。


記事をアップするときに使うコンテンツ作成システム。右下ではレイアウトパターンが選択できるようになっている



タイトルと文章を入力したところ。上の画像とは別のレイアウト構成になっている



画像の配置はここで行う。非常に細かいコントロールが可能だ

 HTMLで段組みしてページを作るという作業を完全に自動化するのは、特にさまざまな種類の画像が入るということを考えると、非常に困難です。山本さんは、このために、レイアウトのテンプレートをファイルメーカー側で30種類ほど用意し、素材に合わせてレイアウトをその中から選ぶようにしました。テキストデータをインポートし、それからレイアウトのフォーマットを選びだします。

 「XMLには興味があります。どこまでできるのか、どうやって使うのか、と。フォーマット属性としてはXSLを採用しており、そのファイルが30個以上あります。画像数と段落数で適切なものを選ぶようにしています」と山本さん。


レイアウトパターンを記述したXSLファイルをエディタで開いたところ

ユーザーサポートと顧客管理では、こう工夫した

 一方、直接的な営業支援となるユーザーサポート、顧客管理では、別の形の工夫を凝らしています。この業務においては、サポート履歴、問い合わせ内容を保管し、対応する必要があるわけですが、「私が関わる以前は、業務の優先度を考えてすべてを1個のデータベースファイルで管理していました。これはデータベースの管理という側面で厳密にみるとよくないわけで、複数製品をそのユーザーが購入されていた場合には、個人情報が複数存在することになります。さらに、製品には複数のバージョンが存在するわけで。ファイルメーカーProはバージョン3からリレーションが使えるようになったので、この機能を使って大幅な載せ替えを行いました」と山本さん。


登録ユーザー管理画面。複数シリアルの管理、マシン環境、サポート履歴などが一覧できる

 製品登録の部分だけでも、およそ10個のリレーションファイルを使っており、その中には個人情報、シリアル、バージョン、アップグレードの受け付け、履歴などが含まれます。これで、3万人以上のユーザー数を管理しているのです。

 オービットでは前記のとおりかなり早い時期からファイルメーカーProを利用していたため、最新版の機能を利用せずにそこまで使えていたというわけです。このように機能アップをどんどん図っていった山本さんですが、実を言えば、オービットに入社以前にはファイルメーカーProの経験はまったくなかったそうです。ただ、OracleとSQL Serverの経験はあったので、2つの世界のよいところをうまく組み合わせることができたようです。

 そんな山本さんに聞いた、ファイルメーカーProの勉強法は、「作ること」。「作って作って作りまくり、これまで60ファイル以上を作っています」という山本さん。これらのファイルはすべてファイルメーカー Serverでホストされており、社員全員がファイルメーカーProのクライアントを使い、アクセスしているのです。

 このシステムを実際に操作しているところを見ると、各スタッフとの協力の結果実現したオペレーションの簡単さが目を引きます。操作を簡単にする方法として山本さんが挙げるのは、「ほとんどキーボード入力なしですむように」ということ。そして、通常業務での画面レイアウトを研究して画面の表示位置も、細かく切り替えています。ファイルメーカーProには、ウインドウの表示サイズや位置を細かく指定できる便利な機能があるのですが、山本さんが開発したシステムではこれを最大限に活用しているのです。「表示位置での戸惑いで1秒間ロスするとすれば、1万回で1万秒の損失になります」と、こだわりを見せます。


マウスで取引先をクリックすると、担当者の部分がするするっと右側に引き出される、Mac OS XのFinderに近い動きを実現している。キーボード入力を極力省き、ウインドウの表示も細かくコントロールしている

 「入力する部分を極力廃し、コードとして管理できるものを管理し、ファイル間での整合性を保つコードの振り方を考え、スクリプトを作成しました」と山本さん。山本さんが工夫したもう一つのポイントは、「ミスが起きない設計」です。ファイルメーカーProでは、レコードを作ったり変更してしまった後の取り消しは、基本的にできないようになっています。それが操作性を容易にしている要因の一つでもあるのですが、その一方で、「入力情報のエラー、チェックが後手後手にまわり、フィールド定義で制御するにしてもレコードができてからでは難しい面もあります」と山本さん。これに対処するため、山本さんは、編集ボタンを押すと、編集中のフィールドがグローバルフィールドに変更され、間違って変更しても、戻るためのボタンを押せば、元の状態に復帰できるよう工夫しました。


この表示画面では、編集は不可になっている。左上にある「編集」ボタンを押すと、編集可能な画面に切り替わるが、そのときには、画面に表示されているフィールドは、一時的な保存場所のグローバルフィールドに置き変わり、確定した時点でレコードに記録される

 今後の拡張の方向性として、山本さんが期待しているのは、WebObjectsとの連携です。WooFというツールを使うと、ファイルメーカーProのデータベースをバックエンドに、フロントエンドをWebObjectsで構築することができます。これにより、ファイルメーカーProのシステムの拡張性はさらに広がることになります。「現在は日本語が通らないのですが、期待しています」と山本さん。


山本剛史さん(左)と奥田光洋さん

 最後に、システム開発に関わる人たちに対するアドバイス。「自己満足の部分と、ビジネスの部分を分けることです。開発・リサーチを含めて1カ月。それ以上かけると自己満足になってしまいます」。自分が作ったデータベースに愛着を抱くあまり、あれこれといじり倒してしまいがちな我々にとっては、戒めとしなければならない言葉かもしれません。

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