だが、こういった「圧縮に不向きな画像」は世の中にたくさん存在する。皆さん、そこで何とかして切り抜けようとするワケだが、そこで陥りやすい間違いとしては、彩度を上げるなど、とにかく映像をクッキリさせようということがある。結果として、よりブロック歪みはハッキリしてキレイなモザイクになってしまったり、ビットレートがいよいよ落とせなくなったりということがある。あるいは、それで無理矢理目的のビットレートにするため、フレームレートを落として、動きがカクカクのムービーが出来上がってしまうということもある。
まあ、目的によってはそれでもいいかもしれないが、細かいモノがハッキリクッキリしていると、エンコーダーさんは頑張ってそのデータを維持しようとして、より圧縮しにくいものとなってしまうのである。
ではどうしたらいいか? 私がよく提案するのは、色を極端に落としたり、全体に思いっきりボカシを入れてしまうとか、そういう方法である。それで全体としてはキレイに見えるということもあるのだ。もちろん、圧縮する前段階で、である。敢えて情報量を落としてあげると、エンコーダーさんにとっては圧縮しやすい素材となるのだ。
こういった処理はビデオ編集ツールで行うことができるが、Cleanerのような圧縮ツールにも、前段階で処理するためのフィルターが用意されている。DivXの場合にも、ノイズリダクションのためのフィルタがついているが、このフィルタをボカシ用のツールとして扱うこともできる。いろいろと試してみていただきたい。
ただ、ボカシをかけるということは、細かさが失われてしまうということだ。こればかりは致し方ない。
……このあたりが悩みどころで、実はここで、「何を活かして何を捨てるか」というのが圧縮のポイントなのである。
例えば、
→音が重視であれば映像を小さくして問題解決
→動き重視であれば15フレーム/秒できれいさは無視、1枚の美しさ重視であれば4フレーム/秒でスライドショー気味に
といったような工夫をするワケである。
実はこのように「捨てる勇気」を持つことが大切なのである。この考え方は、どんな圧縮技術を使おうが変わらないところだ。
さて、DivXにはさまざまなオプションがある。たとえばBフレーム。これは、過去のフレームだけではなく、後のフレームとの差分も見て圧縮するというもの。当然、圧縮効率はより高くなる。それからGMC、クォーターピクセル、さらにはPsychovisual Enhancementsといったものもある。最後のものに関しては、私も何が行われているのか、よく知らない。
これらをどう扱えばいいか? 一般的に言って、あっちこっちをチェックすると、それだけいろいろなアルゴリズムが使われることになり、一般的な意味での画質が向上することも多い。しかしながら、それだけ圧縮に時間がかかるようにもなるし、同時に、再生する側への負担はより大きくなる。CPUパワーがないとフレーム落ちするなど、再生環境が限定されてしまうこともあるのだ。何をするにしてもテスト再生は必須。だから圧縮はタイヘンだと申し上げているのだ……。
一つだけ注意点を上げれば、コンピュータで再生することを前提としているのにインタレース画像を使っている場合には、インタレースを除去する処理だけはやっておきたい。コンピュータで扱う場合には、インタレースは一つもいいことがないのだ。
とここまで来て、決定的なパラメータの話が一つも出てこないのが気になったかたがたもいるのではないだろうか。別にここまで引っ張ったのではなく、最後まで出てこないのだ、申し訳ないが……。繰り返しになるが、結局は「ユーザーが何を重視して、何を捨てるか」にかかっているのである。さらに言えば、そういった細かいパラメーターをいじる前にもっと大切なのは、圧縮する前のソース映像である。
例えば、自分が撮影した画像を圧縮しようという場合、目的がパソコンであるならば、何もDVカメラでインタレース画像を取り込む必要はない。かといって、MPEG-1で画質が落ちたものを選ぶのはもっとダメ。私の中で最も正解に近かったのはモーションJPEGを使ったサンヨーのiDshotである。
次に、必要のない部分はとってしまう、ということ。元が一本のムービーだからといって、一本のムービーのままで圧縮するのはもったいない。もしストーリーなどに影響しないのであれば、60分ものなら、場面転換で20分×3にしたほうが、より効率がいい圧縮ができる。ハダカを圧縮したいのであれば、ハダカの部分だけ抜き出して圧縮すればよろしい。さらに、バックグラウンドでシマシマな人が斜に構えてナナメに動き回っていれば、編集ツールでトリミングしてそのシマシマ人を消してしまえばよろしい。
もっといえば、何故、そんなに4対3の画面比率にこだわるか? 別に元映像の縦横比にさえ気をつければ、縦長のムービーがあってもいい。テレビに写す訳じゃないのであれば、もっと自由に考えればいいのだ。
といっても、そういう編集作業に時間がかかるということで二の足を踏んでいる方も多いだろう。確かに、編集ツールは取り込みやらレンダリングやらに時間がかかるものばかりで、バカバカしくなるのもわかる。
そういう場合はQuickTime PlayerをProバージョンにして使うのが一番である。私は、あれほど短時間に自由にムービーを切り刻めるツールを他に知らない。ややテーマから離れてしまうので、このあたりの方法については、もしリクエストがあるならば、今後取り上げるということにしたい。
結論。何を使うにせよ、本当にこだわりたいのであれば、こういうことを念頭において、その上で、何度もやり直ししながら最適なパラメータを探し出すという地道な作業をしなければならないし、どこかはあきらめないといけないものなのである。
もちろん、こだわりがない人にとってはどうでもいい話だ。「ただただちっちゃくなるからスゴい」ということであれば、テキトーなものを使ってテキトーに圧縮すればよろしい。
ただ、どんなにテキトーに圧縮しても、元素材がしっかりしていればしっかりさせることができる。逆はできない。ということで、圧縮の話は一旦クローズして、次回は、DVDリッピングも含めて、「圧縮に使う元素材」について考えてみたい。話の流れとしては不自然なような気もするが、先に「圧縮はタイヘンなのだ」とわかっていたほうがいいということもあるのだ。
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