ウェブページの表現の幅はタブレットPCで確実に広がる〜寺坂薫インタビュー

クリエイターの中でもウェブデザインという仕事は新しいだけでなく、他のクリエイティブとは異なりPCとの親和性が高い分野だ。タブレットPCには複数の利点があるという、ウェブデザイナーの寺坂薫氏に話を聞いた。

» 2004年05月31日 00時00分 公開
[大出裕之,ITmedia]

ペンタブレットは少し苦手だった

――今や多くのクリエイターがペンタブレットを仕事で使用しているが、寺坂さんはそうではなかったと言う。

 以前ペンタブレットは使ったのですが、今は持っていないんです。マウスのポインタが絶対値で移動するのに対し。ペンタブレットはポインタの移動が相対値ですよね。ペンを動かした距離と実際の画面での移動距離が異なるのがどうにもしっくりこなくて、面倒だったんです。

 私の場合ウェブのデザインですから、ペンを必要とする仕事は毎日あるわけではありません。なので、実はペンタブレットからは遠ざかっていました。

 イラストやエフェクトの仕事が多い人であればすでにペンタブレットを使っていらっしゃるので慣れやすいでしょう。でもウェブデザインの仕事が多い人にとっては、常にイラストを描いているというわけではないので、ペンタブレットよりもタブレットPCの方が迷うことなくペンを使えますから、これは入りやすいですね。ペンを動かした距離だけ、ちゃんとポインタが絶対値で移動しますし。

有機的なものをウェブに持ってくるということ

――カチカチとして情報が整理されたデザインを志向する場合が多いウェブのデザイン。有機的なニュアンスを手軽に取り入れたいという場合に、タブレットPCは有効だと言う。

 先日ウェブページを作っていて、たまたま、曲線のゼンマイみたいなものを置きたくなったのです。それを有機的に描きたかった、その曲線で強弱がつくようにしたかった。それも計算した強弱ではなく、人間的、感覚的な強弱です。

 時間があれば、Photoshop CSのペンツールで緻密にやっていくこともできますが、どうやってもスピード感は出しにくいです。ペンツールの達人でないとできません(笑)。紙に描いてスキャンすればいいのですがそんな暇はなく、マウスでやらなくてはなりませんでした。

 ウェブだと、カチカチとしたデザインが多いじゃないですか。どうしても。そういうところに有機的なものを入れたいと思うと、結構面倒です。ですが時間があるわけではないですし。悲しいことに、わざわざ絵の具を用意して描いて、スキャンする余裕が無いのです。

 あまりそういうことに出会わなかったということと、そういうのを避けてきたのはあるかもしれません。ですからタブレットPCを使うことで、デザインの作風はすぐに広がりますね。

 ウェブというスクリーン上の表現では、私の場合、ワコムのプロ向けペンタブレットであるintuos 2並みの精度は必要がない。手描き感、が得られればそれでいいです。

 それからアーティストさんなど、個人からホームページ作成を頼まれたりすることもあります。先日はベリーダンサーのホームページをデザインしました。

 通常の企業はすっきりさっぱり、という要望が多いのですが、個人のかたや飲食店などですと、インパクト、インパクトと依頼されます。表示にストレスがないくらいで、インパクト、写真大きく、とか。みなさん名刺代わりにホームページを利用されますから、タブレットPCで手軽に導入できる有機的表現は、非常に有効だと思います。

ウェブ仕事との親和性

――クライアントへ訪問し、プレゼンする。これまでのグラフィックワークと比較して、ウェブの仕事ではその比率が高い。

 ウェブの仕事は、これまでのクリエイターの概念とは異なり、情報の整理とか設計とか、必要になります。作る過程でも整理していかないといけないし、それと同時に仕上がりの完成度が求められます。また、プレゼンテーションを行うなど、移動する機会が多いのではないでしょうか。

 私の場合、主にデザインの決定段階で発注者を横に置いて進めることが多いです。デザイン案を用意して、それに対して直接コメントをもらい、その場でデザインを調整していきます。その方がクライアントの満足度が高く、後々のデザイン変更をさけることができるからです。こうして、デザイン案のコンセンサスをとってから、作り込み作業に入ります。

 紙のプロジェクトは紙が最終出力形態ですが、ウェブの場合、最終形態がスクリーンなので、スクリーンを使って見せるのが一番なのです。

 例えばデザイン案を20以上出さなくてはいけないこともありました。私は間に人が入るのがいやなので、直にやるようにしているのですが、それでもここもあそこも、と追加が出ます。仕事が始まるとそういうところの労力のほうが大きくなってしまうくらい。ですから少なくとも、造りたいと思っている人が何を作りたいかを直接聞こうと思っています。

 それと最近、どうやって見せるか、ということも気になりますね。個性的にプレゼンしてみたいとか。たいていPCを持っていって見せながらやります。このほうが相手の満足度も高いですから。タブレットPCであれば、こうやって開くだけで、インパクトが出ますね。


寺坂薫(てらさか かおり)

 ウェブデザイナー、グラフィックデザイナー、コンサルタント。グラフィック系ソフトベンダーの商品企画を経てフリーに。IT系企業のサイトをはじめ、各種サイトデザインを中心に活動。最近作は「Max-T 株式会社」「KAYOU Belly Dance Entertainment」など。

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