では、八丈島までのPC-GPSプロッターはどうするのか。そこで登場するのが「FUNAV50シリーズ」と呼ばれるフリーソフトだ。これはStormy Petrel船長がプログラムし、ヨット「Olive Oil」船長の川口氏がチャートデータを用意した、ヨットのりなら「おお、あの船長が」となる著名な二人によるGPSプロッターソフトだ。川口船長のWebサイトからダウンロードして入手できる。
航路計画もクロスベアリング作業などの「航海に必要な機能」を盛り込んでいるだけでなく、灯質データや海図データなど自分の航海に必要な海域の最新情報を自らデータファイルに(*.CT3や*.LT3ファイル)入力することで用意できるカスタマイズ性の持っている。
もちろん、自分で用意したデータのみならず、FUNAV50が持っているデータを利用して何が起ころうとも自分以外に責めをかぶせることはできない。まさにDo it yourself、Your own Riskのフリーソフトである。
以上の経緯から、知人のヨット「阿武隈」(ソレイユルボン 26フィート艇)は後甲板にPECとFUNAV50VをインストールしたTOUGHBOOK「CF-29」を搭載し、勇躍横浜を出航、洲崎を越えて伊豆諸島当方海域を八丈島に向けて航海したのであった……が。
「いやー、今年は黒潮に負けました」という第一声が戻ってきたのが出航翌日。風速25ノット超えの強風の中、GPSが平均8.6ノット(!)の速度を示す勢いで帆走していたが、利島沖までいったところで南からくる黒潮に押し戻され対地速度は2ノットまで減少。残念ながら「黒潮に押し流されるように」戻ってきてしまったそうだ。
「時代劇にでてくる“暴れ馬”のように走る船に、ようやっとしがみついている感じだった」とよく分からないながらも、終始頭から波を被りまくる激しい航海だったようだ。
「すべてが海水まみれになって、まず時計が止まり、オートパイロットが止まり(!)、GPSも不調になったが、さすがTOUGHBOOKは最後まで正常に動作していた」と彼が証言するように、十分塩っ気があることが証明された「マリン仕様」のTOUGHBOOKであった。
知人船長がとくに評価していたのは、やはり頑丈な筐体。
「波によろけて間違って踏んづけても(編注:今回、無理いって貴重なデモ用TOUGHBOOKを用意してくれた松下電器産業広報の坂井さん、す、すいません!)、波の衝撃で外れたオートパイロットのロットが液晶画面に”突きっ”を入れても(編注:坂井さん、ほ、本当にすいません!!)、筐体、液晶パネルともに何ともない。激しく揺れてキャビンに行くこともできなかった今回の航海では、このタフネスさが何より安心できた」というほど、荒い仕打ちにも耐えてTOUGHBOOKはその役目を果たしたのであった。
また、タッチパネルによる操作の容易さも、一種極限状態におけるPC操作では、乗り手の負担を著しく軽減してくれたと知人船長は述べている。
「マップの拡大や範囲選択などで効果大なり。ただ、これはソフト側の問題でもあるが、アイコンやメニューを選択するときに狙いをつけるのに困難を感じた」(知人船長談)
横浜を出航してから利島沖で引き返し、三崎港に避泊するまでの30時間。30分おきの船位確認ごとに起動してあとは休止状態にしておいたTOUGHBOOKのバッテリー残量は65%だった。
「今回の航海では通信などを行っていなかったものの、八丈島までの航海ならこれで十分だったはず。もっと頻繁に利用してもよかったぐらいだ」とヨットにおけるPCの外洋利用に高く評価できたTOUGHBOOKだが、知人船長は最後に一つだけ改善要求を出している。
「TOUGHBOOKを露天甲板で白昼使うと液晶がまったく見えなくなる。入港後にキャビンで使うともちろん見えるが、甲板で使えないとTOUGHBOOKたる必然性がない」(知人船長談)
タッチパネルの構造や、反射型液晶の画質などいろいろと問題はあると思うが、「死ぬ思い」の航海で使ったユーザーの意見だけに、ぜひぜひ改善していただきたいところだ。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.