タブレットPCが60台導入されたコロシアム教室には、中央に四方の壁に設置されたDLPリアプロジェクション(4つのリアプロは、PCの系統とは別にDVD映像も流せる)を操作するコンソールがあり、そこに教員が立つ空間がある。中央空間から四隅へ道が伸びており、その道の終点には縦型スピーカーが配置されている。
中央にはリアプロ用コンソールのほか、教員用のタブレットPCとラックがあり、それとは別に、4つに分割されるグループのセンターとなるタブレットPCが4台、配置されている。そこがデータを入れるサーバ代わりにもなっているし、4つの壁面リアプロへはここの画像が原則映し出される。
全体を統合するアプリケーションには3つのモードがある。1つがコラボレーションモード。1枚の画面を60人の学生と1人の教員で共有するというもの。61人が書いたものがいっせいに出てくる。教員のほうで書き込みの制限などをしないと収集がつかなくなってしまう。
2つ目のモードはグループモード。4つのグループ単位で、15人が1つの画面を共有しあう。それを後ろの画面に出して発表しあう、というもの。グループの中で別々に作業ができる。PCの画面のどれをどこに出すか、というのは、別途センターのAVコンソールで行う。画面は4分割で、それぞれのグループを同時に出すこともできる。
最後の3つ目は、一人ひとりが1枚の画面に自分の画面に書くというフリーモード。教員のタブレットPCでは、それらすべて、誰が何を書いているかを見ることができる。特定の学生の画面をスクリーンに出すこともできる。
さて竣工したキャンパスと、世界初のコロシアム教室。さぞや費用がかかっていると想像するが、実はそうではないという。建物やIT系設備などほとんどが世界や日本で初めて導入される設備ばかりの青山学院大学。それこそが、経費節減のミソなのだそうだ。
青山学院大学は、どこにもない、現場にいるからこそ見えてきたニーズを反映させたアイデアを形にし、アイデアをメーカーに提供する。メーカーでは新製品開発費用と割り切れるので、さほど高額でない金額で青山学院大学に製品を納品。そしてそれを自社製品として他の公共団体・教育機関・企業へ売る、というわけだ。
大学そのものが関係した企業のショーケースでもあり、03年4月のオープン以来、既に国内外から300回以上見学者が訪れているとのこと。
――このようなキャンパス設計やシステム設計は外部に任せることなど不可能ですね。
濱中 われわれは、全部中で書いています。担当するスタッフが15人くらいいます。そうでなかったら、こんなことはできない。教務のシステムや学生管理システムも、全部内部で作ってきている。世の中には欲しいものがないのですよ。
これまでも、アルカテルのスイッチとシスコを組み合わせたこともありました。通常こんなことはできない。実際に図面を書いたのはわれわれです。またEthernetをスター型に組み合わせるというのは、かつて理屈はあったが、どこもやっていなかった。トークンリングから引いていた。スター型ネットワークを組むということで大学助成金を最初にもらったのはわれわれです。
いまだに開発は外には出しませんね。給与ですとかパッケージができているものはいいのですが。別に専門家を雇っているわけではありません。配置転換でころころ変わる。たとえば製鉄工場は製鉄用のソフトを持っているが、そんなものを外注するわけがない。仕様を決めて作らせることはしても。そういうことをきちっとやらないとだめなわけです。
製造メーカーにデザイン意匠権などは渡しているけれど、実際に絵を書いたのは私だったりします。
青山学院大学が採用した規格・システムが日本の多くの教育機関に採用されていく。あまり知られてはいないがこういう流れがある程度一般化しているという。だからこそメーカーも共同開発に積極的に取り組んでいるという面もあるだろう。
今回取材に応じていただいた濱中氏は、大学におけるネットワーク・システムのありかたを研究・開発してきた第一人者だ。自分たちが必要とするシステムや設備を人任せにしない、という点において、なかなかまねのできない、だが大切な部分を守っている。筆者の感想として、このような事務局のある大学に入りたくなった(子供を入れたくなった)のだが、その雰囲気の幾分かでもお伝えできただろうか。
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