ペンコンピューティングの過去・現在・未来――Windows XP Tablet PC Edition開発者が語る(後編:Q&Aおよび未来)インタビュー(1/2 ページ)

Windows XP SP2に含まれる形でリリースされたTablet PC 2005の改良点、ここに至るまでの経緯、そしてタブレットPCの未来をマイクロソフト米国本社の開発者に聞いた。前編の説明を受け、後編では更につっこんだ質問への回答と未来に向けての話となった。

» 2004年11月16日 22時46分 公開
[大出裕之,ITmedia]

 Windows XP SP2に含まれる形でリリースされた、Windows XP Tablet PC Edition 2005。(以下Tablet PC 2005) 今後出荷されるタブレットPC製品に搭載されるほか、Windows XP SP1ベースのタブレットPCをすでに持っているユーザーには、SP2へWindows Updateをすることで、自動的にインストールされる。XP2は無償なので、Tablet PC 2005へのアップグレードも無償ということになる。Tablet PC 2005での改良点、ここに至るまでの経緯、そしてタブレットPCの未来を、SP1からたずさわっているマイクロソフト米国本社の開発者に聞いた。前編の説明を受け、後編では更につっこんだ質問への回答と未来に向けての話となった。

 前編では最新のタブレットPC用OSであるWindows XP Tablet PC Edition 2005の進化した点と、興味深いアプリケーションについて話を聞いた。そこで後編では、質疑応答を中心に、未来の方向性についても、米マイクロソフト・タブレットPCグループ、プログラムマネージャの瀬戸氏に話を聞いた。

Windows Journalの位置づけとは

――Tablet PC 2005を出す際に、「タブレットPC 入力パネル」を中心に機能強化が図られた理由は何でしょうか? Windows Journalが強化されなかったのは?

瀬戸 Windows Journal自身は、Windowsのワードパッドやメモ帳と同様の位置づけと考えています。OSとして、インクの機能が簡便に使えるような形での組み込みソフトがある必要がありますが、更に、高度な付加価値については、ソフトウェアを作られるデベロッパーの方々と広く話をしています。

 弊社ソフトですとOfficeやOneNoteにインクの機能が入っていく。Office System 2003では、ワード、エクセル、パワーポイントなどでインクが直接書き込めるようになっています。

 Agilixという米国のソフトウェア開発会社は、Windows Journalに相当する機能をコンポーネント化し、2004年11月の時点で、無料お試し版を、InfiNotes Standard Editionとして公開しています。投げ縄、ペンを選ぶ、インクの色を選ぶなどのWindows JournalのUIがありますが、それら機能が、VisualStudioですぐに使えるコントロールとして提供されることで、いろいろなアプリケーションに、更に簡便にインク機能を追加することができるようになりました。InfiNotesをインストールすると、Tablet PC SDK1.7 が提供するInkPictureコントロールを更に拡張した形になります。これも、ソフトウェア開発者には非常に強力なソリューションです。

デジタイザの解像度について

――デジタイザの解像度というのは、これでいいのでしょうか?デジタイザの解像度が変わると、グラフィックソフトだけではなくて、普通に文字を書く際の認識率に影響するのでしょうか。

瀬戸 文字認識について言えば、今の解像度以上に高い必要はありません。手書き認識エンジンの内部の処理を考えると、それほど高い解像度のデータを引きずって認識処理をすると、データが重過ぎてしまって処理時間がかかりすぎるのです(笑)。だから、データを意図的に落としています。そんなに細かい情報を持って認識をする必要があるとしたら、認識がセンシティブ過ぎます。同じ人が書いても二度と同じようには書けません。ですからどこかで情報を落とす必要があります。

――落とさないと、ある程度類型的にはならないと。

瀬戸 そうですね、ところが、難しいのは類型的にすることは必要ですが、情報を落としすぎると、似ているけれども、別の文字の区別ができなくなる。そのあたりは兼ね合いです。前回、お話しましたが、枠なしの「手書きパッド」では、文字と文字をどこで切ったらいいかということをさまざまな組み合わせで計算します。解像度が高い、すなわち、データ量が多いと、計算量も多くなりますから、デジタル化されたインクの情報量、すなわち、文字の形状情報を、必要最小まで落とすと同時に、言語モデルを組み合わせて認識精度を上げています。例えば、カタカナの「ロ」と漢字の「口」では、その文字の形状と書き順を見ても、解像度を上げたところで、区別できないけれども、前後の文字とかを見て言語情報を使うと全く別の角度から判断できるようになるわけです。

 最終的にはエンドユーザーにとってのレスポンスタイムも重要です。これはソフトウェアをデザインする際のひとつのポイントですよね。今開発しているOSが2年後に世に出るとして、どのくらいのハードウェアが出てくるか、ということを考えるわけです。Tablet PC 2005で言語処理を入れたのがいい例でしょう。これは、一世代前のタブレットPCのハードウェア能力では重すぎるかもしれません。ですが現在、皆さんが手にされているハードウェアでは妥当なレスポンスタイムに収まっている。将来の機能拡張も、ハードウェアがこの位、高速化するから、このくらいのソフトウェアの拡張を入れてもいいだろうということを常に考えています。

 それからグラフィックス用途ですと、筆圧検知のレベルをもっと増やすとかは考えられますね。デジタイザというものを考えた場合の、システムとしてのバランスですね。解像度を上げても、デジタイザ自身のノイズの問題もあります。例えばピュアタブレット型にした時、PCとしてのハードウェアを全てデジタイザの裏側に背負っているわけで、従来のデスクトップPCにデジタイザをつないで使っている場合と異なり、ハードウェアコンポーネントのノイズ源を背負っているわけです。これだけでも、ハードウェアを作る側にとっては非常にチャレンジングです。ただ、解像度を増やしても別のノイズファクタがあって、そこで帳消しにされてしまったら、意味がない。

――コンバーチブルのほうがまだ楽ということですね。

瀬戸 そうですね、ハードウェアメーカーの方々もいろいろチャレンジングな部分を一つ一つ解決されてきています。これは、ペンコンピューティングがメインストリームに出て行く非常に大きな原動力になっています。絶妙なバランスで製品として作り上げるハードウェアメーカーの皆様の努力と、Tablet PC 2005のOSとしての機能強化が、ここにきてぴたっと揃って来たという感じを非常に強く持っています。

――グラフィックデザイナーやイラストレーターの話を聞くと、もっと解像度がほしい、といいます。

瀬戸 そうですね。グラフィックデザイナーやイラストレーターの方々は、タブレットPCの価値をいち早く察知された方々だと思います。認めた価値に対して、更に高い機能を要求されている。そういうお客様には、モノを作る側が知恵を絞って、最高の価値を提供しつづける必要がある。そう思いますよ。作る側の冥利ですね。

PDAのような1ストローク入力

――あるPDAでは、1ストロークでローマ字を記入するものももあります。あのような入力方法は、Tablet PC 2005では採用されなかったようです。

瀬戸 おっしゃる入力方式は手書き入力エリアが極端に限られたデバイスに一番適していると思います。ご存知の方は少ないかもしれませんが、バージョン1(Windows XP Tablet PC Edition、以下同)では、同様の入力方法が実現されているんですよ。ですが結局、タブレットPCには、1ストローク入力が良いという結論は出ませんでしたので、Tablet PC 2005ではサポートしないことにしました。

 1ストロークではありませんが、バージョン1の日本語入力では、一つの枠に一文字書く枠ありモードで、別の枠に書き始めると先の枠に書いた文字を認識するというモードも入っています。2つの枠さえ表示できれば、最小限の表示エリアで入力パッドが使えるという意味では1ストロークの方法と狙いは同じです。この機能は、Tablet PC 2005にも引き継がれていますが、ほとんど使われていないようです。タブレットPCでは画面には十分にスペースがあるし、入力パネル上でかな漢字変換もできるので、あたかも、キーボードのかな入力をシミュレートしている感のある、このモードの効果は限られていると私は思っています。これは、ユーザーの方々の意見を聞きながら、一緒にOSを進化させていくそういう作業ですね。

ジェスチャは諸刃の剣

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