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» 2005年05月23日 14時42分 公開

山谷剛史の「アジアン・アイティー」:Windows XPでカレーが何杯食べられる?──IT大国インドの海賊版事情 (2/2)

[山谷剛史,ITmedia]
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中国とインドは「何が同じ」で「何が違う」?

 中国とインドは何が異なるのか? 簡単にいえば、PCの存在意義が異なるのだ。今でこそ中国やインドは、それなりに生活が安定し、日本人と同じような生活スタイル(それは購買力というわけではない)を営む中流以上の家庭でPCが普及しているが、そもそもインドはビジネスやプログラミングなどのビジネス利用からPCが普及し、中国は(もちろん事務用途もあるものの)ゲームやチャット、DVDといったホビーユースを中心にPCが広まっていった。

インドの本屋のPCコーナーは実用書でいっぱい。ゲームの攻略本は見かけない

 インド企業が契約社会の欧米諸国の顧客と取引をする際、順守すべき法令やルールなどがしっかりと定義されている事や、輸出向けビジネスに税制上の優遇措置が与えられている分、監査も厳しい。

 このような状況においては、インドの基幹産業とまでなった「ソフトウェアのアウトソーシング業」で使っているソフトウェアが海賊版であることが分かってしまった場合、まず、発注元の欧米企業からの仕事がなくなり、欧米企業からの発注停止によって輸出向けビジネスの税制上の優遇措置がなくなるなど、その企業の収益は大幅に悪化する。

 海賊版の導入が経営に致命的な影響を及ぼすのが分かっているなら、いくら正規版の購入に(日本的感覚で)億単位かかろうとも、海賊版の導入を躊躇すると思う。

 そんなインドのソフトウェア開発現場で正規版を導入がために使われているのが、外国資本の会社がOSや開発ツールなど現場に必要なソフトウェアライセンスを必要数だけ「貸し出す」手法だ。欧米にある発注元がライセンスを購入し、インドの発注先にライセンスを貸し出すのは違法ではない。このおかげでインドIT産業における海賊版の蔓延を防げたのである。

 インドのコンシューマPCの現状を見ても、ホームユースにおけるキラーアプリケーションが存在せず、インターネットを楽しむために必要な回線インフラがまだまだ貧弱であるため、個人が無理してPCを購入するまでネットをしたいとも思わない。

 ネットワークインフラがこのような状況なので「ネットはネットカフェで楽しむ」というのが一般的なのだが、インド人にとってPCとは娯楽で遊ぶものではなく、実用的な道具という認識が非常に強いため、ネットカフェでもメールや情報検索などに使うのが中心で、ゲームは時間が余ったとき程度にしかやらない。

 中国人の一般的なPCに対する考え方は、この連載のLenovo PC購入記事で紹介した店員とのやりとりにあるように、ソフトウェアの価値を理解していないユーザーや業界関係者が多いように感じる。インドでも海賊版のCD屋はあるにはあるが、そのような店はそれが悪いことだと知っているかのように、こそこそと販売している後ろめたい空気があった。しかし、中国では実におおっぴらに販売している。この差が「海賊版はよくないもの」と認識できるモラルに影響を及ぼす。

インドの首都デリーの電脳街で路上販売されているCD

 ソフトウェア産業というPCとソフトウェアを道具とする輸出の比重が大きいため、インドの違法コピー率は周辺国と比べて酷すぎる状況ではない。一方で、中国のような、PCの使用用途がホビーユースや個人商店など、企業ではなく個人で使うのが一般的な状況では、インドと異なり、いったいどこの海外資本がソフトウェアの正規ライセンスを与えてくれるのだろうか。

 娯楽用のキラーアプリケーションがあり、通信インフラがしっかりしていて、安いアセンブリパーツを集めて作ったPCなら個人でも買えない値段ではない。そしてPhotoshopを使ったサービスを事業の柱にしているカメラ店や、Microsoft Officeを利用した印刷屋が当たり前のようにある社会ゆえに、恐るべき海賊盤ソフトの普及率となってしまった気がしてならない。

ところでアナタの会社は大丈夫ですか?

 ことは「中国はインドと違って、PCがあらゆる場面で使われいて、一般的な生活シーンで使われているので海賊版ソフトがものすごく普及しちゃいました。大変ですね、おしまい」という単純な話だけではない。中国における高い違法コピー率は中国人だけの問題ではない。

 中国の日本人滞在数は世界の国々と比べてもトップクラス。上海、香港などは5万人以上がビジネスで滞在し、そのほか長期滞在の留学生などもいる。現地駐在の日本人だけでも海賊版に対してノーを言えれば、数字は少しでも変わると思うが、残念なことに実際のところ多くの日本人が「まぁ中国(外国)だからいいや」といった考えを持っている。

 ビジネスソフトを中国で買わずとも、たとえば中国でプレイステーションを購入して改造し、CD-Rに焼かれたゲームを購入する日本人を筆者は多数見てきている。コピー率といった数字だけの問題でなく、中国人から言えば「なんだ、日本人だって海賊版使っているじゃないか」と思われるのはよくないことだ。

 中国において、ハードウェア産業だけではなく、インドのような国外へのアウトソーシングを主としたソフトウェア産業もその規模は小さくなく、上海、北京などいくつかの都市にはソフトウェアパークだってある。

 では中国のソフトウェア産業における最大の輸出先はどこだろうか? インド人が英語を普通に使えるという理由から米国が最大の相手国となったように、漢字圏(2バイト文字圏)のお金持ち国である日本が中国ソフトウェア業の最大顧客なのだ。

 とすると、中国の海賊版率の悪さはひょっとして発注側の日本企業に、インド企業に対する欧米企業のようなライセンスモラルの厳しさがないからと思うのだが、日本の担当者の皆さま、そのあたりはしっかりしていますか?

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