高画質を追求する意志が“ナナオのDNA”──「FlexScan S2110W」開発者インタビュー開発者公開インタビュー詳報(2/2 ページ)

» 2005年07月15日 00時00分 公開
[本田雅一,ITmedia]
PR
前のページへ 1|2       

“ナナオ画質”はしっかりとキープ

 液晶ディスプレイの場合、ガンマをカスタムで設定したときや色温度を変えたとき、やや階調に難を感じることもある。量子化ノイズの蓄積が色相にブレを生じさせ、グラデーションの途中で色相が転ぶといったことが起きやすい。

 ところが本機はそうした色転びが非常に少なく、一見して階調性の良さがわかる。ナナオ製液晶ディスプレイは、これまでも映像処理部分の精度が高く評価されていたが、今回の製品ではさらにその部分が進化しているようだ。では、どのような点が変化しているのだろうか?

川越 「映像処理のコントローラは半導体技術の進歩とともに、どんどん能力が上がっています。最近のナナオ製液晶ディスプレイには内部14ビット処理の新型チップが投入されています。これにより、従来よりも量子化誤差が減り、微妙な不自然さが改善されています」

「少し前までの弊社ディスプレイは、内部10ビット演算で液晶パネルの駆動も10ビットでした。現行製品も10ビット駆動は同じですが、内部演算精度は14ビットと、従来比16倍のダイナミックレンジになっています。14ビット精度で演算したものを最終的に10ビットに割り付けるため、微妙な色合いや階調を正確に表現できるようになったわけです」

「ただし、単に精度を上げただけではありません。コンピュータから入力された信号から、液晶パネルをどのように駆動すべきか、演算でマッピングを行います。このときルックアップテーブルを参照し、最適な色で表示するわけですが、このルックアップテーブルの参照方法や演算など色の割り付け方法が変化しています。このあたりは理屈うんぬんよりも、高画質ディスプレイを長年に渡って作り続けたが故のノウハウの蓄積から来ているところですし、“ナナオの画質”を支えているところと言えるでしょう」

 個人的には、パネルサイズがライバルよりも一回り大きい点も良いと感じた。WindowsあるいはMacの内部処理解像度からすると、適切な画面距離を取る場合は、本機程度のピクセルピッチが今のところ一番使いやすい。この点は意識してサイズを選択したのか?

川越 「ピクセルピッチは20インチワイドで100ppiぐらい、21インチワイドだと94ppiぐらいになります。実はこの94ppiというのは、市場で人気の高い17インチSXGAとほぼ同等なのです。また、Windowsの内部処理解像度は96dpi、W3Cで決められているWebコンテンツの基本解像度も96dpiです。こうしたことから、21.1インチパネルの方が使いやすいだろうと考えました。将来、WindowsがLonghornになればppi値を高くしても見にくいといったことはなくなるでしょうが、実際にニーズが出てくるのは2007年以降でしょうから、現時点ではこのサイズがベストだと考えました」

 450カンデラの明るさは本機の長所でもあるが、一方、普段のPCでの作業はもっと低輝度で行うことが多いだろう。たとえば輝度を10%程度にまで落としたときに、インバータ制御が不安定になるといったことはないのか?

川越 「これは液晶ディスプレイを発売した当時から行っている工夫ですが、ディスプレイ中央の背面に光センサを取り付け、中心部の輝度が現在どの程度なのかを測定し、その値をインバータ制御にフィードバックしながら明るさをコントロールしているため、明るさが不安定になることはありません」

より“高み”を目指す“ナナオのDNA”

 これだけコントラスト比、階調性、それに応答速度が改善してくると、ハイエンドCRTに匹敵する液晶ディスプレイが欲しくなる。いつかはそれができるのではないか、という期待をナナオに対して持っている。今回の製品はコストパフォーマンスを狙った製品だが、将来は、たとえば「FlexScan F980」レベルのディスプレイを液晶でも実現してほしいものだ。果たしてそれは可能なのだろうか?

川越 「まず色再現域に関しては、LEDバックライトがそろそろ使われ始めています。LEDバックライトは色再現域が大幅に向上し、CRTのレベルを超えることができます。階調性に関しても、液晶パネルへの割り付けが12ビット、14ビットと上がっていき、同時に内部処理の精度もさらに上げていくことができます。数年後にはCRTレベルのスペックを持つ製品が作れるでしょう」

 たしかにスペックは、時間とともに少しずつ上がっていくだろう。時間の流れに対して半導体チップの性能が上がるのは、何もナナオだけではない。また、CRTの場合は素直な特性をそのまま引き出せば良い画質が得られるのに対して、液晶ディスプレイの場合は、入力信号に対してどのような色を割り付けるのかをデジタル技術でコントロールしているという違いがある。パネルの性能、チップの性能向上だけでは、アナログのCRTと同等の画質を引き出すことはできないのだ。

 ナナオはこうした技術的な壁に対して、どのように挑戦していくのだろうか。

川越 「チップが高性能なだけではダメというのはその通りです。高性能な映像処理チップを開発しても、デジタル技術である限りは他社もスペック面では追いつけるでしょう。そこに“ナナオならではの良さ”を、私自身も求めてはいません」

「我々には、高性能なCRTディスプレイと液晶ディスプレイの双方を並行して開発してきた経験と蓄積があります。CRTディスプレイに匹敵する特性を引き出すノウハウで、他社に引けを取る部分は全くないと自負しています。さらに液晶テレビのFORIS.TVでの経験も積み、動画像をいかに美しく自然に見せるかというノウハウもここに加わってきました。これらのノウハウをパラメータとしてチップに与えたりすることで、“ナナオならではの良さ”を持った製品を作ることが可能になると思います」

 CRT時代、ナナオのディスプレイは、スペックの高さだけでなく、安定して良い画質が得られることが評価の高さにつながっていた。それは、やや人間くさい、地道な検査工程と製品へのフィードバックによる、アナログ的な調整のたまものだった。デバイスが液晶パネルに変化しても、その違いは引き継がれているということなのか?

川越 「製品を企画・開発している者から実際に生産・検査を行っている者まで、良い画質の製品を届けようという気持ちは、いわば“ナナオのDNA”とも言えるもので、これは昔も今も変わりません。ナナオ製品の開発・生産に携わる人々のセンスや蓄積したノウハウ、どのように絵が映されるべきかなどは、お金をかけて開発したからといって、すぐに得られるものではないんです。それこそが我々に求められていることであり、商品の強みとして活かさなければならないところだと自負しています」

前のページへ 1|2       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.


提供:株式会社 ナナオ
制作:ITmedia +D 編集部/掲載内容有効期限:2006年3月31日