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» 2006年09月29日 16時00分 UPDATE

IDF Fall 2006:IDFで示されたモバイルを快適にする技術

Intelは新世代のノートPCで実装される新しい技術をまもなく投入しようとしている。IDFリポート第4弾は「IEEE 802.21」「無線LANメッシュ」「ダイナミックパワーコントロール」を紹介しよう。

[鈴木淳也,ITmedia]

 今回のIDFで示されたIntelが考えるモバイル技術のロードマップには、2007年前半に登場予定のSanta RosaプラットフォームでノートPCへのIEEE 802.11n実装が標準となるほか、2008年以降をめどにWiMAXと無線LAN技術のワンチップ化が進み、WiMAXがPC向けの標準ネットワーク技術となる、という姿が描かれている。将来的には、こうした異なる種類のネットワークをまたいでユーザーがシームレスにインターネットへ接続できる環境を提供するのがIntelの目標だ。彼らが描く世界を実現するために必要な要素技術をIDFで公開した研究途上の最新技術プレビューを中心に見ていこう。

携帯とWiMAX、無線LANのローミングを実現する「IEEE 802.21」

kn_idf04ie80221.jpg IEEE 802.21の概念図。無線LAN、携帯電話、WiMAXの3つの異なるネットワークや運営キャリアをまたぐローミング接続を可能にする

 Intelはここ数年のIDFで、無線LAN(WLAN)、WiMAX(WMAN)、3G携帯電話(WWAN)の3つの無線通信技術を組み合わせ、通信距離や場所に応じて使い分けることを提案している。ネットワークのカバー範囲は3G携帯が一番広く、次いでWiMAX、無線LANとなるが、通信速度でいえば無線LANが一番高速で、次いでWiMAX、3G携帯の順になる。もし、3G携帯電話と無線LANの両方が使えた場合、通信速度では無線LANに軍配が挙がるが、そこから無線LANの圏外にでてしまったら、そのまま3G携帯のネットワークに移行できると接続を維持できる。

 このように、異なるネットワーク間をシームレスにまたいでスムーズに接続するネットワークを切り替える(ヘテロジニアス・ハンドオーバー)技術として標準化を進めているのが「IEEE 802.21」(Media Independence)だ。いつでもどこでも適切なネットワークを探し出して接続をできるだけ維持し続けることを目標にしているこの規格は、ネットワーク通信における下部レイヤを抽象化することで上位レイヤにあるアプリケーションは接続しているネットワークの種類やキャリアの違いを意識することなく、ネットワークサービスを利用できるようになる。

 IEEE 802.21では、3種類のネットワークとの仲介を行うMIH(Media Independent Handover)の機能をつかさどる「802.21 MIH Function」と呼ばれるレイヤが存在し、これにIETFが標準化を行った「Mobility Management Protocols」のレイヤが重なる構造になる。あとはハンドオーバーのルール(接続先のネットワークの種類や優先順位の決定など)と接続管理を行う機能が加わることで、ヘテロジニアスハンドオーバーの技術が標準化できる。ネットワークを利用するアプリケーションは、下層レイヤにこのIEEE 802.21が存在すれば接続先のネットワークの種類を意識せずに動作できるようになるのだ。

 今後、モバイルWiMAXが普及することで、無線LANとWiMAXを併用して使えるエリアも増えてくるだろう。そのとき、IEEE 802.21のような技術が標準化されることで場所を問わずに快適なブロードバンド環境を楽しめるようになる。

オフィスで、家庭で、無線LANをより快適に利用するために

 Intelの基礎技術研究の成果の1つとして注目したいのが「メッシュ・ネットワーク」だ。例えばオフィスなどで無線LANによる通信を行うとき、部屋の中央にアクセスポイントを1つだけ置いて、すべてのPCがそのアクセスポイントに集中するのではなく、部屋の中にアクセスポイントの中継を行うアンテナを多数配置して、このアンテナ間で送受信データをバケツリレーのように転送することで効率的な無線通信を実現する。

 アンテナを多数配置するが通信効率がアップするのなぜだろうか。1つのアンテナが影響を及ぼす範囲(通信可能な範囲)を「セル」と呼ぶが、現在の無線LANでは、セル内にあるアンテナの1つが通信のために電波を発信するとほかのアンテナは電波干渉を避けるためにいったん通信を中断してしまう。セルの範囲が広いほどこうした衝突が起こる可能性が高くなり、相対的にパフォーマンスは低下する。この問題を解決するために、セルの範囲を狭くしてなるべく部屋全体を隙間なくカバーできるようにアンテナを配置すると、その通信は近隣のアンテナ同士がデータ送受信の仲介を行うことで成立する。このようなネットワーク形態を「メッシュ・ネットワーク」と呼ぶのだ。

 IDFの技術デモで紹介されていたのは、あるノートPCがアクセスポイントとの通信を行う場合、その間に存在するノートPCのアンテナを借りる形で中継をしてもらい、より効率的な通信を実現するというものだ。またバーチャルMIMOという技術も紹介されており、例えばデータ量の多い通信処理が発生した場合、近隣のアンテナの助けを借りてアンテナ2本による多重化通信を行う。MIMOは2本以上のアンテナを使って高速通信を行う技術だが、これを仮想的に再現するのがバーチャルMIMOの技術だ。メッシュやバーチャルMIMOを使って通信を行った場合、通常のポイント・ツー・ポイントのダイレクト接続ではコマ落ちが発生するストリーミングビデオの再生がスムーズに再生できていた。

 メッシュ・ネットワークの実現には、いくつかの技術的ハードルがある。まずは現状のポイント・ツー・ポイントでダイレクトに拠点間接続を行う方法を見直して、無線LANネットワーク全体がメッシュ実現のために協調動作しなければならない。メッシュ・ネットワークでは、ノートPCが2台以上あると一方のノートPCの通信のためにもう片方のノートPCのアンテナが知らないうちに利用される可能性もあるので、ソフトウェアの実装やセキュリティポリシーの面でまだまだ議論しなければならない。もう1つの課題は、近隣のアンテナをどうやって経由すれば目的のアクセスポイントに到達できるのか、インターネットでいうルーティングの技術を確立しなければならない。

 もう1つの興味深いデモは、無線LANのアンテナ出力をダイナミックに制御することでセルの範囲を調整し、効率的な通信を実現しようというものだ。通常、1つの部屋に複数のアクセスポイントを配置する場合、それぞれに違うチャネルを割り当ててアンテナ間での電波干渉を避けるようにする。だが、このダイナミックパワーコントロールを利用することで、そうした細工をせずとも無線LANのポテンシャルを最大限に引き出すことが可能になる。アンテナの出力はすべてソフトウェアで制御されるため、ハードウェアを購入しなくても対応が可能だという。実験で利用されていたのはCisco Systemsのネットワーク機器で、同社の製品であれば対応できるようだ。

kn_idf04vurmimo.jpg バーチャルMIMOと無線LANメッシュの技術デモ。単純なポイント・ツー・ポイントの接続だけでなく、隣接するアンテナを間借りする形でより効率的で高速な通信を実現する
kn_idf04varipwr.jpg エンタープライズ無線LANのデモでは、アンテナの出力をダイナミックに変更することでチャンネルの調整なしに同室内に複数のアンテナを配置し、アンテナ間の干渉を最小限に抑え込んだネットワーク構築が可能になることをアピールしていた

kn_idf04hiademo.jpg MIMOでは送受信で2本以上のアンテナを必要とするが、その通信をより効率的に行うためのCMOSベース「High Isolation Antenna」技術デモ
kn_idf04ie11ncrd.jpg 802.11nに対応した無線LANのPCI Expressカード。上部にアンテナが3つ見えるほか、無線LANチップにはAirgo製のものが用いられている

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