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» 2007年02月09日 11時00分 UPDATE

後藤重治のPC周辺機器売場の歩き方:第7回:メーカーに格付けされる販売店

販売店はメーカーより強い。当然である。しかし、メーカーも販売店の格付けを行って製品の供給をコントロールしていたりする。嗚呼、これぞ大人の世界。

[後藤重治,ITmedia]

PC-SUCCESSサクセスという販売店に対するメーカーの「空気」

 先日、PC-SUCCESSを運営するサクセスが自己破産を申請した。筆者は公私共に縁があったわけではないが、PC周辺機器メーカー、とくに現場サイドに“恐れられている”販売店だったことは事実だ。

 激安価格で有名だっただけに、同社の仕入れ部署はなかなかに強気だったが、それだけに、メーカーの現場担当では「あまり深入りしないほういいね」的な空気が流れていた。この“深入り”の具体的な心象風景を描画すると「大量に売ってくれるからとてもありがたいのでありますが、でもビジネスの交渉現場ではなにかとツライこともありまして」ということになるだろうか。

 Windows Vistaの出荷解禁日直後のタイミングで“ことが起こった”ことになにかしらの「作為」感じている業界関係者も少なくない。過去を振り返ると、Windows 95販売開始直後に日本インコムという販売店が倒産し、その直後に連鎖的に倒産したと言われるアイシーエムというメーカーがあった。そのようなメーカーが出てこないといいのだが。

販売店のランクで対応に差をつけるメーカー

 販売店はメーカーの「お客さま」である。しかし、メーカーに勤務する社員はプライベートで販売店の「お客さま」の1人にもなる。製品知識が豊富である彼らは、知人や友人から製品を購入するときにアドバイスを求められるように、購入の意思決定に関わっている場合が極めて多い。

 そんな彼らの中には、「ここの販売店では絶対に買わないっ」と公言する者が多数いる。販売店にとって問題なのは、これが、純粋にその店の価格やサポートを評価して発言しているのではなく、業務上でのやり取りが発端となって「恨みに近い」拒否的な感情を持っているパターンがあるということである。

 私憤といえばそのとおりなのだが、PCのコモディティ化が進行して購買層が多岐にわたるようになった現在、こうした「ご近所のご意見番」でもある取引先の人間が下す評価は軽視できない。もともと口コミの影響力が強い業界であるうえに、遠慮やしがらみが働く“会社付き合い”の顧客が「あのメーカーの製品は二度と買わない」というのとは違い、情報の伝播という意味ではきわめて遠慮がなくオープンに広がっていくので、なおさらその影響は大きくなる。

 これらと直接関係するわけではないが、ビジネスで競合関係にあるメーカーであっても、営業の現場レベルや経営者レベルでは情報を交換できるパイプを持っている。そのため、特定の販売店に対する噂や情報などは、つねに知ることができる状態にある。また、業界内の複数のメーカーに製品や部品を供給している国内外の協力会社のもとに噂が吸い寄せられるように集まってきて、そこから別の取引先に伝播していくケースも見受けられる。

 その結果、特定の販売店に対する評価や格付けは、どのメーカーの担当者に話を聞いてもだいたい同じ、という状況に陥る。多くのメーカーは販売店を独自にランク分けし、新製品の割り当てやラウンダーの配置で明確な差をつけているが、結果的にどのメーカーも似たような格付けを特定の販売店にしていることも多い。

だから、新製品が店頭に並ぶタイミングに差が出る

 メーカーは販売店ごとに対応を変えている。「なんだかなぁ〜」と思うかもしれないが、これが現実である。では、製品を購入するユーザーとしては、この「差別」をうまく使い分けるワザがないだろうか。

 仮に、この差別がモロに効いてくる「数量限定の新製品」をいち早く入手したい場合に絞って考えてみよう。予約販売や販路限定といった特殊なケースは除外した上で、どのような販売店に狙いを定めれば、購入できる確率が高くなるだろうか。

 新製品を発売するのはメーカーなのだから、メーカー直営のショッピングサイトに行けば購入できる確率は高いはず、と考えるのは誤りである。メーカー直営店に在庫があるのに販売店に出荷する在庫はないというのは、メーカーのお得様である販売店から激しいクレームを受けかねないからだ。割当があっても直営店に振り分けられる数は少ないと見るのが妥当だ。

 それでは、全国展開をしているような大手量販店に行けば購入できる確率が高いかというと、これも「ノー」である。全国のチェーン店に潤沢に製品を供給するためには、ある程度まとまった在庫が事前に必要になる。1店舗に在庫が5個必要というだけで、全国で数百個から1000個単位のオーダーになる場合もある。在庫が月に1回転するとしたら、翌月までにまた同じ数を用意しなければならない。

 品質にリスクのある初回ロットの段階でこれだけの数を一括納入するというのは、メーカーにとってもリスクが高い。勝負をかけるべき製品ならともかく、初回ロットで無理をしなければならない理由は何もないからだ。とくにPC周辺機器業界では、「○月○日に全国一斉発売」という展開をあまりしたがらない(というか、一斉展開をかけられるだけの人員もいなければ組織力もない)ため、リスクのある販売店はどうしても優先度を低くすることになる。

 ここで狙うべきなのは、同じ大手量販店であっても「全国に多数のチェーン店を持つ大手量販店」ではなく「単店でも販売力のある大型量販店」ということになる。全国に100を超えるチェーン店を抱え、全店導入によって売上がドカンと上がるというニンジンが目の前にぶら下がっていたとしても、不良在庫化するリスクは営業マンにとって何よりも恐怖だからだ。

 ましてや新製品で、どの程度売れるか分からない製品とくれば、販売力がある大型量販店に卸し、冷静に売れ行きを見極めたほうがいいに決まっている。送料や管理コストの面でもはるかに有利だし、さらに言えば、ニュースサイトや雑誌に取り上げられる確率も高くなり、広報的な価値も生まれる。地方のショップに大量に出荷したとしても、「古田雄介&ITmediaアキバ取材班」は取材に来てくれないのだ。

 欲しい製品が見つからないとき、メーカーが販売店をランク分けしていることを念頭に置いて製品を探せば、入手できる確率は高くなる。もちろん販売力のある店舗は在庫の回転も早いわけで、売り切れているリスクはあるわけだが、そもそもメーカーから見たランクが低く、その製品の入荷実績すらない販売店に無駄な時間をかけるよりは、よほど効率がいいはずだ。

後藤重治氏のプロフィール

大手PC周辺機器メーカーでマーケティングや販促・広報を担当していたのも今は昔。「日本インコム」に感慨しつつ、「当時はPC雑誌のモノクロページにショップの特価品広告がドカンと載っていたなぁ、と懐古する。どのショップも、よく広告料を毎月支払う体力があったものだと思う。


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