次に、液晶ディスプレイとCRTディスプレイの比較が示された。すでに液晶は色域で標準的なCRTと同等(sRGB)に達し、ごく一部のCRTだけが対応していたAdobe RGBの色域をカバーする製品も増えつつある。液晶はCRTのような表示の歪みが発生しないというメリットがあるが、CRTの特性をまねて内部回路でガンマカーブを実現するため、滑らかな階調表現を実現するのは難しい。輝度や色ムラが発生し、電源を入れて30分程度は表示が安定せず、環境温度によって輝度変動があるという傾向は、液晶もCRTも同様だ。
液晶をCRTと比較して、弱点と言われるのが動画特性だ。動画を表示した際、液晶は残像感が発生する場合がある。これは単純に応答速度が遅いだけではなく、インパルス型とホールド型の表示方法の違いによるところが大きい。CRTは表示が明滅するインパルス型表示デバイス(蛍光体の発光特性による応答速度は数十〜数百μs)なので、人間の目には網膜の残像効果によって動画が滑らかに見えていた。しかし、液晶は表示が切り替わるまで以前の画像を保持するホールド型(輝度保持型)表示デバイス(液晶の応答速度は早くても数ms)なので、人間の目には網膜の残像効果が裏目に出て、動画が滑らかに見えない場合がある。「液晶は応答速度をいくら速くしても、それだけでは人間の目に残像が見えてしまう」(森脇氏)
先述のとおり、液晶ディスプレイ自体には克服すべき課題が少なからず存在する。こうした課題に対して、ナナオはさまざまな技術を盛り込むことで、液晶ディスプレイの高品質化に努めている。
階調特性については、液晶パネルへのRGB各8ビットの入力信号に対して、8ビットを超える多階調変換処理を施し、最適なRGB各8ビットの信号に割り当ててから出力することで、滑らかな階調表現を実現している。
動画特性を改善させるのが、中間階調の応答性を高めるオーバードライブ回路だ。動画再生に配慮した製品に採用されており、動画再生時の残像感を低減してくれる。なお、同社の液晶TV「FORIS.TV」シリーズでは、オーバードライブ回路に加えて、1秒当たり60フレームの映像を120フレームに高速化する「倍速駆動」技術と擬似的なインパルス型表示を行う「黒挿入」技術を組み合わせ、さらに動画特性を高めている。さらに他社の最新液晶TVでは倍速駆動をしたうえで、前後のフレームから最適な中間フレームを補完して描き出す技術もあるが、これについて森脇氏は「非常に効果的だが、CRTディスプレイと同等の動画特性を達成するには、さらなる技術の向上が必要と考えている」と述べた。
独自技術で画面の均一性と安定性を高めているのも特徴だ。独自開発した画像補正専用ASICにより、0〜255の各階調で輝度および色度を補正することで、画面全域において高い均一性を確保している。また、液晶パネルの輝度変化をリアルタイムに計測し、フィードバックをかける調光機能をほぼすべての製品に搭載し、電源投入直後や環境の変化にかかわらず、安定した輝度を実現している。
続いて、同社カスタマーリレーション推進部 販売促進課 係長の梶川和之氏が、ナナオの考える「もの作り」について説明した。ナナオの液晶ディスプレイは、CRTの時代から高画質、高品質と評価が高かったが、梶川氏によれば「当たり前のことを当たり前にやっているだけ」という。
ナナオは40年前に白黒TVのOEMでスタートした会社だが、それ以来本拠地を石川県から移さなかったことで、製造や開発のノウハウが流出せず、古くからの顧客の要望に応え続けられる体制が維持できているという。単に画面が映るだけではなく、「EIZO画質」で映ることが重要で、そのために独自でディスプレイのASIC、高品位なDVIケーブル、環境規格を作ったり、以前から製品の5年保証を継続してきたことが、現在の高い信頼性につながっているとした。「40年の間にお客様と取り交わしたさまざまな品質に対する“約束”をこれからも積み重ねていきたい」(梶川氏)
液晶ディスプレイの今後に関しては、TV放送がハイビジョン映像に完全に移行し、個人でも手軽にハイビジョンのコンテンツを作成して共有できる環境が生まれるとしたうえで、「自分の思いをより忠実に伝える高品位なディスプレイが求められるようになり、ディスプレイ機器はより重要な存在になる」と力説した。
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