中国のCPUとインテルのFabとの微妙な関係山谷剛史の「アジアン・アイティー」(1/2 ページ)

» 2007年04月12日 09時00分 公開
[山谷剛史,ITmedia]

逆風をついて船出する中国産RISC CPU

 中国産CPU「龍芯2E」を搭載したデスクトップPCが最近になってリリースされた。PC以外でも、シンクライアントや、サーバ、POS端末などで龍芯2Eを搭載した製品が発表されている。龍芯2E搭載PCをリリースしたメーカーのひとつ「龍夢科技」は、「1000台限定」「価格1599元」ですでに完売したという。それを信じるならば「順風満帆」の出だしといえるだろう。

 龍芯2E(正式名称は龍芯2号増強型、英名“Godson”)とは、中国の独自技術が詰まった64ビットのRISC CPUで、官報をそのまま訳すと「中国大陸地区初の90ナノメートルプロセスルールを採用したCPU。龍芯2E搭載システムで測定したベンチマーク“SPEC CPU2000”のスコアは500。これはPentium 4/1.50GHzに相当する」そうだ。龍芯“2号”“増強型”というくらいだから、龍芯2号や龍芯1号というCPUもあって、1号は2002年に、2号は2003年にそれぞれリリースされている。

中国が独自に開発して実用化されたCPU「龍芯2E」
龍芯2Eに対応するマザーボード。ノースブリッジは独自開発のものでサウスブリッジはVIA製だ

龍芯2E搭載PCの主要スペック
CPU龍芯2E
OSDebian Linux
メモリ200ピン PC2700-SODIMM 最大2Gバイト
ノースブリッジオリジナル PCI 32ビット 33MHz
サウスブリッジVIA VT82C686B
ビデオカードRADEON 7000-M ビデオメモリ16Mバイト
サウンドAC’97(サウスブリッジ)
インタフェースLAN、IDE、Mini-IDE、PS2、COM、USB×4

龍芯2E主要スペック
1次キャッシュ64KBデータ、64KB命令
2次キャッシュ512KB
クロック600MHz〜800MHz
消費電力3ワット(600MHz)〜5ワット(800MHz)
メモリDDR266〜DDR400
FSB66MHz〜100MHz
トランジスタ数4700万個
電圧I/O:2.5ボルト CORE:1.2ボルト
パッケージHSBGA452

 2006年に捏造が判明してご破算になったDSP「漢芯」やRISC CPU「方舟」は結局のところ商用化に至らなかった。半導体ではないが、中国のハイテク技術を日本(の一部)に知らしめたロボット「先行者」も実際は胴体から上があると動かないというオチであったと記憶している。このような「中国独自開発の最先端技術」の結末から考えると、実用化されたこと自体がまず驚きである。また、先に述べたような不祥事から2006年には半導体研究の存在意義そのものが問われていたのにも関わらず、中国科学院は龍芯2Eを「2006年の10大科学技術成果」に認定している。なお、ここで認定された“10大科学技術成果”でIT関連は「龍芯2E」だけ。残りは水質汚染対策システムとか糖尿病対策の新薬とか、とにかくIT関連以外の成果が並ぶ。

 ともかく、実用化され製品も出荷されているということは、それだけで龍芯2Eは「あなどれない存在」と考えていい。当然、筆者も実力未知数、というか正体不明の龍芯2E搭載PCをメーカーWebページにある購入予約フォームから申し込んだ。が、いまに至るまで何の返事も返ってこない。これを「山谷は中国のPCメーカーに目をつけられているから売ってくれないんだ」と勘ぐるのは早い。経験上、中国企業のWebページでは、質問フォームやメールアドレスから送った質問にほとんどの場合回答してこないので(ほかの中国人に聞いてもみな同じ意見だった)、今回も購入フォームは用意しているけれど返事は返ってこないだろうと予想している。たとえ買えなくとも、「本当に出荷されていれば」いずれオンラインショッピングサイトで出品する輩がでてくるはずなので、運良く入手できたらこの連載で製品レビューを掲載しようと思う。

龍芯2E搭載PCを購入できる「龍夢科技」のデスクトップPC
龍夢科技の龍芯2E搭載PC内部。CPUファンから推測するに意外とコンパクトだ

 中国の科学院が国家技術の誇りと認定した龍芯2Eを当の中国人はどのように評価しているのだろうか。中国で普通に生活していると「龍芯」なんて言葉はまったくもって聞くことがない。筆者の周りの中国人に聞いても「なんですかそれは」という反応であり、筆者が龍芯について説明すると「頑張って欲しいとは思う」という、どうにもこうにもとらえどころのない無難な反応が返ってくるのみであった。

 ニュース系Webサイトで紹介された龍芯記事のコメント欄には「中国産だから応援する」「中国のアップルになれ」という書き込みが並ぶが、「俺は買うぜ」という言葉は確認できなかった。「動作クロック3GHzのローエンドCPUが出ているご時世に、いまさらPentium 4/1.5GHz相当で対応するOSがLinuxだけじゃぁねぇ……」というのが購入をためらう理由だろうか。賞賛する書き込みがある一方で、2006年にいくつもの中国科学技術プロジェクトが頓挫しているためか、「はいはい、またいつものね」という中国では今までなかった冷ややかなコメントも見かけた。

 龍芯2Eは期待する人々を裏切らず、かつ裏切られた人々のハートを取り返すことができるだろうか。

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