中国人にUMPCは売れるのか山谷剛史の「アジアン・アイティー」

» 2007年04月23日 17時00分 公開
[山谷剛史,ITmedia]

Intelの思惑通りではなかった?北京のIDF

 IDFが初めて北京で開催された。中国にIntelの存在をアピールしたいがためのIDFであったはずだが、中国のIT系メディアは「IDFが開催された」ことは報じたものの、基調講演で示された情報に関して中国ではまったくといっていいほど報道されなかった。日本のIT系メディアがCPUなどの最新のロードマップについて詳しく報道するのとは好対照といえる。

 もっとも、中国のIT系メディアが最新技術に関するテーマをほとんど扱わないという風潮がある(その理由が編集部やライターの知識不足なのか読者ニーズがないかは定かでない)。ただ、そういう事情があったにせよ、北京に舞台を移してまで開催したIntelとしては、中国IT系メディアの反応は不本意だったかもしれない。

 そんな中国のIT系Webメディアがこぞって報じていたのが、IDFで展示されていた国内国外PCメーカーのサンプルモデルだ。とくに中国国内で馴染みの深い「ASUS」「Samsung」、それに家電メーカーとして知られる「ハイアール」のUMPCは注目を集めていた。ここで気になるのが、「あれっ、中国人は“小さなPC”がそんなに好きだったけ?」だ。


IDF北京で展示されたUMPCの試作機の数々

「スペック重視」「DVD内蔵重視」の中国人PCユーザー

 筆者が中国で活動し始めた2003年から現在にいたるまで、移動先では「Libretto ff」「VAIO U」「VAIO type U」とミニノートPCを使ってきた。路上でこれらのPCを使っていると、上海の未来的志向の街並みでも北京の電脳街でも、内陸都市でもネットカフェでも「それ(ミニノートPC)いいねぇ。見たことないよ」と周りの中国人から言われた。で、二言めには必ず「で、それいくらだい?」とくる。

 筆者の経験では、半数以上がここで会話は途切れる。そして、ミニノートPCに興味がある残りの半数はスペックを聞いてくる。さらにその内容が「CPUは?メモリは?HDDは?」と聞いてくる人と「DVDって見れるの?」と聞いてくる人に大きく2分できる(そういえば、初代のVAIO type Uでは“キーボードはどこにあるの?”と聞いてくる人が結構いた)。

 どうも、小さいPCに興味がある中国人というのは、「単純にかっこいい→値段が気になる」タイプと、「PCとしてのスペックが気になる」タイプと、「PCなんだからDVDが見れるかどうかが気になる」タイプに分かれるようだ。キーボードの有無を気にする人を加えれば4タイプに分かれることになる(このポイントはあとで説明するように非常に鋭く重要な視点なのだ)。

 安価な「海賊版」が街中どこでも入手できて、DVDビデオをいうコンテンツがすっかり市民の生活に根付いている中国において、ミニノートPCを見て「DVDが見れないなら魅力半減」と感じるのはごくごく自然な話だ。空港の待合室や大都市の地下鉄、はたまた飛行機ではA4ノートPCを広げている“A4モバイラー”をよく見かける。そういう大層なノートPCを開いて何をしているかというと、たいていチャットしているかDVDを見ているかなのだ。中国において「多くの人民がモバイルPCでDVDを見たいと思っているのか」と問えばその答えはイエスとなる。

 それに加えて、「キーボード」が非常に重要なポイントとなる。中国でPCの普及を牽引したひとつにインスタントメッセンジャーソフト「QQ」がある。これが使いたいために「勉強に必要なの!」と理由をこじつけて親にPCを買わせる若者は多い。チャットをするために購入するPCならば、素早くタイピングできるキーボードが必須になる。また、QQほどのキラーコンテンツではないが、ニュースに付設する感想欄に意見を書き込んだり掲示板に書き込んだりライトノベルを書いたりと、中国ではPCで文字を入力する機会が日本以上に求められる。しかし、IDFで展示されていたUMPCの試作品には、快適なタイピングを配慮したデザインが(そういう事情を理解しているはずの)中国メーカーからも出展されていなかった。中国のPCユーザーから見れば、IDFで姿を見せたUMPCを見て「かっこいい」と思うだろうが、導入を躊躇するケースが少なくないのではないだろうか。

中国のPDA使いやスマートフォンユーザーはUMPCを買うか

 UMPCのコンセプトを考えると、先に述べたコンシューマー的利用よりも、PDAやスマートフォンユーザーがUMPCを購入するケースも十分に考えられる。もっとも、以前はデルやHPはもちろんのこと、中国のメーカーからも多数発売されていたPDAはすっかり少数派になってしまい、いまや中国でもスマートフォン一色になっている。リサーチ会社の易観国際が調べた2006年5月の統計によると、スマートフォン市場の年間販売量は2005年末時点で527万台の実績があった。易観国際は、スマートフォンの販売量が2006年以降2008年まで毎年前年比で400万台程度増加するとみている。同じく、同社の2007年1月のリポートには、半数以上の回答者がWindows Mobile搭載のスマートフォンを購入すると答え、2006年5月のリポートでは「スマートフォンに最も必要なことは」という質問に対し「PIM」(38%)、「Officeソフト」(24%)、「カスタマイズしやすいシステム」(17%)、「ゲーム機能」(7%)、「優れたデザイン」(7%)、「利用者のステータスを象徴できる」(4%)を挙げている。

 スマートフォンを所持している中国人はどんな人だろう。筆者がみたところ、スマートフォンを所持する中国人は、「高給取りのデジタルガジェットマニア」「企業や政府のお偉いさん」といったところになる。

 デジタルがジェットマニアが集まる掲示板やWebページを見てみると、彼らはホビー用途で利用しているケースが多い。多くのユーザーがIMEと前述のQQ(Windows Mobile用やPocket PC用、Symbian用がリリースされている)とコンテンツプレーヤーソフトを導入し、辞書ツールや地図ツールを使いこなし、息抜き用にたくさんのゲームソフトをインストールしている。パワーユーザーの中には、購入した英語版のスマートフォンを中文化したうえでDOSを導入し、そこでさまざまなソフトを動かしている。興味深いことに、キーボードレスのスマートフォンユーザーもチャットソフトを導入しているのだ。こういう事例を見ると、UMPCがキーボードレスであろうがキーボードが打ちにくかろうが、ユーザーは気にしないのだろう。

 対して「企業や政府のお偉いさん」はステータスシンボルとして製品知識がないのにやたらThinkPadやVAIOノートやデジタル一眼レフを経費でおとして私物化する場合が多い。こういうケースでは、スマートフォンもただの高額な携帯電話にすぎない。インストールされているPocket OfficeやPIMを使っているのは「ごくごく一部の例外」となる。

 魅力的なUMPCが中国で出荷されたとして、デジタルガジェットマニアは、懐に余裕があれば飛びつくだろう。では、「お偉いさん」はどうか。スマートフォンを携帯電話として購入している彼らは、自分の見栄を満足させてくれる「ThinkPad」や「VAIO」といった「小さなPC」をすでに所有しているので、あえてUMPCに乗り移ることはないと思われる。少なくとも、「見栄」を満足させてくれない中国メーカーのUMPCを買うぐらいなら、価格が安くなった片落ちの「VAIO type U」あたりを選ぶはずだ。

 ちなみに、IDFでは、低価格な製品を実現するためにUMPCがLinuxにも対応することが明らかにされた。中国のPCメーカーのラインアップにはLinux搭載PCがごく普通に用意されているため、UMPCについても安価なLinuxモデルがリリースされることは不思議ではない。ただし、既存のLinuxPCでLinuxがOSとしてそのまま使われるケースはかなり限られている。LinuxモデルPCの圧倒的多数はユーザー自身がタダ同然の海賊版Windowsを入れるためのダミーOSであった。Linuxモデルにも関わらずWindows専用のユーティリティソフト類が多数貼付されている事実がそのことを雄弁に物語っている。

 キラーソフトのQQにしても人気フリーソフトベスト10に入るソフトにしても、有志による互換ソフトのリリースはあっても、ベンダーの手による公式なLinux版が皆無であることも、Linuxの普及を阻害する大きな理由のひとつとなっている。人気ソフトがLinuxに対応しない限り、タダ同然でWindowsやWindows用ソフトが手に入ってしまう環境なのだから、一般の中国PCユーザーはLinuxを使わない。Linuxを導入したUMPCに導入されたLinuxも「ダミーOS」となるだろうか。

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