“タフネス”ノートの新事情──松下電器産業「TOUGHBOOK」編山田祥平の「こんなノートを使ってみたい」(2/2 ページ)

» 2007年06月21日 10時00分 公開
[山田祥平,ITmedia]
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─―現在のTOUGHBOOKの形状などの外観が大きく変わることはないのでしょうか。思いっきり軽くなるとか、完全な密閉でさらに堅牢になるといった方向性はどうですか。

福岡氏 重量に関してユーザーからあまり要望はないですね。もちろん軽量化はできるんですが、堅牢性とのトレードオフになるなら今のままでいいということです。

北川氏 堅牢性の維持という観点からは、開口部を作ってしまうとその部分がどうしても弱くなります。となると、そこを代替的に補強しなければなりません。パーツを固定するような発想をやめて、内部を宙づりにしてショックを吸収できるような樹脂でできた密閉式の弁当箱を作るというような考え方もあります。そうすれば、安上がりで強くできますから。あるいは、二度と開かないことを前提に密閉してしまえばかなり堅牢になることは分かっています。こうした発想は、コンセプトとしてはあるんですが、実際のPCではどうでしょうね。PCとしての拡張性を残さなくていいのかというところに行き着きます。それに、部材それぞれのコストを考えると、製品が完成したら密閉してあってもう開かないという発想はできません。環境にかける負荷を考えると、短期間で廃棄するのではなく長く使ってほしいという願いもありますしね。

福岡氏 このカテゴリーの製品は、ライフサイクルが長いですよ。使うアプリケーションが限られているからでしょうね。ところが、インテルなどのチップベンダーから同じCPUやチップセットが永久に供給されるわけでありませんから、同じものを作り続けるわけにいきません。それゆえに、Let's note LIGHTでは年に数度のバージョンアップをしていますが、TOUGHBOOKでは、あまりバージョンアップしてくれるなという要望も多いんです。バージョンアップするたびに耐久性テストが必要になるため、モデルチェンジするとコストがかかるということのようです。

北川氏 耐久、堅牢のスペックという意味ではCF-27からCF-28、CF-29で飛躍的に向上させたという経緯があります。CF-29で十分満足してもらえるようになりました。この時点で革新的な何かを入れる必要がないレベルになってきているんです。ただ、内部の構成レイアウトはCF-29からCF-30で変わりました。各種のドライブを入れ替えて使えるマルチメディアポケットが9.5ミリになった関係です。内部の構造が変わった状態で以前の堅牢性能を維持するとなると、ノウハウが蓄積されている箇所とそれがない箇所との技術的な差異で苦労することもありますね。

─―過酷な試験という点ではどのような差別化をされているのでしょう。

福岡氏 TOUGHBOOKでは摂氏5度から35度における動作を保証しています。でも、テステッドという意味では、摂氏マイナス20度からプラス60度の環境で500時間のテストをしています。当然、構成している部品の保証範囲から外れてしまいますけれど。

北川氏 保証と実力とは別物だと考えてください。

福岡氏 米国では、警察などでパトカーに積んでいるそうですが、寒い地域では朝一番に起動しないんですよ。でも、ユーザーはすぐに使いたいわけです。そこで、低温でも起動するようにするために筐体へヒーターを組み込みました。その部材が何らかのトラブルを誘引すると思われるかもしれませんが、その問題は確実に回避できています。一方、アリゾナの砂漠で車内にパソコンを放置すれば日中には摂氏70度くらいになります。それでもTOUGHBOOKは本体が変形しません。こうした過酷な使用環境に耐えられるように工夫をしているのです。実際の運用を見ても、おそらく保証範囲外の使われ方が多いんじゃないでしょうか。

北川氏 ただ、そこまで強くなくてもいいというニーズもたしかにあるようですけれどね。

─―ほかのノートPCベンダーもこのカテゴリに注力し始めているようですが。

福岡氏 日本では堅牢PCがなかなか認知されないという悩みがあります。でも、NECがやれば目立ちますね。そういう意味ではほかのノートPCベンダー参入はいいことだと思います。市場認知が不足しているのがつらいところですから。日本で認知されないのは、日本人がものを大切にするからなんでしょうね。。米国では車載利用が多いんですが、日本ではそういう使われ方をするノートPCというのはあまりありません。フィールドでサービスしているユーザーにもPCが必要という状況がもっと広がってくればいいんですが。

 基本的に、フィールドでどのようなデータを扱うかということだと思います。日本の現場では専用のモバイルアプライアンスが使われていますが、画像などを扱うようになるとそのような端末では間に合いませんからPCが求められるはずです。

TOUGHBOOKの現行ラインアップ。A4ノートタイプのCF-30にコンパチブルB5ノートタイプのCF-19、そして、シンクライアントデバイスとしても使えるワイヤレスディスプレイタイプのCF-08。このほか、ハンディデバイスのCF-P1も用意されている

 今後は、車両にベースマシンがあって車両の外で別の端末から無線LANで車載PCにアクセスするようなモデルも考えられます。病院内で看護婦さんが使うようなニーズもあります。セキュリティ的にも端末にはデータが残らないメリットがあります。そういう意味で、シンクライアントデバイスには可能性があります。要望はあまりないとしても、やはり、重量は軽くしていかなければならないでしょうね。それと堅牢性をどう両立させるかが課題です。ラインアップとしてはA4タイプのCF-30にB5タイプのCF-19とそろっていますから、今後はそれをどうブラッシュアップしていくかでしょう。

─―今後の課題について教えてください。

北川氏 宿題というか、課題はいくつかあります。例えば、TOUGHBOOKはファンレスが1つの特徴となっています。それがどこまで続けられるかということが課題であります。重量も、CF-28からCF-29になるときにかなり崇高な目標をたてたんですが、ちょっとかないませんでした。このポイントでは、これから新しい技術を持ち込めるかどうかが研究課題です。期待していただいて大丈夫というところでいうと、たぶん、2〜3割は重量を落とせる可能性がありますね。ユーザーがいらないと思うものをそぎ落としていけば、2キロくらいには持って行けるはずです。ただ、今の開発は機能を増やしていく方向なので、その流れ的には難しいんですが。

 一方で、ファンレス維持も難しそうです。となれば、防水ラインをどうもっていくか、大枠のところで決めてしまわないとファンレスにはなかなか踏み切れません。マイナーチェンジの中で織り込んでいくというのは難しいので、ある段階で思い切ってやるしかないでしょうね。

福岡氏 フットプリントはずっとこのサイズで継続維持しているので、それを裏切るわけにはいきません。これは財産であり足かせでもあります。

北川氏 TOUGHBOOKは、実験の上で形状を決めて現在のものになってきています。補強部分の形状などですね。そういうところを設計として盛り込んできていますから、Let'snote LIGHTのように、変形させて吸収するという方法は受け入れられません。マグネシウム合金は優秀な材料なので使い続けると思います。画期的な素材が登場すれば別なんですが、現状では全体をゴムで作るというわけにもいきません。ボディ全体の剛性も必要です。落下の衝撃で各部材が壊れないようにする工夫が随所にあるんです。柔か剛かという選択でいうと、剛が必要でしょうね。

 イノベーションが起こせるとしたら、樹脂などの技術進化に期待しています。ナノカーボンなどの新素材や、そういうものの融合で剛性も高くて強度も高いような材料も出てきています。同じ鉄でも組成状態が全然違う強い材料など、マグネシウム合金のような方向性でより強い材料ができれば、堅牢PCは、かなり軽いものが作れます。いろんな研究はされているのですが、まだ、すぐ使えるような状況ではないですね。


 堅牢PCが使われる現場は、思った以上に保守的だ。変わらないことを求め、変わっては困ると主張する。そんな中でTOUGHBOOKは着実に現場の期待に応え、ひとつの市場カテゴリーを作り上げてきた。「フルラガタイズ」に真剣に取り組んできたTOUGHBOOKの10年は、まさにPCが使われる現場の開拓の歴史でもある。技術や企画の現場の努力もさることながら、ニーズを見つけてくる営業部隊の実績も忘れることはできまい。

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