第5回 光ディスクの製造工程 その1──スタンパーの製造新約・見てわかる パソコン解体新書(3/3 ページ)

» 2007年07月25日 11時11分 公開
[大島篤(文とイラスト),ITmedia]
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6.電解メッキ

 前ページの導電処理工程で形成した薄いニッケルメッキ層を電極として電解メッキを行い、0.3ミリメートル程度の厚さのニッケルメタル層を作ります。電解メッキの様子を下の動画でご覧ください。電解槽の中にガラスマスターと高純度の金属ニッケルの固まりを浸けて、ガラスマスター側をマイナス極、ニッケル側をプラス極として電気を流すと、ニッケルが電気分解されて溶け出し、ガラスマスターの表面に析出します。型の中に金属ニッケルを流し込んで複製を作るこの方法は、電鋳(電気による鋳造)とも呼ばれます。

 処理後にガラス基板からニッケルメタル層を剥離させたものをメタルマスター、またはメタルファーザーと言います。


 ここでできあがったメタルマスターは、スタンパーとして使ってメディアを製造することも可能です。しかし、通常はメタルマスターは以下の工程によって複数のスタンパーを複製するために使われます。メディアの大量生産に対応するためです。

7.メタルマザー作成

 メタルマスターの表面に電解メッキで厚いニッケルメタル層を作ります。これを剥離したものをメタルマザーとします。


8.スタンパー作成

 今度は、メタルマザーの表面に電解メッキで厚いニッケルメタル層を作ります。これを剥離したものがスタンパーになります。1枚のメタルマザーから、複数枚のスタンパーが作られます。

 メタルマスター、メタルマザーからはそれぞれ数十枚のコピーを作ることができます。たとえば1枚のメタルマスターから10枚のメタルマザーを作り、10枚のメタルマザーから10枚ずつスタンパーを作れば、100枚のスタンパーができます。そしてそれぞれのスタンパーは、数万枚のポリカーボネートディスクの製造に使われます。


9.スタンパーの仕上げ

 メタルマザーから剥離したスタンパーは、裏面を研磨して平らにしたあと、決められた内径と外形で打ち抜いて完成します。以上のスタンパー完成までの工程をマスタリング(原盤製造)と言います。なお、スタンパーは金属ニッケルでできているわけですが、これは鉄と同程度の硬度を持ち、しかも耐蝕性が非常に高いため、プラスチック成形用の型としてたいへん優れています。

 なお、記録メディア製造用のスタンパーを作って、他社に販売している会社があります。メディアの生産工場によってはこれを購入してメディアを量産し、出荷しています。しかし、国内の有力メーカーは、それぞれ独自のノウハウを生かしてスタンパーから社内で自製しているようです。


Blu-ray Discに対応した新しいスタンパー製造方式

 ここまで見て頂いた通り、スタンパーの完成までには長い工程が必要です。しかし、現在は工程数を約半分に減らした新しい製造方式も登場しています。

 2004年にソニーは、PTR-3000というBlu-ray Disc用原盤(スタンパー)製造装置を発表しました。DVDのスタンパーも製造可能です。PTR-3000は、PTM(フェーズ・トランジション・マスタリング)というカッティング方式を採用しています。この方式では、ガラスではなくシリコンウエハを基板として使います。シリコンウエハの表面にスパッタリング方式で無機レジストによるレジストを形成し、青紫色半導体レーザーでカッティングを行います。そして、現像処理後にニッケルメッキを施して、直接スタンパーを作ります。

 PTMのレジストは、光に反応する感光材料ではなく、熱に反応する相変化材料です。レーザービームのスポットの中央部だけが、相変化を起こす高温になるため、ビーム径よりも小さいマークを記録することが可能です。

 PTMではシリコンウエハを基板として使うため、研磨等の前処理が不要となるし、電気を通すために導電処理も必要ありません。また、従来のようにマスターからマザー、マザーからスタンパーを複製することなく、直接複数のスタンパーを作ることができます。



 スタンパーが出来上がったら、いよいよメディアの量産工程に進みますが、そのお話は次回までお待ちください。

 基本となるCDから、複雑な2層Blu-ray Discの製造方法までを紹介する予定です。お楽しみに!

マスタリング工程を経て完成したDVD用スタンパー。光ディスク専用の射出成型器に取り付けられ、1枚のスタンパーから数万枚のポリカーボネートディスクの製造が可能だ

 最後に余談ですが、ちまたで話題のiPhoneを“自作”してみました。モックアップですがなかなかの自信作です。よろしければこちらからご覧ください。

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