第3回 高画質を生み出す魔法の石――EIZOの“映像プロセッサ”に迫る(前編)ナナオイズム(1/2 ページ)

液晶ディスプレイの性能を決定づける重要なパーツ、それが画像制御ICだ。ナナオは画像制御ICとなるASICの映像プロセッサを独自開発することで、さまざまな差異化技術を実現してきた。しかし、実際に映像プロセッサがどのような役割を果たしているのかは意外と知られていない。ナナオイズム第3回〜第4回では“EIZO画質の心臓部”映像プロセッサに迫る。

» 2007年11月09日 12時00分 公開
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液晶パネルの性能の違いは、画質の決定的差ではない!

EIZO独自の映像プロセッサ

 周知の通り、国内の液晶ディスプレイメーカーは、自社の製品に搭載する液晶パネルを外部のパネルメーカーから調達している。これはナナオとて例外ではない。液晶ディスプレイの基本性能は使用する液晶パネルによって左右されるため、ナナオは液晶パネルの選定に注力しており、パネルメーカーとの交渉に長い時間をかけてきた。実際、EIZOブランドの液晶ディスプレイに使われている液晶パネルの大半は、パネルメーカーとの共同開発品、もしくは既存の液晶パネルをナナオの要望により改善したものだ。

 とはいえ、このようにパネルメーカーと共同開発した液晶パネルはやがて量産段階に入り、ナナオ以外のメーカーが調達することもある。液晶ディスプレイの製品動向に詳しいユーザーなら、同種の液晶パネルを採用した異なるメーカーの製品をいくつか知っているかもしれない。そして、ここに1つの疑問が生じてくる。それは「液晶パネルが同じであれば、画質も同じではないか」ということだ。

 この疑問に対するナナオの回答、それは断じて「ノー」である。ナナオは液晶パネルの選定に加えて、画質制御回路の自社開発も精力的に行っており、それが他社製品との差異化につながっている。画質制御回路を実現する方法はいくつかあるが、ナナオはこれをASICの映像プロセッサで実現している。ASICとはApplication Specific Integrated Circuit(特定用途向けIC)の略語である。ディスプレイの画質制御回路は具体的には、PCから入力された映像信号をどのように処理して、最終的に液晶パネルに表示させるかを指示する回路だ。この回路の良しあしで、表示品質に差が生まれることになる。

 少し乱暴な言い方かもしれないが、同じ素材と調味料でレシピに従って同じ料理を作ったつもりでも、料理人の腕で最終的な料理の味はまったく変わってしまう、それと似たようなことがディスプレイにも当てはまるのだ。

「EIZOクオリティ」の歴史を作ってきた映像プロセッサ

 現在、ASICを自社で独自開発しているディスプレイメーカーはほとんど存在しない。開発に時間と費用がかかるのはもちろん、昨今では汎用の画像制御ICを搭載、または画像制御ICとしてFPGA(Field Programmable Gate Array)を調達してメーカーが独自のカスタマイズを行うことで、ある程度の性能を備えた液晶ディスプレイが製品化できるからだ。

 確かにFPGAなどの画像制御ICを全面採用すれば開発コストは抑えられるが、高機能を盛り込もうとすると、回路全体が肥大化してしまい価格も上昇するため、製品化が困難になる。一方、専用設計のASICであれば、最初の開発コストはかかるものの、搭載できる機能の制約は少なく、画像制御ICを現実的なサイズに収めつつ、高性能を追求することが可能だ。ナナオが独自ASICの映像プロセッサにこだわるのは、医療分野やプロのクリエイティブワークに耐えうる「EIZOクオリティ」を実現するには、それが欠かせないデバイスと知っているからである。

 ナナオは約20年も前から、意欲的に独自の映像プロセッサを開発し続け、次々と新しい画像制御技術を実用化するとともに、表示性能を向上させてきた。液晶ディスプレイ用映像プロセッサの開発を始めたのは、約10年前のことだ。今では当たり前になっている液晶ディスプレイの機能のいくつかはナナオが率先して搭載してきたもので、昨今においては特に静止画の色再現性向上技術でアドバンテージを発揮している。

ナナオが最初に製品化した映像プロセッサは、CRTディスプレイ用グラフィックスカードの画像制御ICだ(写真=左)。1981年にIBM PCが登場し、これに対応する製品として1987年に投入された。ナナオの独自映像プロセッサを搭載した製品の歴史(写真=右)。1987年にグラフィックスカード、1993年には信号の周波数を変更するスキャンコンバータを手がけ、CRT用の映像プロセッサも続々と投入。現在は液晶ディスプレイ用映像プロセッサの開発を続けている

液晶ディスプレイ用映像プロセッサは弱点のカバーから付加価値追求へ

 ナナオが1997年3月にPC用のカラー液晶ディスプレイ市場に参入してからはや10年。その間に映像プロセッサの高性能化は着実に進み、開発当初は液晶ディスプレイの弱点をカバーする機能を中心に搭載していたものが、今では汎用の液晶ディスプレイとの差異化を達成するための付加価値を重視するようにまでなった。以下に液晶ディスプレイ用映像プロセッサの歴史を簡単に振り返ってみたい。

映像プロセッサ開発の履歴と回路規模をまとめたもの。縦軸は映像プロセッサの回路規模(ゲートサイズ)だが、実際には指数関数的に増大しており、表の配置は正確ではない

信号を正確に表示する第1世代、拡大補間機能を向上した第2世代

第1世代映像プロセッサを搭載した「FlexScan E141L」

 1997年に投入された第1世代の映像プロセッサ(開発コード名:GRAC)は、液晶ディスプレイで課題とされていた画像の位置とサイズを制御することに成功した。当時は画像制御ICは市販されておらず、ディスプレイメーカーは独自にPCから送られてくるアナログの映像信号をデジタル化して適切に処理する回路設計を行う必要があったが、ナナオが他社に先駆けてこうした画期的な機能を映像プロセッサに実装できたのは、過去にスキャンコンバータやCRTの自動サイズ調整技術を開発してきた経験が生かされたからだ。第1世代の映像プロセッサは、「FlexScan LCD」シリーズの初代製品「FlexScan E141L」をはじめ、「FlexScan E151L」や「FlexScan L66」に搭載された。

 2001年2月には、Rambus DRAMメモリを用いた画像制御ICで性能を高め、独自の線形アルゴリズムによる高精度なアップスケーリングエンジンを搭載した第2世代の映像プロセッサ(開発コード名:Erebus)が投入された。液晶ディスプレイはCRTと異なり、固定画素表示を行うデバイスのため、低解像度の映像データを高解像度の液晶パネルに表示する場合、適切に画素情報を振り分けないと、画像が滑らかに表示できない。第2世代映像プロセッサでは、この拡大補間の処理を滑らかに行えるようにした。第2世代の映像プロセッサは、電源ユニットを小型化して液晶パネルの背面に内蔵した「FlexScan L350」や、Super-IPS方式の液晶パネルを採用した高画質モデル「FlexScan L680」などに使用されている。

カラーマネジメントを重視した第3世代、PinPや縦位置表示に対応した第4世代

第3世代映像プロセッサを備えた「FlexScan L985EX」

 2002年4月に登場した第3世代映像プロセッサ(開発コード名:UK2)では、他社に先行してカラーマネジメント機能を搭載。色空間変換回路を装備し、簡単な色温度調整や色相調整などを実現することで、CRTと同様に液晶ディスプレイでカラーマッチングを行えるようにした。また、Adobe Photoshopなどの画像編集アプリケーションで解像度変換時に使われるバイキュービック処理と同様の補間処理を採用し、拡大補間の性能をさらに向上させている。この映像プロセッサは、金融市場において高評価を得た「FlexScan L675」や「FlexScan L685」などに使用された。

 第3世代の映像プロセッサには、さらに当時としては高性能な10ビットルックアットテーブル(LUT)と、RGBCYMの6色独立補正回路が盛り込まれた。この第3世代映像プロセッサで、ナナオの液晶ディスプレイは世界初のガンマ調整を可能にしている(2002年4月ナナオ調べ)。これは、「FlexScan L985EX」や「FlexScan L685EX」といった高性能なモデルに使われ、パワーユーザーを中心に好評を博した。

 2003年4月には第4世代の映像プロセッサ(開発コード名:G4)が投入される。これは、企業の金融ディーリング用途などを想定したもので、新たにハードウェア制御による高速かつ安定性の高い縦位置表示機能「ActiveRotation」とPC入力同士の映像をピクチャーインピクチャー(PinP)で子画面表示できる機能「ActiveShot」が追加された。第4世代の映像プロセッサは、「FlexScan L695」に初めて搭載され、「FlexScan L795」にも使われている。

 そして現在の製品には、第4.5世代の映像プロセッサと、第5世代の映像プロセッサが採用されている。その内容は次のページで紹介しよう。

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提供:株式会社ナナオ
制作:ITmedia +D 編集部/掲載内容有効期限:2008年3月31日