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» 2007年12月05日 10時10分 公開

元麻布春男のWatchTower:Centrino生誕の地、イスラエルのFabに行く(前編)

Intelのイスラエル拠点、と聞くと、なにかしら“謎のベール”に閉ざされているようなイメージが(勝手な妄想)。元麻布氏はイスラエルのFabでなにを見たのか。

[元麻布春男,ITmedia]

 2007年の4月、Intelはヨーロッパの大学を対象に、「持続可能なエネルギー」を使ってノートPCを1時間駆動させる、というコンテストを告知した。同社製CPUのマイクロアーキテクチャにちなんで、「Intel University CORE」(Competition On Renewable Energy)と名付けられたこのコンテストは、ヨーロッパの7大学が参加し、2007年10月に締め切られた。そして、その結果発表と表彰式が2007年11月28日、イスラエルのテルアビブで行われた。

 もちろん、表彰式がイスラエルで開かれたのは、COREマイクロアーキテクチャの生まれた場所だからだ。審査員にはCore 2 Duo(Merom)のアーキテクトであるIntelフェローのオフリ・ウェチスラー(Ofri Wechsler)氏も名を連ねた。このCOREコンテストの表彰式と、イスラエルにあるIntelの拠点2カ所を取材する機会を得たので、そのリポートをお届けしよう。

Intelの頭脳が集まるイスラエル拠点とは

イスラエル国内にあるIntelの拠点

 Intelが、イスラエルに最初の開発センターを北部のハイファに開設したのは1974年のことだ。最初は5人のスタッフでスタートした「Haifa Development Center」は、米国以外で初の開発センターとなった。これはIntelの創業(1968年)からわずか6年後のことであり、Intelが早くからイスラエルに進出したことが分かる。1985年には、米国以外では初となる半導体工場(前工程)となる「Fab 8」をエルサレムに建設しており、これは今も稼働中だ。

 建設から20年以上が経過したFab 8は、現存するIntelの工場中で最古参となった。MEMS関連の研究を行っているが、何を作っているのか、よく分からない工場の1つだった。いまも150ミリウエハで0.35ミクロン(350ナノメートル)プロセスを用いているといわれている。今回の取材では、Fab 8を訪れることはできなかったが、Intelの説明では「自動車関連の半導体を製造している」ということであった。確かにノイズや熱など、環境条件の厳しい自動車や軍用の半導体では、あえて最先端プロセスを用いないことが多いといわれている。

 1999年に買収したイスラエル企業「DSPC」の拠点であったペタティクバの開発センターは、無線関連の開発拠点となっている。Intelの無線LANモジュールの開発コード名には、“ゴラン”や“ケドロン”など、イスラエル、あるいは隣接する地域の地名を用いたものが多いが、おそらくここで命名されたものではないかと思われる。WiMAX関連の半導体も、この拠点で開発されているという。

 同じ1999年に操業を開始した「Fab 18」が、エルサレムの南西にあるキリヤットガットだ。IntelはD1D(オレゴン)、Fab 32(アリゾナ)に次ぐ3番めの45ナノメートルプロセスルールの工場となる「Fab 28」をここに建設中で、現在、仕上げと調整が行われている。Intelがイスラエル国内に持つ6カ所の拠点のうち、この4カ所(ハイファ、エルサレム、ペタティクバ、キリヤットガット)が主要な施設とされる。今回はこのうちハイファとキリヤットガットを訪問することができた。

Centrinoの聖地、ハイファ

これが、マドリード工科大学チームの「足こぎペダル式発電装置」だ。テルアビブのホテルで開催された表彰式で披露された

 最初に訪れたハイファの開発センターは、2000年からモバイル向けのCPUやチップセットの開発を行っている。いわばCentrinoの故郷だ。モバイル向けCPUの開発に加えて、ソフトウェアの開発も手がけている。このハイファのもう1つの役割は検証作業で、「Haifa Validation Center」の所在地でもある。今回はこのHaifa Validation Centerの見学を行うことができた。ただし、施設内での撮影は禁止されているため、その姿を伝えることはできない。

 その開発センターは、ハイファ郊外の工業団地にある。同じ工業団地にはGoogleやMicrosoftといったIT企業が軒を並べている。Intelはその敷地に、「IDC1」から「IDC8」まで計8棟のオフィスビルを構えており、取材に訪れた2007年11月には、さらに「IDC9」を建設中だった。

 このIDC9は、Intel初のグリーンビルとして、USGBC(U.S. Green Building Council、米国グリーンビルディング審議会)のLEED-NC(Leadership in Energy and Environmental Design-New Construction)レイティング制度の“Silver”取得を目指している。グリーンビルディングというのは、建設によって生じる環境への負の影響を極力排除しようとする建築物を指す。グリーンビルディングが満たすべき要件ごとに1ポイントが与えられ、Silverを獲得するには33〜38ポイントが必要となる(満点は69ポイント)。

 冒頭で紹介したヨーロッパの大学によるCOREコンテストも、持続可能なエネルギー、つまり環境を破壊せずに持続的に利用できるエネルギーでノートPCを駆動しようというコンセプトがある。優勝したマドリード工科大学(スペイン)の足こぎペダルによる発電、特別賞を受けたミラノ工科大学(イタリア)の水素を用いる燃料電池、デルフト技術大学(オランダ)の足踏み式発電など、すべてこの条件を満たすものである。

 かつて消費電力の大きなPentium 4でユーザーから不評を買ったIntelが、今はCoreマイクロアーキテクチャで電力効率の良さをアピールする。グリーンビルディングやCOREコンテストは、こうした時代の変化を象徴するものなのだろう。

Haifa Development CenterやHaifa Validation Centerが入居するICD1〜ICD4のビル
Haifaに建設中のICD9の完成予想図。ICD1と空中回廊で結ばれる

建設中のICD9。右側の日陰になっている建物はICD1になる
ICD1〜ICD4以外にも複数の建屋がハイファ地区にある

ハイファとアリゾナで熟成される製造技術

 さて、今回訪れたHaifa Validation Centerは、IDC1〜IDC4が連結したビルのほぼ下半分を占める。フロアには、アドバンテストの「T2000」シリーズ、あるいはDelta Designの「Summit ATC」といった半導体試験装置がずらりと並ぶ。センターの運営は年中無休で、近くでミサイルが発射された時も休止することはなかったという(普段はそんな物騒なところではない。念のため)。

 IntelにおけるValidation Centerの役割は、CPUが量産に移行する前に、論理面でも製造面でも問題がないことを検証し、同時に製造拠点(Fab)が量産開始時点から高い歩留まりを得ることができるよう、製造プロセスの検証を行うことにある。特に、モバイル向けCPUの検証作業は、このHaifa Validation Centerだけで行われている。

 半導体は、性能向上と低価格化を両立させるために、ウエハサイズはより大きく、製造プロセスはより微細になるよう努力を続けてきた。こうした製造技術の進化によって半導体の製造プロセスは非常に高価になっており、それゆえに高い不良率は許容できない。また、新品の半導体ウエハが工場の生産ラインに投入されてから、前工程の加工(ウエハから個々のダイを切り出す前の状態)が終わるまで、おおむね1カ月半から2カ月半を要するため、不良率が高いと、この立ち上がりに要した時間も失うことになる。

 Haifa Validation Centerによる検証作業は、最初のシリコンが誕生してから量産にGOサインを出すまで、約18カ月を要する徹底したものだ。これだけの時間を使う代わりに、量産開始と同時に高い歩留まりが得られる。検証作業は24時間、無休で行われ、週末は学生がValidation Centerの運営を引き継ぐ。

 筆者が訪れた11月末時点で、Haifa Validation Centerで検証を受けていたのは、Penrynファミリーのモバイル向けCPUであった。おそらく2008年に投入されるであろうこれらのCPUを現在製造している(試作している)のは、米国のオレゴン州にあるD1Dだろう。現時点において、イスラエル国内にCPUを製造している工場は存在しない。オレゴンから空輸されたチップをここで検証し、その結果を踏まえてD1Dで量産プロセスを確立し、それを量産工場で完璧に再現する。これがIntelの「Copy Exactly戦略」と呼ばれるもので、実際に半導体を製造するクリーンルームはもちろん、廊下の配置やトイレに至るまで、何から何までソックリに再現されるという。

 さて検証(バリデーション)作業だが、作業は非常に多くのフェーズからなる。

フェーズ1「Sort」 バリデーション作業の最初のフェーズは、Sortと呼ばれる工程だ。ここではウエハのまま、ウエハ上の不良チップにマーキング(インキング)を行い、これを排除する。バリデーション自体も時間とコストのかかる作業であり、初期に不良を取り除くことで、不良チップに余計なコストをかけずに済む。

フェーズ2「Class」 Sortで良品と判断されたチップをダイに切り出し、パッケージングした後、Intelの規定する環境下(温度、湿度などなど)において動作を確認すると同時に、動作クロック、消費電力などのスペックごとにクラスわけ(分別)を行う。この作業は、本番製品でも不可欠な作業だが、最終的には1チップ5秒で完了できるようにするという。

フェーズ3「Fusing」 現代のCPUは大量のキャッシュメモリを搭載する。この一部に不良があった場合、フューズにより、不良部分を切り離し、スペア領域を利用して、チップ全体としては良品に転換する。Intelのチップには、ダイ上に用意されていながら使われていない機能があったり、製品の仕様上使えなくしていることがある。実際の製品でも、このFusingにより、そのような機能制限を行っていると考えられている。

フェーズ4「Stress Test」 オーブンで高温(99℃)まで加熱した状態でテストする加速試験を行うことで、Intelが保証する製品寿命を検証する。

フェーズ5「Burn-in」 12時間から数週間、長時間の連続稼働によるテスト。

フェーズ6「Product Platform Validation」 実際の製品プラットフォームを用いて、BIOSやOSも含めたシステムレベルのテストを行う。ここではデルやヒューレット・パッカード、AppleといったOEMのマザーボードも使う。5〜105度まで広範な温度域でテストは実施される。

フェーズ7「QA」(Quality Assurance) 短時間、半導体試験装置にかけて、最終確認を行う。

 こうしたバリデーションフェーズを経て、CPUの量産プロセス技術は磨き上げられていく。それと同時に、検証作業の工程自身も練り上げられ、実製品の検証を短時間で行うことが可能になる。ちょうど評価を行っていたモバイル向けの「Penryn」(開発コード名)の場合、まだClassの作業に10分(1個あたり)を要するということであった。これを5秒に短縮するには、チップ組み込みのテスト回路をうまく使って、最小限のテストで最大数の機能(トランジスタ)を評価するようにしなければならない。現在のCPUは、1つのダイに2億個以上のトランジスタが集積されており、1つ1つのトランジスタを個別に動作検証していては、いつまでたっても評価が終わらないからだ。

 こうして、ハイファでデザインされたチップが、オレゴンで試験生産され、再びハイファで検証を行い、そして、オレゴンの製造プロセスが完成していく。そのプロセスが、アリゾナにあるFab 32、ニューメキシコのFab 11X、キリヤットガットのFab 28へと正確に移植される。これらの工場で製造されたウエハは、コスタリカ、マレーシア、ベトナム、中国にある組み立て工場(後工程)へと送られ、最終的な製品が完成する。

 私を案内してくれたHaifa Validation Centerの担当者が、親族や友人がノートPCを買った時、中に入っているCPUはわれわれが検証したものだから絶対間違いないと言えるのが誇りだと語っていたのが印象的だった。

(後編に続く)

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