圧倒的な価格競争力で注目を集めるモバイルPC「Eee PC 4G-X」(以下、Eee PC)だが、その日本版が発売される直前のタイミングで、国内メーカーから競合製品が登場した。工人舎「SA」シリーズの最新モデルである。
SAシリーズの初代機「SA1F00A」がリリースされたのは、2006年11月。当時SA1F00Aは、「9万円を切るモバイルPC」として脚光を浴び、それまで記憶の片隅に埋もれていた“工人舎”の名を再び押し上げたモデルとしても知られる(もともと“工人舎”とはソーテックの前身だった会社の名前で、現工人舎はソーテックから離れた開発部隊を中心に構成されている)。
その後同社は、SAに続くモバイルPCのラインアップとして、SHシリーズやSRシリーズなどを投入しているが、こちらはインテルプラットフォームの採用や、ワンセグチューナー、Webカメラの内蔵など、高性能・高機能化を図ったものであり、“低価格”という点とはやや別の方向に進化していた。
2007年4月に発売された「SA1F00K/R」にしても、価格は9万9800円と、Eee PCに比べれば2倍ほどの差がある。タブレットPCにもなるコンパチ仕様とはいえ、いまとなっては価格面で魅力に欠けるのも確かだ。同社がこのタイミングでSAシリーズに6万9800円の「SA5SX04A」を用意してきたのは、Eee PCを強烈に意識したためと見て間違いないだろう。ここではそのEee PCと比較しつつ、6万円台の新生SAシリーズを検証していく。
SAシリーズは、7インチタッチパネル液晶を搭載したA5クラスのモバイルPCだ。AMDの統合型CPU、Geode LX800(500MHz)の採用や、液晶ヒンジ部分が回転する機構は従来モデルを踏襲しており、ABS樹脂製の黒い外装にも変更はない(今回のラインアップにはプラチナシルバーカラーのモデルは用意されていない)。従来モデルを知る人には、一見して「ただ価格を下げただけ」のようにも思えるが、実は2つの重要な改良が施されている。
1つは液晶パネルだ。今回のモデルでは、表示解像度が従来の800×480ドットから1024×600ドットに向上しており、これはそのままEee PCに対するアドバンテージにもなっている(従来のSAシリーズも、プレビューモードによる1024×600ドット表示は可能だったが、これはテキストの表示がつぶれて実用に耐えないものだった)。Webブラウザやオフィスソフトを利用する際には、使い勝手にはっきりと差が出る部分だろう。
また、パネル表面には従来同様に光沢処理が施されているため、ノングレア液晶を搭載するEee PCに比べると静止画を表示したときの見栄えがいい。視野角や明るさも十分なレベルで、モバイルPCをフォトストレージ兼ビューワとして利用したいと考える人にはうってつけだ。ただし、本機の光沢パネルは光源の映り込みが激しく、設置場所などを工夫する必要がある。価格相応と言える部分かもしれないが、できればきちんと低反射処理をしてほしいところだ。
改良点の2つめは、ボディの幅をいっぱいに使った日本語77キーボードだ。従来シリーズではキートップのぐらつきが目立ち、キーをまっすぐ押下できずにタイプミスを誘発していたが、新たにパンタグラフ式のキーボードを採用することでその弱点を克服している。実際、慣れればタッチタイプもできるし、やや固めの小気味よいタイプ感は好印象だ。SAシリーズのキーボードは、自ら改造するユーザーがいたくらい評判が悪かっただけに、今回の改良は大きな意味があるだろう。
もっとも、これは主要キーのピッチを16.8ミリでそろえたローマ字入力の話で、カナ入力にはかなり無理がある配列となっている。例えば、「む」「ろ」「へ」はファンクションキーと同じ並びにあるし、「け」は上方向キーの右に置かれている。キー配列自体は変わっていないので、カナ入力ユーザーが使いこなすのは難しいかもしれない。
2ボタン式のタッチパッドは、面積が40(横)×23(縦)ミリと、Eee PCよりもさらに狭い(Eee PCには、狭いタッチパッドを補完する意味でマウスも付属していたが、本機にはこれもない)。ドライバはSynaptics製(Synaptics TouchPad V6.3)で、右端を使ったスクロール操作にも対応している。
このほか、タブレットポジション用として、液晶ディスプレイの左右にスティックポインタやマウスボタン、スクロールボタンなどを備えているのがユニークだ。文字入力の必要がない単純なWebブラウズ程度なら、液晶を折りたたみ、寝ころんでいても操作できるのがうれしい。
ちなみに、TDPの低いGeodeを搭載する本機はファンレス仕様となっているが、起動してしばらくたつとタッチパッド周辺が暖かくなる(非接触温度計で測定したところ、アイドル状態でもクリックボタンの温度は43度を超えた)。また、本体左右側面に放熱スリットがあるものの、基本的にボディ全体で放熱を行っているため、液晶ディスプレイを反対側に閉じたタブレットポジションでは、熱を帯びやすいようだ。
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