国内メーカーのモバイルノートPC、とりわけビジネス向けの製品は、不意の落下による衝撃や満員電車内での強い加重などを想定し、ボディの堅牢性に注力しているものが多い。各メーカーとも、製品開発時における耐久試験の内容と結果を積極的に公表し、製品の頑丈さをこぞってアピールしている状況だ。こうした試験結果は実際の製品において保証されるものではないが、試験の内容や具体的な数値が公開されているのといないのでは、安心感が違ってくるだろう。
下表は、今回集めた6モデルの耐久性について、各メーカーが公表している加圧試験や落下試験の数値、キーボードの防滴性能、加速度センサによるHDD保護機能の対応状況をまとめたものだ。このほかにも各メーカーはさまざまな耐久試験を実施しているが、今回は代表的な項目のみに的を絞っている。参考までに、各製品の天面と底面に使われている主な素材も併記した。
各モデルの堅牢性 | |||||||
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製品名 | メーカー | 天面と底面の素材 | 全面加圧試験 | 点加圧試験 | 落下試験 | キーボード防滴 | 加速度センサによるHDD保護 |
LaVie J LJ750/LH | NEC | マグネシウム合金(天面はスクラッチリペア塗装) | 300kgf | 25kgf | 非公開 | − | ○ |
VAIO type G VGN-G2KAN | ソニー | マルチレイヤーカーボン | 150kgf(加圧振動) | 20kgf | 動作時72センチ、非動作時90センチ | 200cc | ○ |
VAIO type T VGN-TZ72B | ソニー | マルチレイヤーカーボン | − | 非公開 | 非公開 | − | ○ |
dynabook SS RX1/T7E | 東芝 | マグネシウム合金 | 100kgf | 非公開 | 非動作時75センチ | 100cc | ○ |
Let'snote LIGHT CF-W7 | パナソニック | マグネシウム合金 | 100kgf(加圧振動) | 非公開 | 動作時76センチ、非動作時30センチ | 防滴仕様 | − |
FMV-BIBLO LOOX R70Y | 富士通 | マグネシウム合金 | 200kgf | 35kgf | 非公開 | −(バスタブ構造) | ○ |
ホームユースを重視したVAIO type T VGN-TZ72B以外では、加圧試験や落下試験の結果が公表されている。全面加圧試験とは、主に満員電車内での加重を想定し、天面から均等に圧力を加えるというものだ。VAIO type G VGN-G2KANとLet'snote LIGHT CF-W7については、均等に圧力を加えたうえで、電車内のように全体を細かく振動させる加圧振動試験の結果となっている。
メーカー公称値では、フラットな天板で全面加圧試験300kgfをクリアしたLaVie J LJ750/LHが光る。しかし、そのほかのモデルが破損するギリギリの値を公開しているとは限らない。例えば、パナソニックはLet'snoteシリーズ全体で通勤ラッシュ時の満員電車を想定した全面加圧振動試験は100kgfと定めており、これを意味のある数字としている。実際に耐久性を試せなかったのは残念だが、100kgf以上をうたう4モデルに関しては天面からの加圧に対する耐久性が高そうだ。
点加圧試験とは、本体にヒジをついてしまった場合などを想定し、天面全体に対して局部的に加圧するものだ。こちらに関しては、LaVie J LJ750/LH、VAIO type G VGN-G2KAN、FMV-BIBLO LOOX R70Yが20〜35kgfという数値を公表している。
落下試験に関しては、VAIO type G VGN-G2KANが動作時で72センチ、非動作時で90センチ、dynabook SS RX1/T7Eが非動作時で75センチ、Let'snote LIGHT CF-W7が動作時で76センチ、非動作時で30センチの高さから落として故障しなかったとしている。
72〜76センチの高さというのは、標準的な事務机の高さだ。つまり、ケーブルなどを引っかけてデスクから本体を落としてしまった場合を想定している。90センチの高さは日本人の成人男性がノートPCを小脇に抱えた状態から誤って落とした場合、30センチの高さはブリーフケースのような手提げカバンにノートPCを入れた状態で落とした場合を想定している。
落下時の故障対策としては、加速度センサによるHDD保護機能を備えているものも多い。これは、内蔵の加速度センサが本体の異常な動きを検知し、HDDの磁気ヘッドを一時的に退避させることで、HDDの破損、つまりデータ損失の危険を回避するという機能だ。Let'snote LIGHT CF-W7以外の5モデルが対応している。加速度センサによるHDD保護機能を備えた製品には検出精度などを調整できるユーティリティソフトが付属し、利用シーンに応じて設定のカスタマイズが可能だ。
一方、Let'snote LIGHT CF-W7に関しては、加速度センサの誤検知などを懸念し、HDDユニット周囲の衝撃緩衝材を強化するなどの物理的な衝撃軽減策を採っている(ほかのモデルもHDDユニットを緩衝材で囲む工夫はしている)。
昨今では、ノートPCの破損原因の上位に「キーボードへの水こぼし」が挙げられるという。今回集めた6モデルでは、VAIO type G VGN-G2KAN、dynabook SS RX1/T7E、Let'snote LIGHT CF-W7が防滴仕様のキーボードを採用しており、使用中に水やコーヒーをこぼしてしまった場合でも、故障を回避できる可能性がほかより高い。VAIO type G VGN-G2KANとLet'snote LIGHT CF-W7は底面に排水溝も用意している。FMV-BIBLO LOOX R70Yについては、キーボードをバスタブ構造にして水が内部へ進入しにくいように工夫している。
そのほか、VAIO type G VGN-G2KANでは液晶ディスプレイにハードコーティング処理を施すことで、画面の耐摩耗性を向上させているのがユニークだ。その効果を試すため、液晶ディスプレイに対して5Hの鉛筆を500グラムの加重で擦る鉛筆ひっかき試験も実施している。
また、LaVie J LJ750/LHは天板のスクラッチリペア塗装が特徴だ。これにより、塗装表面に生じた浅いキズや擦過痕などが自然に回復するため、ある程度ラフに扱っても光沢塗装の天板に細かいキズが付く心配がない(塗装がはがれるなどの深いキズは回復できない)。これは同様にブラックの光沢塗装を用いたFMV-BIBLO LOOX R70Yに対するアドバンテージだ。ただし、いずれも天板には指紋が付着しやすいので、外観を清潔に保ちたいなら、こまめにクロスで磨く必要がある。
ボディの頑丈さを総合的に見ると、ビジネス向けの3台、つまりVAIO type G VGN-G2KAN、dynabook SS RX1/T7E、Let'snote LIGHT CF-W7が加圧、落下の試験結果を公開している点と、キーボードに防滴加工を採用している点で、リードしている印象だ。LaVie J LJ750/LHとFMV-BIBLO LOOX R70Yは全面加圧試験の結果は高水準だが、キーボードの防滴性能で見劣りする。VAIO type T VGN-TZ72Bは、耐久性テストを実施(加圧振動試験はtype Gのみ)しているものの、具体的な数値は不明で、ラフに扱うのは避けたい。
なお、実際に手に持った堅牢性の印象では、やはりLet'snote LIGHT CF-Wに軍配が上がる。ボンネット構造の天板がたわむのは仕方ないが、液晶ディスプレイ周辺部やボディ4隅がカッチリと作り込まれており、全体に剛性感のある作りだ。LaVie J LJ750/LHも天板こそ少したわむものの、それ以外のたわみはなく、ボディはしっかりしている。
dynabook SS RX1/T7EとFMV-BIBLO LOOX R70Yは天板がたわむほか、右側面に光学ドライブとPCカードスロットを縦位置で配置している関係から内部にスペースが空いており、右パームレスト辺りを持つと本体がへこむ。実際の利用シーンでは、片手で持って移動しようとする場合に、少しボディがへこむのが気になる。大画面と軽量化を両立するためには、堅牢性を確保できる限界までシャシーを薄くしなければならず、ボディのたわみには妥協が必要だ。
VAIO type G VGN-G2KANとVAIO type T VGN-TZ72Bは、薄型のボディで天板のたわみが少なく、ボディを持ったときにへこむこともない。ふんだんに使われたカーボン素材が強度をアップさせているのだろう。ただし、いずれも液晶ディスプレイ部は薄いので、開閉時には非常に気を使う。ソニーは液晶ディスプレイの開閉や本体のひねり試験も実施しているので、実際に大きな問題はないのだろうが、見た目に繊細なディスプレイ部の堅牢性には不安を抱いてしまう。VAIO type G VGN-G2KANは、公開している耐久性試験の数値ではLet'snote LIGHT CF-W7を上回るものがあるのだが、外観の繊細さが堅牢性をアピールするうえで不利な材料になっているように思う。
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