AMDが3月4日に発表した「AMD 780G」は、同社CPUのPhenomやAthlon X2などに対応する統合型チップセットだ。これまで、開発コード名“RS780”で呼ばれてきたこのモデルは、同じく開発コード名“RV610”で知られるグラフィックスコア「Radeon HD 3200」を組み込んでいる。Radeon HD 3200は、チップセットに統合されたグラフィックスコアとしては初めてDirect3D 10(いわゆるDirectX 10)に対応するだけでなく、Radeon HDシリーズのバリュークラスラインアップである「Radeon HD 3450」搭載グラフィックスカードをPCI Express x16スロットに組み込むと、Radeon HD 3200と外付けのRadeon HD 3450をマルチGPU構成で利用できる。この「Hybrid Graphics」機能によって、チップセット内蔵のグラフィックスコアとバリュークラスのGPUでも3D性能を引き上げることが可能になった。
マザーボードに関係する機能でみた場合、AMD 780Gはすでに発表されているAMD790X(開発コード名は“RD790”)のグラフィクスコア統合バージョンにあたる。とはいえ、AMD 790XとAMD 780Gとは完全に別のダイで内部の構造などは異なっている。AMD 790Xはグラフィックスカード用のPCI Express Gen.2が32レーン用意されるなど、単体タイプのGPUによるマルチGPUの利用を前提とした設計になっていて、ダイ面積の多くの部分がそうしたPCI Expressの実装に割り当てられている。これに対して、AMD 780Gではダイ面積の3分の2近くが統合されたRadeon HD 3200に使われている。この違いを同じダイで実現しようとすると集積効率が悪くなるため、それぞれを別に設計しているのだ。
すでに述べたように、AMD 780Gはダイ面積のうち3分の2近くをRadeon HD 3200に割り当てている。これは、Radeon HD 3200が、チップセットに統合されているグラフィックスコアとしては初めてDirect3D 10(いわゆるDirectX 10、正式にはDirect3D 10なので、以降Direct3D 10に統一する)に対応しているからだ。Direct3D 10対応ということで、シェーダユニットもPixel、Vertex両方にシフトできる統合型シェーダユニットを実装する。その数40個。ちなみに、コアクロックは500MHzとされている。
Direct3D 10への対応を明らかにしている統合型のグラフィックスコアといえば、インテルのIntel G35 ExpressとIntel GM965 Expressがすでに存在しているという意見もあると思うが、実際のところ、両方とも、この評価作業を行っている2008年2月末の時点でDirect3D 10の対応ドライバが公開されていない。この時期は2008年の第2四半期以降にずれ込む見通しで、現時点では実質的に対応していないといってもいい。Direct3D 10が本当に使えるという意味で、AMD 780Gが統合型グラフィックスコアとして初めてDirect3D 10に対応したと考えていいだろう。ただし、同じ3000番台の型番ながら、GPU単体タイプのRadeon HD 3000シリーズが、Direct3D 10.1に対応しているのとは異なるので、スペックを比較するときには注意したい。
なお、AMD 780Gの下位モデルとして「AMD 780V」も登場する。こちらに統合されたグラフックスコアは「Radeon HD 3100」となる。
開発コード名 | チップセット名 | グラフィックスコア | UVD |
---|---|---|---|
RS780 | AMD780G | RADEON HD 3200 | 対応 |
RS780C | AMD780V | RADEON HD 3100 | 未対応 |
Radeon HD 3200では、UVD(Universal Video Decoder)で知られるMPEG-4 AVC(H.264)とVC-1に対応したハードウェアデコーダも内蔵している。また、Radeon HD 3200と同 3100ともに、GPU単体タイプのRadeon HDシリーズと同じくオーディオコントローラの機能とHDCPの暗号化鍵がノースブリッジに統合されている。そのため、ほかにハードウェアを追加することなくHDMIに対応したシステムを構築してケーブル一本で映像も音声も出力できる。ほかにも、次世代のディスプレイ接続端子である「Display Port」をサポートすることになっている。
AMDのCPUは内部にメモリコントローラを内蔵しているため、メインメモリの一部をグラフィックスメモリとして共有する統合型グラフィックスコアは、ディスプレイのリフレッシュがかかるたびにメモリアクセスが発生する。このことでCPUがより消費電力が低い電力管理モードに入れなくなってしまうという弊害があった。それを防ぐために、「ディスプレイキャッシュ」と呼ばれるキャッシュメモリをノースブリッジに接続できるようになっている。このキャッシュを利用するとOSがストールしているときにCPUの消費電力をさらに下げることが可能になる。ただし、デスクトップPCでは、ノートPCほど待機時の電力差がシステム全体の消費電力に大きな影響を及ぼさないので、実際に利用されることは少ないだろう。
AMD 780GとAMD 780Vのサウスブリッジは現行のSB600、ないしは新しいSB700になる。SB700ではSB600に比べてSerial ATAポートが4から6に、USB 2.0が12ポートにそれぞれ増え、USB 1.1ポートも2ポート追加されている。そのほか、RAID 5の構築が可能になった。
Radeon HD 3200は、PCI Express Gen2に対応したPCI Express x16のスロットを1つ実装できる。このスロットにグラフィックスカードを組み込んだ場合、これまでの統合型チップセットであれば内蔵のグラフィックスコアが使えなくなっていたが、AMD 780Gでは、AMDのGPUを搭載したグラフィックスカードに限って内蔵グラフィクスコアもそのまま利用できるようになっている。Radeon HD 3200、および 同 3100は、ディスプレイ出力が2系統用意されているので、2系統のディスプレイ出力が用意されたグラフィクスカードが組み込まれた場合は合計で4つのディスプレイを利用できることになる。
さらに、AMD 780GにRadeon HD 3450を搭載したグラフィックスカードを組み込むと、「Hybrid Graphics」と呼ばれるマルチGPU技術を利用して3D性能を引き上げることが可能になる。この機能はCrossFireのようなマルチGPU技術で、理論的にはCrossFireに対応するすべてのGPUとチップセットに内蔵されたグラフィックスコアとを組み合わせることができるが、異なるGPUを組み合わせた場合に発揮できるパフォーマンスは遅いほうにそろってしまう。そのため、ハイエンドのGPUとRadeon HD 3200、または同 3100と組み合わせるのは意味がない。そこで、Radeon HD 3200と組み合わせとしてバランスが取れているRadeon HD 3450がまずはHybrid Graphicsに対応することになったようだ。
なお、非公式ながら、RADEON HD 2400シリーズでも動いてしまうこともあるという情報がある。AMDではサポートしていない組み合わせであるが、試してみる価値はありそうだ。
AMD 780Gのシステムに、Radeon HD 3450を搭載したグラフィックスカードを差すと、デバイスマネージャからは2つのGPU(Radeon HD 3450とRadeon HD 3200)が見えるようになる。AMDのグラフィックス設定ツールである「CATALYST CONTROL CENTER」を利用すると、CrossFireを有効にするチェックボックスが用意されており、ここでチェックを入れるとRadeon HD 3450とRadeon HD 3200の組み合わせがCrossFireとして動作するようになる。なお、前述のようにRADEON HD 3200はDirect3D 10までの対応で同 10.1には対応していない。このため、Direct3D 10.1に対応しているRADEON HD 3450を組み合わせても、Hybrid Graphics構成ではDirect3D 10までしか対応できない。
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