マイケル・デル会長兼CEOのインタビューでも触れた通り、Dellは2007年に大幅な組織変革を行って戦略的重点事業を5つに絞り込んだ。具体的には、「コンシューマー」、「ノートPC」、「エンタープライズ」、「中小企業(SMB)」、「新興市場(BRIC)」で、コンシューマーとノートPCなどは各地域別にではなく、グローバルな組織編成が行われた。それらを束ねる、コンシューマー プロダクト グループ上級副社長 アレックス・グルーゼン(Alex Gruzen)氏と、ビジネス プロダクト グループ上級副社長 ジェフ・クラーク(Jeff Clarke)氏に話をうかがった。
まずグルーゼン氏は、Dellがなぜコンシューマー市場にこだわるのかについて説明した。「一番重要なのは、コンシューマー市場はDellにとって成長機会であるということだ。なぜなら、歴史的に見てDellのコンシューマー向けPCは売り上げのうちわずか15〜20%程度にすぎないにもかかわらず、Dellが長年広告を展開してきたおかでユーザーにとっては親しみやすい分野だからだ」と述べる。
「IDCの調査によると、2007年度のPC出荷台数の構成比は、企業向けが23%、中小企業向けが37%、コンシューマー向けが40%となっているが、Dellの製品構成比率は大企業向けに偏っており、コンシューマーPCにこそ大きな成長機会があると確信している。加えて、ここ数年は企業向け市場の成長率が鈍化する一方、コンシューマー部門は逆に伸びており、そのためにグローバルのコンシューマー部門を2007年に設立した」という。
「具体的に成長の機会はどこにあるかというと、世界的なトレンドとなっているモバイルPC分野がそれであり、もう1つはデスクトップPCの拡張と拡大にある。つまり今まで家庭でデスクトップPCが使われていなかったスペースに入り込める、新ジャンルの製品投入だ」と主張する。「間接販売においては多くの店舗で展開してユーザーの認知度を高めていくこと、パーソナライゼーションでは個人ユーザーの好みにあった製品に特化して、ダイレクトビジネスを強化していくことが大切だ」と解説した。
続いてグルーゼン氏は、「ゲーミングPCのカテゴリーも重要だ。なぜなら最新の技術が投入されるカテゴリーであり、ほかのユーザーに影響を与えるトップエンドのユーザーが多いからで、DellはXPSとAilianwareという2つのゲーミングブランドをすでに持っている。後者のAilianwareは、これまで米国と欧州の一部でしか販売していなかったが、今後世界的に製品展開を図っていく予定だ」と宣言。一部のWebサイトでは、XPSブランドの消滅もささやかれていたが、「それはありえない」と一蹴(いっしゅう)し「XPSとAlienwareでノートPC/デスクトップPCを問わずゲーミングPC環境を提供していく」とした。
2007年以降、Dellはコンシューマー向けPCをInspironシリーズに統合したり、デザイン性を重視した液晶一体型PC「XPS One」を投入したりと、製品ラインアップも拡大している最中だが「2008年は今までなかったカテゴリーであるUltra Mobile Device(UMD)に参入する。コンシューマーPCの分野でメジャープレーヤーになるためには、販売店の店頭で目立たなければならず、今はデザイン部門も大幅に拡充し、ユーザーの近いところでトレンドをいち早くとらえて開発をするのが大切と考えている」と解説する。
NetBookやNettopをはじめとした小型デバイスは、最近開催されたCOMPUTEX TAIPEI 2008でも話題を集めたが、そのDell版としてこの夏にも超小型プラットフォームのノートPCとデスクトップPCを投入予定だ。
1つは俗称でInspiron mini(正式な製品名は未定)とも呼ばれるミニノートPCで、試作機のボディサイズは横幅が23センチ、奥行きが18センチほどで厚さが15〜25ミリ程度。完全なモックアップなので重量は不明だが、手にした感じはそれほど軽くはなかった。左側面に2基のUSB 2.0×2、SDメモリーカード/メモリースティック/MMC/xDピクチャーカードのメモリカードスロット、無線LANの電源スイッチ、DC入力、右側面にサウンド端子、USB 2.0×1、アナログRGB出力、有線LAN端子が並び、背面はバッテリーが占めていた。
もう1つのグリーンPCと呼ばれる超小型デスクトップPCは、縦横両おきに対応した奥行き20センチ弱のカマボコ状のボディが印象的だ。「従来のデスクトップPCに比べてボディサイズが7割ほど小さく、消費電力も驚くほど低い」という。さらに「リサイクル可能な部品で作られており、静かでエコロジーかつ机の上に置けるデスクトップPCが欲しいというユーザーの声に応えたもので、キッチンとかテレビの脇などさまざまな場所にフィットするデスクトップPCを手がけていきたい。実際、デスクトップPCにはまだまだ伸びるチャンスは隠されている」と指摘した。
このほか、ユーザーと直接対話できるデルダイレクトモデルを活用し、米国などでは液晶ディスプレイの天板に斬新なデザインを焼き付けたモデルを発売している。「最近では著名アーティストやゲームメーカーともとコラボレーションしており、アートだけでなく、スポーツチームなども感性に訴えかける製品を投入したい。将来的にもこのラインを拡大していきたいが、普遍化したイメージではなく先鋭的なデザインを手がけていくつもりだ」という。
グルーゼン氏はデルモデルの象徴でもあったサプライチェーンについても言及し、「Dellは伝統的にBTO対応モデルを作ってきたが、小売店という間接販売が拡大するにつれて、同じようなスペックの製品を大量生産する必要が出てきた。これを従来と同じ低コストで行うためには、グローバルなサプライチェーンを変化する必要がある。近ごろ、Dellが製造工場を閉鎖しているが、これは最適なコストバランスを見つけている最中だからだ」と述べる。
「Dellの伝統的なモデルは、OEM/ODMメーカーが半完成品の状態でDellの工場に入庫し、それを仕上げる2ステップモデルであったが、これからはワンタッチマニュファクチャリングと呼ばれる、1つの工場で1つの製品に特化したものを作っていく方向に移行していこうと考えている。特にノートPCでは、ほぼ完成品を工場に仕入れる方向で進めており、実際に該当するモデルもすでにある」とした。
サプライチェーンの最適化を含めた効率化の取り組みはすでに顕著な成果が出ており、開発から製品化までの取り組みは従来の56週間から32週間に短縮し、サプライチェーンに関する経費も13億円削減できたという。
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