GeForce 9800 GTXに負けないっ! 新世代ミドルレンジ「Radeon HD 4850」イマドキのイタモノ(1/2 ページ)

» 2008年06月23日 17時16分 公開
[笠原一輝,ITmedia]

シェーダユニットの数は2.5倍、でもダイサイズは1.4倍という高効率デザイン

 Radeon HD 4850の特徴は、「効率重視デザイン」にある。AMD 上級副社長 兼 グラフィックス製品事業部 事業部長のリック・バーグマン氏は「RV770をデザインするにあたり、何よりも効率を重視するコンセプトを立てた。巨大なワンチップのハイエンドGPUというのは、消費電力の観点からも性能の面からも、すでに限界を迎えつつあるからだ」と述べる。

 別記事で説明したように、これまでのGPUは、初めに巨大なダイサイズのハイエンド向けモデルを500ドル以上の市場に投入し、それをベースに機能を削ったミドルレンジモデルやローエンドモデルなどのバリエーションを作っていくという設計思想を採っていた。しかし、バーグマン氏のいうように、この設計手法は限界を迎えつつある。この1つの例を消費電力という観点で見てみよう。

 PCI Expressスロット経由の供給電力は75ワット前後とされている。PCI Expressの規格を検討していた段階ではそれで十分と考えられていた。しかし、現在ではミドルレンジクラスのGPUでも、消費電力が75ワットを超えるモデルは当たり前だ。そのようなGPUでも利用できるように電源ユニット側にGPU用の電源ケーブルが追加されるようになった。

 当初は6ピン1本(75ワット程度、PCI Expressスロットからの供給と合わせて150ワット)だったが、最近ではそれでも足りなくなり、6ピンが2本(75ワット×2、PCI Expressスロットと合わせて215ワット)、ハイエンドGPUではこれでも足りず、150ワットを供給できる8ピンが登場して150ワット(8ピン)+75ワット(6ピン)+75ワット(PCI Expressスロット)の300ワットにも対応できるようになっている。

 このことからも、GPUの世代が新しくなるにつれて必要とする電力量が増えていることが分かる。実際、NVIDIAの最新モデルであるGeForce GTX 280ではピーク時消費電力が236ワットになっており、6ピン+8ピンの追加ケーブルをグラフィックスカードに接続しないと起動すらしてくれない。

 GPUの進化がこういった「膨張路線」を突き進めば、消費電力が300ワットを超え、1枚のグラフィックスカードで8ピンが2つ(375ワット)必要とする状況が来てしまうかもしれない。そこで、AMDはRV770を設計するにあたり、何よりも効率を重視した設計を行った。これは前世代となるRV670コア(Radeon HD 3800シリーズに利用されたコア)と比較するとよく分かる。

  RV770 RV670 比較
プロセスルール 55ナノメートル 55ナノメートル 同等
ダイサイズ 250平方ミリ 190平方ミリ 1.4倍
トランジスタ数 9億5600万 6億6600万 1.4倍
統合型シェーダユニット数 800 320 2.5倍
浮動小数点演算性能 1+TFLOPS 0.5TFLOPS 2倍以上

 RV770はRV670に比べてダイサイズとトランジスタ数が1.4倍になっている。RV770とRV670は同じTSMCの55ナノプロセスルールを利用しているので、トランジスタ構成数とダイサイズに関する条件は同じになる。単純に考えれば、この増えた40%がRV770の性能向上となるはずだ。

 しかし、性能を左右するスペックを比較すると、1.4倍ではなく、2倍以上の性能向上が実現されている。例えば、浮動小数点演算能力はRV670のハイエンドモデルであるRadeon HD 3870が0.5TFLOPSであったのに対して、Radeon HD 4850では1TFLOPSを実現している。統合型シェーダユニットの数もRadeon HD 3870の320からRadeon HD 4850では800と、実に2.5倍になっている。

 このように、ダイサイズやトランジスタは1.4倍の増加ながら性能では2倍以上も向上させている。これこそがRV770の最大の特徴といえるのではないだろうか。

Radeon HD 4850を搭載したASUSのグラフィックスカード「EAH4850」を今回の評価作業で使用した。グラフィックスメモリはGDDR3を512Mバイト搭載する。コアクロックは定格どおり。ASUSはグラフィックスメモリを1Gバイト搭載する「EAH4850/HDMI/1G」も発表している

テクスチャユニットやUVDを強化、シングルスロット厚の放熱機構も実現

 Radeon HD 4850のスペックを従来モデルのRadeon HD 3870、Radeon HD 3850と比べると以下のようになる。

  ATI Radeon HD 4850 ATI Radeon HD 3870 ATI Radeon HD 3850
統合型シェーダユニット 800 320 320
テクスチャユニット 40 16 16
レンダーバックエンド 16 16 16
Direct3D Direct3D 10.1 Direct3D 10.1 Direct3D 10.1
テッセレータ
ビデオプロセッサ UVD2 UVD1 UVD1
エンジンクロック 625MHz 775MHz 670MHz
シェーダクロック 625MHz 775MHz 670MHz
メモリ GDDR3 GDDR4 GDDR3
メモリクロック 1GHz(2Gbps相当) 1.125Gz(2.25Gbps相当) 0.83GHz(1.66Gbps相当)
PCI Express Gen2 Gen2 Gen2
PCI Express外部電源 6ピン×1 6ピン×1 6ピン×1
消費電力 110ワット 105ワット 95ワット
冷却ユニット 1スロット厚 2スロット厚 2スロット厚

 パフォーマンスに影響するスペックで注意したいのが、テクスチャユニットがRV670世代の16個から40個に増やされているところだ。これによってテクスチャの処理能力が向上し、全体的な3D描画性能もアップすることになる。現時点で詳細は明らかになっていないが、テクスチャの処理性能を示す指標であるフィルレートはかなり向上していると考えられる。なお、Direct3DはRV670世代と同じようにWindows Vista ServicePack1以降でサポートされるDirect3D 10.1に対応する。

 動画再生処理に利用されるUVD(Universal Video Decoder)も強化され、「UVD2」と呼ばれる第2世代に進化した。UVD2の最大の特徴は、同時に処理できる動画の数が2つに増えたことだ。これにより、最近のBlu-ray Discタイトルで採用されているPinP(Picture in Picture、フルサイズの動画の中に小窓で別の動画が表示されること)やBD-Liveのような新しい表示方式に対応できる。

 Radeon HD 4850は熱設計も見直された。消費電力はRadeon HD 3870の105ワット、Radeon HD 3850の95ワットより増えた110ワットであるが、シングルスロット厚のクーラーユニットが採用されている。これは、ヒートシンクやファンの構造を見直して放熱効率が改善されたことで実現した。とはいえ、今回の評価作業中にグラフィックスカードに触れてみたところ、だいぶ熱くなっていたので、冷却性能はギリギリなのかもしれない。

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